小説『十二属性戦士物語―第四章『初代の戦い』―』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第十四話「夢幻の占い師の予言」

――あれから何時間経過しただろうか。

俺は、実験室と書かれた部屋の外――即ち廊下で、俺を含めた四人が待機していた。無論、猛辣が水恋と

霧矛に対しての実験を終えるのを待っているのである。すると、僅かながら、俺は座っているベンチから

揺れを感じた。

「じ、地震か!?」

と、声をあげて隣を見ると、腕組みをしてイライラした様子の凜が貧乏ゆすりしている姿があった。

「おい……、ちょっと貧乏ゆすりやめて――」

「はあ?」

「あっ、……何でもないです。すみません」

「ふんっ!」

声をかけようとしたところ、ふっとこちらを振り返ってギロッと睨み付ける凜の姿を見て、俺は思わずなぜか

年下の凜に対して丁寧な口調で返した。

そっぽを向く凜を見て俺は、やはり凜は水恋と違って気が短い奴だ、と思った。

すると、プシューと扉が開く音が聞こえ、その方を見ると扉から白い煙と共に背の低い紫髪の少年が白衣を

纏って姿を現した。――猛辣だ。

「終わったのか?」

膝に手を置き、俺は猛辣に訊いた。

「ヒヒッ、ああ……。二人とも実にいい実験台を務めてくれた」

白衣のポケットに手を突っ込んだまま、猛辣はニヤリと白い歯を見せて口元に笑みを浮かべた。

「霧矛ー!お姉ちゃーん!!」

猛辣の“実験台”という言葉に反応したのか、凜が血相を変えて実験室へと駆け出して行った。

「……今はあまり無茶をさせない方がいいかもねぇ〜。特に体には触れない方がいい……。ヒヒッ、何せ

薬の効果がまだ続いているだろうからねぇ〜」

凜が中に入って行った後に口を開いた猛辣の言葉を聴いて、俺は首を傾げて訊いた。

「薬の効果?」

「ああ……。恐らく――」

と、猛辣が最後まで言葉を発しようとした刹那――「だ、だめぇええええええっ!!!」と、水恋の悲鳴が

実験室から聞こえてきた。その声を聴いて、俺も靄花達も慌てて実験室へと向かった。

そこには驚くべき光景が広がっていた。周囲には緑色のゲル状の液体が散らばっており、二つの台座の上には

それぞれ水恋と霧矛が拘束された状態にあった。おまけに、二人とも顔を真っ赤に紅潮させて呼吸も

荒かった。

「ど、どうしたんだ二人とも!?」

二人の様子を心配した俺は、少し焦った様子で二人に訊いた。しかし、二人とも気を失っているのか俺の声が

聞こえていないようだった。すると、彼女達二人の代わりに凜が代弁した。

「どうやらお姉ちゃん達は、あのチビ科学者の実験のせいでこんな状態になったみたいよ。しかも、相当

皮膚が敏感になっているのか知らないけど、さっき水恋お姉ちゃんに抱き着いたら突然悲鳴あげて気絶

しちゃって……」

そう、先程の水恋の悲鳴は、凜が水恋を心配に思ったあまり思わず抱き着いてしまい、その際に敏感になった

体に触れたために先刻の様なことが起こったのだ。にしても、猛辣の作り出した薬というのはとんでもない

ものだ。明らかに脅威とも言える。水恋が何かしら猛辣に秘密を握られているのも分かったような気がする。

しかし、今はそれどころではない。とりあえず二人とも無事ではあるようなので、俺は外にいる猛辣に声を

かけた。

「実験は終わったんだったよな?」

「ヒヒッ……、ああ終わったよ?」

「じゃあ、約束通り俺達の仲間になってくれるんだよな?」

「ああ、もちろんさ。例え断られても着いていくつもりだよ?何せ、こんなところで最高の実験台を

……しかも二人も見つけたんだ。手放す手はないよ、ヒヒッ」

「何を考えてるつもりか知らねぇが、実験は終わったんだ水恋と霧矛に手を出させはしねぇぞ?」

「チッ……。つれない男だねぇ〜。まぁいい。その内手は考えるさ。それに、君だって私を失うわけには

いかないんだろう?」

「くっ……」

悔しいが全く持ってその通りだった。こいつ――猛毒雲猛辣は、俺達同様伝説の戦士の一人だ。となれば、

何としてでもここで欠けさせるわけにはいかなかった。何よりも、ここまで順調に仲間を増やしていたところ

で手鼻を挫かれるのはどうも納得がいかなかった。

「二人ともいつまで睨みあってますの?」

突然俺達の会話に割り込んできたのは、相変わらず空気も読めないというバカお嬢様こと――潤木靄花

だった。

「ああ……お前か」

「お前ではなく、あ・い・か……ですわ!」

「ああ、はいはい」

「ちょっ、何なんですの!?その、ああ分かった分かった面倒くさいな〜、みたいな言い方は!!」

靄花が怒りマークを飛ばしながら俺に言った。閉じた扇子の先を俺に向けて言う姿は、まさしくお嬢様っぽい

のだが、どうも靄花の中身を知っているためにその雰囲気を打ち消している。いや、それどころかもっと

最悪な印象を植え付けている。

「それよりも、水恋と霧矛のこと頼めるか?」

「は?ま、まさか……この私に水恋さん達を運べとおっしゃるんですの!?冗談じゃありませんわ!誰がその

ような下級の行為など――」

「いやあ、こんな“天才”にしか出来ないようなことを頼めるのは“天才”である靄花にしか頼めないと

思ったんだが、無理なのか〜。そうか〜、ならいいや。“天才”のはずの靄花に出来ないんなら、別の人に

頼むか〜。おっかしぃな〜“天才”なら出来ると思ったんだけどな〜」

俺は明らかに意味ありげにしかも、棒読み的な口調でチラチラと靄花を横目に見ながら言った。すると、俺の

言葉に反応した靄花がピクリ!と眉毛を動かし、少し頬を染めて「し、しょうがありませんわね!ま、まぁ?

この高貴で天才な私にかかれば、水恋さんや霧矛さんをおぶることなど簡単なことですわ!!」と相変わらず

上手く俺の口車に乗せられてくれた。いやはや操りやすくて助かるというものだ。だが、さすがに靄花一人に

二人もおんぶさせるのは忍びない。そこで俺は、水恋と霧矛の従姉妹である凜にも頼むことにした。

「嫌よっ!!」

「えっ……?あの……、俺まだ何にも言ってないんだけど……」

「言わなくても分かるわ!どうせ、お姉ちゃん達を運べとか言うんでしょ?そんなのイヤよ!」

ふくれっ面になってそっぽを向き凜が応えた。俺は、どうして従姉妹である二人を助けてあげないのか、と

彼女に質問した。

「確かにお姉ちゃん達を助けてあげたいけど、私は力もないし……第一そんな下請の仕事は、あんたみたいな

庶民がすることでしょ?あんたは私のペットなんだから、ペットがご主人様に命令してんじゃないわよっ!!」

と罵倒された。

「えええ〜っ!?い、いや……前者は少しあってるかもしれないが、後者は何だよ!」

「は?あんた、私との約束もう忘れたの?」

「いや、あれはお前を守るって言ったわけで、何もペットに成り下がるなんて言った覚えは――」

「一度は首輪を着けられた身でしょ?それくらい我慢なさい!!」

理不尽だ。ただその一言に尽きる。

結局、水恋は俺が、霧矛は靄花がおんぶしていくことになり、そんな俺達二人の前方を寝ていて体力も回復

した風浮が元気よく鼻歌なんか歌って、大きく手を振りながら笑顔で歩いて行った。後方では、凜と猛辣が

相性も悪いせいか口論――というよりは口げんかをしていた。

そんなこんなで俺は、七人目の仲間――毒属性戦士の『猛毒雲 猛辣』を仲間にしたのだった……。

―▽▲▽―

ここは、エレゴグルドボト王国の鎧一族の砦。ここには、最強四天王と恐れられた四人の騎士と、自らを

『皇帝』と定めた鎧一族の王がいる。またここには、鎧一族が手綱を操っている『クロノス』と、

鳳凰一族の王である『鳳凰 鈴華』もいる。そして、そんな鎧一族の砦の最奥の広間に、一人の騎士が

現れた。――フェニックスだ。

「ふんっ、スパイダーの次は貴様か……フェニックス。何用だ?」

黄金色に塗られて様々な装飾を施された玉座に座っている老いた男が、フェニックスに問いかけた。側には、

首に首輪をつけられそこから鎖を伸ばしている、見るからに奴隷と言った感じの赤髪の少女が、光を失った

瞳で心配そうにフェニックスを見つめている。

「けっ、ファントムの言うとおりだぜ。ホントに鳳凰一族の巫女を奴隷にしてやがる!ホントにそんなこと

許されんのか?」

「ふんっ、貴様には関係のないことだ。何も知らぬ無知な青二才の小童よ……」

頬杖をついて赤髪の少女からワイングラスを手に取る男。

「確かにボスの言うとおり、オレは何にも知らされてねぇ……。今回の作戦――『七つの秘宝』捜索について

も……な。ファントムが二個目の秘宝を持ってきてたが、一体あんなモン集めて何するつもりなんだ?」

「貴様は知らんでもよいことだ」

「けっ、そうかよ……」

フェニックスが軽く舌打ちして踵を返そうとしたその時だった。突然、上から悪臭を放つ液体が落ちてきた。

それはドロッとしていて、透明に近い白色をしていた。フェニックスが天井を見上げてみると、赤く不気味に

光る八つの光と得体の知れない八本の何か、はっきりと確認できた。

「こ、こいつは!?」

「ふっふっ、貴様に見せるのは初めてか?丁度時間が来たのでな……来い、『アラクレ』」

「アラクレ?」

玉座に座る男――オルガルト帝が指を鳴らすと、暗がりの広間の天井に張り巡らされた蜘蛛の巣から巨大な

大蜘蛛が落下してきた。そう、不気味な赤く光る八つの光というのはアラクレと呼ばれる大蜘蛛の目で、

得体の知れない八本の何かというのは大蜘蛛の足だったのだ。

「ち、超デケェ……」

このような巨大サイズは初めて見るフェニックスは、驚愕して唖然としていた。

「さぁ、メシの時間だ……くく」

「飯?」

オルガルト帝の言葉がイマイチ理解できないフェニックスは、首を傾げて頭上に疑問符を浮かべていた。

と、その時フェニックスの視界に鈴華の姿が入った。よく見ると、彼女は足をガクガクと震わせて今にも

気を失ってしまいそうになっていた。その姿を見たフェニックスはさらに不審感を覚えた。彼は依然にも

鈴華にあったことがあるのだが、その時はまだこのような弱弱しい感じのおとなしそうな少女ではなく、

もっと強きでプライドの高そうな少女だったのだ。それがこの様に一変してしまっている。そのことが彼に

とってはどうも気がかりでならなかった。しかし、その鈴華がアラクレと呼ばれる大蜘蛛が姿を現した途端に

怯えだした。これが何を意味するのか――フェニックスにはすぐに理解出来た。

アラクレは赤髪の少女――鈴華を視界に捉えると、赤い瞳をさらに真っ赤に輝かせ長い八本の手の内の数本を

伸ばして鈴華のすぐ目の前にまで急接近した。そのスピードにはフェニックスも驚かされた。凄く広い広間を

覆い尽くさんばかりの大きさを誇るこのアラクレは、図体が大きい割にスピードも驚異的に速かったのだ。

その異常さに、思わず目を見開くフェニックス。だが、オルガルト帝は既にそれを知っているため平然とした

表情のままだ。一方で鈴華は完全に恐怖を覚え、ついには腰を抜かしてペタンと床に座り込んでしまった。

目じりに涙を浮かべて首を左右に振る。

「さぁ、たっぷりとかわいがってやれ……アラクレ」

オルガルト帝がニヤッと口元に笑みを浮かべるとアラクレは声を荒げて大きく口を開いた。すると、開いた口

から大量の唾液があふれ出し、丁度真下にいる鈴華に降り注いだ。おまけに、唾液は粘液を持っていて

ベタベタとまるで納豆のネバネバの様に糸を引いていた。鈴華は体中に付着した唾液の臭いに

中てられたのか、すっかりと顔を青ざめさせた。と、その時アラクレの口からヒュルヒュルと、ピンク色の

触手的な物が伸びてきた。その触手は、鈴華の体中に巻き付き、動けなくすると軽々と彼女の体を

持ち上げた。

「……や、いや……いやああああっ!!!」

そこで、ようやく今まで喋ることをしなかった鈴華が口を開いた。必死に拒絶し、悲鳴をあげ抵抗を示す

鈴華だが、抵抗虚しく鈴華は完全に動けない状態にされた。

刹那――触手が鈴華の小さな口に強引に入れられた。

「むぐっ!?」

目を見開き、一瞬鈴華は動きを完全に止めた。アラクレはその隙を逃さず、触手に何かを流した。その

証拠に、触手はまるでホースに水を送っているかのようにブクッと膨れ、管を通って鈴華の口の中へと

移動した。フェニックスはその光景に釘づけにされていた。決してオルガルト帝のように、こういう行為を

楽しんでいるわけではない。まるで金縛りにあっているかのようにこの場から動くことが出来なかったのだ。

ゴクゴクッと喉が鳴り、鈴華は完全にアラクレの触手により何かを飲まされた。そして全てを流し込むと、

アラクレは拘束を解き乱暴に鈴華を空中から床へと落とした。床に叩きつけられた鈴華は噎(む)せたように、

口に手を当てて激しくせき込んだ。口からは何か得体の知れない黒い液体がこぼれ出ている。どうやら、あの

謎の液体が先ほどアラクレに飲まされた物らしい。すると、突然鈴華が我を取り戻したかのように瞳に光を

ともした。

「くっ……こ、ここは」

「くく……ここはわしの城だ」

「あ、あなたはオルガルト?ど、どうして……わたしは確か、社(やしろ)で――」

「貴様の巫女の力が必要だったのでな……ここに連れてきたというわけだ」

今の状況が呑み込めず困惑する鈴華に、オルガルト帝は冷静に説明した。すると、鈴華が自分の今現在の

格好と首輪をつけられている姿に驚愕して声をあげた。

「ちょ、ちょっと何なのこれ!?」

「くく……目的を果たすまでのただの余興だ。貴様の役目はまだ先なのでな……。首輪を着けて操らせて

もらっているというわけだ」

「ふざけないで!!私は鳳凰一族を治める王、その役目をしっかりと務めないといけないの!さっさと

フレムヴァルトに帰して!!」

「う〜む、それは叶えられぬ頼みだな……おまけにマスターに逆らうとは何といけない奴隷だ。そんな愚か者

には盛大な罰が必要だな?くく……いいだろう、たっぷり味あわせてやる」

そう言ってオルガルト帝は、手に持っていた鎖に力を込めた。すると、バチバチと青い電気が鎖を通って、

その先の鈴華の首輪へと流れ込んだ。

「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

バチッバチバチバチバチバチバチッ!!!

凄まじい電撃は暗がりの広間を明るく照らし、電撃が消えると同時に元の明るさに戻った。

バチッバチッと、鈴華の体に残った僅かな電気が静電気と反応して音を出す。鈴華は体を痙攣させ、キッと

オルガルト帝を睨み付けていた。

「あ、あんただけは……ゆ、許さない……から!」

「ふんっ……まだ抗うか」

カチッ!……ビリッ、バチバチ……バリバリバリバリバリバリバリッ!!

「きゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

「わしに刃向かうからこのようなことになるのだ」

「くっ……神聖な巫女の体に、このような……ことをして許されるとでも――」

カチッ……。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「貴様に指図は受けぬ。わしはわしのやり方でやらせてもらう。貴様は、あの者たちと同じくただのわしの

駒の一つに過ぎぬ。そうと分かれば、駒は駒らしくわしの奴隷となって働けばよいのだ!!」

カチッ!!

「きゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

バチ……バチッ、バリ……。

「はぁ……はぁ、わ……分かった。分かったから、も、……もうやめ――」

「ふっ……忘れたか?貴様の指図は受けぬ」

カチッ!!

「きゃああああああああああああああああああああっ!!!」

バリ……バリッ。

「く……あ……、が……うっ」

バタッ。

連続で電撃攻撃を受けた鈴華は、さずがに体が持たず失神してしまった。しかし、失神してもなお体は痙攣

し続け、それを眺めていたオルガルト帝は高笑いした。だが、そんな彼女の姿を見ていたフェニックスは

一言も喋ることが出来なかった。

-41-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える