小説『Z/X 二律背面(アンチノミー) 第1章 突然始まる二重奏(デュオ)』
作者:奉遷()

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ねぇ・・・起きて?・・・起きてよお兄ちゃん・・・

お兄ちゃん?俺に妹はいないけど?

私みたいな可愛い義妹がいながら何言ってるのお兄ちゃん?

そう言ってアニメ声の可愛い妹は俺の体を揺らす

そうだったっけ?

もう、ひどいなぁお兄ちゃんは、もうこうなったら私も寝ちゃうもん

少し怒ったようにいうと妹はそっと俺の方に手を置いた

ねぇ、お兄ちゃん、私をギュッとしてて?そうしないと気持ちよく寝れないの

あぁ、わかったよ、おまえみたいな可愛い妹のためならいくらでもギュッてしてやるよ

ありがとっ、お兄ちゃん♪

俺は妹の体を引き寄せて抱きしめた

おいおいあんまり動くなよ

じたばたと暴れる妹をしっかりと抱きしめようとするが、じっとする気配はない

ドゴォ!                               ↑ここまで妄想ここから現実

鈍い音と共に鋭い拳が腹にめり込むのがわかった

〜数分前〜

「へぇ〜龍膽、あんたって結構・・・ていうかすごく強いんじゃない?」

声の主、青葉千歳は目の前にいる背の高い男に近づいていく

それと同時に自分を襲っていたプラセクトの巨大な体を見つめる

その体は少し(ここ重要)小さめの私よりも何倍も大きい

「そのようなことはない、それよりも千歳、これからどうするのだ?」

それをこの龍膽はたやすく倒してみせた、謙遜はしているが腕は相当のものだろう

「考えて・・・ない」

「そうか」

その龍膽が味方してくれるというのはとても嬉しいし、心強い

「ねぇ、龍膽」

「む?」

「改めて助けてくれたことに礼を言うよ、ありがと。あなたがいなかったら私はあそこで」

千歳の言葉は遮られた、それは言い終わる前に龍膽が話し始めたからだ

「礼を言うのはこちらのほうだ、千歳。お主は再びこの剣を握る理由をくれた、そしてなにより、私の中に志の火を灯してくれた、唯々世界の混沌に埋もれていくようにすべてを諦めてしまった我に、希望を灯してくれたのだ。あの子らを助けようとした千歳の姿、私には輝いて見えたぞ」

真っ直ぐな目でこちらを見つめる龍膽に少し気恥ずかしくなる

「そ、そんな大げさなもんじゃないって」

照れるように目を森の方に背けると、そこには誰かが地面に倒れているらしく足が木の陰から見えた

「あ、あ!あそこに人が倒れてるよ?助けてあげないとっ!行こうっ龍膽!」

「応っ」

少し離れたところにいたその人物は制服を着ている

どうやら男子学生のようだが・・・

「なんでこんなところに・・・ねぇ君、起きなよ、起きなってば!」

体を揺するが起きる気配はない

龍膽が寝ている青年の額に手を当てる

「むぅ、どうやら先程の奴の睡眠粉塵を吸ってしまったようだ、水でもかけてやれば起きると思うが・・・」

「普通に起きないの?」

そう言って千歳は更に強く体を揺すってみるものの、一向に起きる気配がない

「うーこんにゃろー」

両手を方にしっかりと置いてさっきよりも強くゆすろうとした瞬間

ガバッ!!

「うぇ!?ちょ、ちょっと!」

寝ていた青年がいきなり千歳の背中に手を回し、体を引き寄せた

「うわ、ちょ、私は抱き枕じゃないっての!」

しかし一向に起きない青年、それどころか抱きしめる力が強くなってる気がする

「千歳?大丈夫・・・」

「このっ!いい加減にッ・・・しろぉ!」

固く握り締めた拳を青年の腹に精一杯のチカラで叩き込んだ

ドゴォ!

急速に此方の意識は覚醒した

「ウッ・・・グッ・・・ゴホッ」

痛てぇ・・・さっき転げ落ちた時よりも数倍は

「やぁっと起きたなぁ〜?この変態!」

腹を抱えてじたばたしているとすぐ横から声が聞こえる

「?君は・・・誰?はっ!まさか俺の義妹ッ!」

「違うわっ!私にあんたみたいな兄はいない!」

確かに俺自身妹がいるなんて話を聞いたことがないが・・・

「って・・・ここは・・・」

見まわすと先ほどいた森の中である

ゴホンと咳払いが聞こえそちらを振り向くと目の前の少女が話を切り出した

「あなた、学生だよね?なんで学生がこんなところにいるのかな?まさか自衛隊の関係者じゃないだろうし、一人でここまで来れるとは思えないんだけど、どうやって?」

確かに俺は学生だが明らかに自分の目の前にいる少女の方が年下であろう、しかし先程に反して話し方は落ち着いている

「自衛隊?いや、気がついたらここに居たっていうか・・・君は・・・」

寝ぼけていた頭が急速に覚醒する、先程のカブトムシ、この少女

「君っ!?大丈夫だったのかあの虫がっ・・・まだこの近くに」

この少女は鹿の子供を助けるために石をぶつけた少女だ、そしてカブトムシが向かって行って・・・どうしたんだっけか?

「あの虫?あぁ、プラセクトのことか?それならもう退治したから大丈夫だよ。君、名前はなんていうの?」

「・・・柏 此方、君は」

退治?そういえばあのあと急に眠くなって・・・

「あたしは青葉 千歳(あおば ちとせ)よろしくね此方」

「千歳ちゃん?君って」

「ち・と・せ、ちゃんはいらない」

急に声に怒気が混じり始める

「だいたい君学生でしょ?だったら私よりも年下じゃない別に敬称はいらないけどちゃんってどうなのよ?」

としした・・・年下・・・・年下ぁ!?

「えっ!?だって君どう見たって中学せ」

空を切る鋭い音がし、千歳の比較的小さめの拳が目の前に現れる

え?今見えなかっ・・・

「次は・・・止めないよ?」

かぁさん、笑顔です、満面の笑みです

「はい、千歳さん・・・」

「千歳でいいって、それよりもじゃあ君もさっきのプラセクトにおそわれてたの?」

プラセクト?あぁ、あの虫のことか

「千歳・・・って強いんだな、あんなのを一人で倒せるなんて」

少し気恥ずかしいものの敬称はいらないようなので呼び捨てで頑張ろう

「いやいや、一人じゃあんなの倒せないって、倒してくれたのは・・・」

そういって千歳は後ろを親指で指した

そこにいたのは

「お初にお目にかかる、拙者は・・・」

「龍膽・・・刀の武人 龍膽・・・」

特徴的な赤い髪、頭に生えた二本のつの、そして腰に下げた長い日本等

ここに来る前、パソコンの画像で見たZ/Xのカード、【刀の武人 龍膽】そのもの

「なに、龍膽?知り合いなの?刀の武人って?確かに龍膽、刀を使ってるけど」

「いいや先程も言った通り初見だ。お主、此方といったか?なぜ拙者の名前を・・・」

龍膽は不思議そうに此方を見つめる

が、此方は話のほとんどは聞こえていなかった

なんで、なんでZ/Xのカードにいるキャラがここにいるんだっ!?

どう足掻いても行き着く結論はひとつしかなかった

「ここは・・・ゼクスの世界・・・なのか?」

-4-
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