〜エピローグ〜
僕は、ある雑誌の小説コンクールの特別審査員として、出版社にいた。
今でこそ文豪と呼ばれているが、僕がそう呼ばれるきっかけとなったのは、『日常の中の非日常』という本だった。
昔出会ったある少女との事を綴った小説。あの時の出来事は、僕の中に大きな変化をもたらした。あの出来事が無ければ、今の僕は無いだろう。
彼女にもう一度会えたなら、僕はせめて『ありがとう』と伝えたい。
「あれ、これ。岡本さんの代表作と同じタイトルですね」
「本当だ。偶然かな?」
「え?」
僕達の向かう長テーブルには、送られてきた幾つもの作品が積んである。審査員の一人が、僕に一つの原稿用紙の束を渡した。
それのタイトルは、『日常の中の非日常 〜匿名希望の男に贈る〜』だった。
胸が高鳴る。『もしかして』その思いが膨らむ。
僕は、ゆっくり、噛み締めるように、それを読み始めた。