小説『日常の中の非日常』
作者:つばさ()

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あれから数年が経って、私は大学一年生になっていた。



その日は一時限しか授業がなくて、私がその本にであったのは、家に帰る途中、気まぐれで古本屋に寄った時だった。

大きな本棚が三つ立ち並んでいて、お客はほとんどいない。たくさんの本の並びをなんとなく見ていた私は、ある本を見つけたところでピタリと動きを止めた。


『日常の中の非日常    作者:岡本博紀』


その本を手に取り、パラパラとページをめくる。そこには、作者が出会った、ある少女とのことについて書いてあった。そして、その女の子セリフのところで、私はある事を確信した。


『じゃあ、あなたの事はカイさんって呼びますね』


ああ、やはり、カイさんは岡本博紀だったんだ。カイさんが最後に言った言葉で、なんとなくそうなんじゃないかと思っていたけれど。でも、彼がそれを隠そうとしていたのなら、それに従うべきなのだろうな。

私が出会ったのは、カイという愛称の匿名希望の怪しい男だ。


私はふと、ある事を思い出した。
手に取っていた本を急いで本棚に戻し、陳列した本棚の横を駆け抜け、駅に向かって走り出した。


たくさんの人でごった返した大通りをただただ走る。道行く人が私の方を振り向いて、怪訝な表情をするのを横目に、まだ走る。
息が切れて足も疲れてきたのに、止まろうとは思わなかった。


それどころか、もっと、もっと速くって、気だけが焦っていた。


改札口を通って、ホームに来ていた電車に駆け込んだ。

たったの一秒でさえも惜しいと感じるほどに、私は衝動に駆られた。



目の前の景色が流れていく。いつもは、電車ってなんて速いんだろうと思うのに、今日はなぜか、流れていく景色がスローモーションに見えた。



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