小説『ハイスクールD×D〜魔乖術師は何を見る?〜』
作者:ロキ()

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唐突にすまないな。俺の名前は明人(ライト)・シュトレンベルグ。魔乖術師兼剣刀師という複雑な経歴の持ち主だ。


「おーい、明人〜!どこだ〜?」
「ここにいるよ、父さん」


俺は柱の影から出て父さんーー騎人(ナイト)・シュトレンベルグ。旧姓清夢(すがむ)騎人に顔を向けた。


「そこか。帰るぞ。これ以上は俺がヨルにしばかれる」


今父さんが口にした名はヨルミルミ・シュトレンベルグ。【闇】の現当主にして俺の母親。勿論魔乖術師だ。


「それは父さんを心配してるからでしょ?いい事じゃないか」
「それは勿論そうなんだがな。だけど、ヨルはーー母さんはお前の事を一番心配してるんだぞ?」


父さんはそう言いながら苦笑している。心配してもらえるだけでもめっけ物だろうに。相変わらず鈍いな。


「そういえば、今日は桜さんが来るんじゃなかったっけ?」
「…あ」
「あ〜あ。知らないよ?後でどんな目に会っても」
「え!?一緒に弁解してくれよ!」
「嫌だね。自業自得だよ」


俺はそう言いながら山を降りていく。真っ二つにされたニメートル近くの岩を放置して。



場所は移り、シュトレンベルグ本家。其処には怒り心頭と言った感じの母さんと、不機嫌そうな桜さんが座っていた。ナナさんは仕事の都合上来れなかったらしい。


「ただいま、母さん。お久しぶりですね、桜さん」
「お帰りなさい。騎人(ナイト)、ちょっと話があるのだけど」
「ち、ちょっと待ってくれないか?ヨル。俺もシャワーを浴びたいんだが」
「問答無用」


父さんが母さんに耳を引っ張られていた。絶端の免許皆伝を持っている人とは思えない。俺は隣に立っている女性に目を向けた。


「ん?どうかしたかい?」
「いえ…相変わらず綺麗だなと思いまして」
「あはは、君も相変わらずだね。サラッと褒める辺りが特にね」
「そうですか?俺は事実を述べているだけですが」


「……ごめんなさい」


「?一体どうしたんですか?突然」
「僕の所為で君は……」
「ストップです。桜さん」


俺は人差し指で桜さんの可愛らしい唇をふさいだ。こんな美人を悲しませる訳にはいかないからな。


「桜さん、別にいいんですよ。俺は元々こうなるんじゃないかって思ってましたから。
勿論この世界は嫌いじゃない。父さんがいて、母さんがいて桜さんとナナさんがいる。そんな暖かい家族と16年間一緒にいられたんだ。後悔なんてない。強いて言うなら、サリナともう逢えないという点だけかな」
「僕にもっと力があれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに」
「桜さん、強すぎる力は争いを呼ぶ。人は自分の大切な人を守れるだけの力があればいい。それでも足りないなら、いつか勝ってください。最強は【絶端】なのだと証明してください」


絶端の剣は、人に逢うては人を斬り、鬼に逢うては鬼を斬り、神に逢うては神を斬る。斬れぬ者無しという文句付きの流派だ。俺はそこの免許皆伝を貰い師範代クラスになった。


俺の師匠は桜さん。まだ20代だというのにも関わらず、父さんすら凌駕する程の実力の持ち主。曾祖父ちゃんの絶端剣人(たちばなそうど)の養子であり、俺の叔母に当たる全然そうは見えないけど。


「俺にとって、最強は【絶端】だ。他の七剣八刀(ソード・オブ・ブレイド)なんて知ったこっちゃありません」
「簡単に言ってくれるね…。でも、分かった。君の約束は守ろう」
「…ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます」
「僕も一緒に行こう。お見送りは必要だからね」
「そうですか」


これから俺がどこに行くのか?それを話す前に、俺の体質について話そう。


まず俺は特異体質の持ち主だ。俺には他人の魔力を取り込む事と取り込んだ魔力と同系統の術を使えるようになった。これは通常ではあり得ない事だった。本来、一つの体に別系統の術を使えるようになるなんてもっとあり得ない。

魔乖術師の家は八家あるので【八祖】と呼ばれている。まあ、一家はすでに断絶してるんだが。それはさておき、俺はそれらの家の術を簡単に使える。そんな異分子をこの世界に残す訳にはいかない。だからこそ、俺は異世界転移という刑に処される。他ならぬ神という存在に。


「まあ、此方の要望には全部応えてくれるらしいし、問題ないよ」
「…どうして君はそんな平然としていられるの?僕は考えるだけでこんなに…胸が痛いのに」
「それは貴方が優しいからですよ、桜さん。俺だって苦しいですよ?でも皆じゃなくて俺だから。これでサリナが連れていかれたら、俺は発狂してますね」


「自分の身を案じる事のできない者に他者を案じる事などできない」


「父さん…。説教は終わったかい?」
「まあ、な。それとサクラ」
「なんだい?騎人(ナイト)君」
「何を言っても無駄だ。明人(ライト)が頑固なのは知ってるだろう?」
「そのセリフ、そっくりそのまま父さんに返すよ」
「うるさいわ!……またいつか逢おう」
「……っ!うん、またいつか」


俺は後ろに現れた扉に気付き最後の別れなのだと、改めて自覚させられた。


「たとえ世界は違っても、私達はあなたの事を考えているから」
「ありがとう、母さん」


そんな事は無理だと分かっていても、その言葉はとてもありがたい。俺は異世界、いやさ異次元に飛ばされると同時にこの世界から俺というバグの残留つまり、痕跡は全て排除される。そう…記憶さえも。


「僕は頻繁に跳ぶからね。きっと会えるよ」
「ありがとう、桜さん。その言葉だけで凄く嬉しいよ」


『そろそろ時間だ。準備はいいな?』


「分かりました」


俺が扉に手を掛ける寸前で桜さんが飛びついてきた。ちょっと!?


「桜さん!何してるんですか!?早く離れないと桜さんも…」
「やっぱり君を行かせるなんてできない!」
「くっ!【風転扇開】!」
「【千刀波】」


瞬時に張った風の結界を手刀で破壊された。くそっ!こういう時、その強さが忌々しく思う。


「ちょっと桜さん!何してるんですか!?」
「やっぱり僕には無理だ!だって僕は!」


桜さんが何かを言おうとした瞬間、扉が開いた。神様も痺れを切らしたらしい。


「ちょ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「くぅっ!?」


俺の後ろの扉にあったのは真っ黒な闇。それは全てを分解するものらしい。これで体と魂を分け、その後に魂を他の肉体に詰め込むらしい。つ・ま・り、ここで肉体とはお別れって訳だ。

それでも俺は、意識が無くなるまでその手を握り続けた。

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