小説『少女はなぜ笑う』
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秋月由梨菜は、極々普通の女子高生だ。
一度も手を加えていない髪は漆黒で美しかったが、彼女の青白い肌色と組み合わされば、それは病的な関心へと変わってしまう。
目の上まで伸びた前髪を手で払いながら、由梨菜は山奥を進んでいた。
薄暗く、常人は近寄ろうとしない雰囲気を放っていたが由梨菜は自身の欲望を達成すべくただただ、黙々と突き進む。
目指している場所は、つい数日前知った「願いを叶えると言い伝えられる神社」だ。
どうやら正式名所はないらしく、本当に存在するかさえも疑問だったが、今までの生活から抜け出せるなら、と藁にもすがる思いでやって来たというわけだ。
由梨菜は、学校でいじめられているわけでも、疎まれているわけでもないが、あがり症で、人見知りな性格を、いつも嫌っていた。
心では何とかしようと思うものの、どうやっても勇気が出ないようで、「おはよう」その一言さえも上手く言えないのだ。
それでも、毎年何処かには居場所が出来るのは、周りが同情しているか否、孤立した人間を作らないようにしよう、というリーダーシップからか。
何はともあれ、由梨菜はそんな自分の性格を変えたいのだ。
このままでは、自分の心をいつになっても開けない。そんな焦りが彼女をここまでさせた。

山奥を突き進んでいくと、小さな川に着いた。
不気味な森には不相応な綺麗な水色の川に、何だか感銘を受け、手で受け皿のような形を作り、水をすくう。そのまま口に運びごくんと喉を鳴らすと、張り詰めていた緊張が少し緩み、肩を落とす。
「何してるんだろう…」
ぽつりと口から漏れた言葉は、軽い後悔の念。
すぐにハッとして口を拭い、立ち上がる。いけないいけない、と軽く頬を叩き、思考を覚醒させる。
「自分のため、なんだから」
確認するように呟き、自身の言葉に頷く。そして由梨菜は再び、深い茂みの奥へ入っていった。

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