小説『とある賢妹愚兄の物語 第2章』
作者:夜草()

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学園テロ編 嵐



駐車場



――9月30日、学園都市で『嵐』が吹き荒れていた。


多くの人間を翻弄し、常に歴史の転換点に吹き荒れる『運命』という名の嵐。

その嵐に巻き込まれた者は、必ず決断を迫られる。

そして、一つの決断はさらに多くの選択と決断を強制し、波紋は波紋を呼んで、ドミノ倒しのように世界を席巻していく。


――誰であろうとも。


本人の思いと末路とにかかわらず、一度吹き始めた『嵐』はとめどなく他人へ影響し続ける。

それは、魔術師や、能力者ですら例外ではない。

世界のシステムを歪ませる、喰らい尽す怪物ですら、『運命』という嵐に抗う術はもたなかった。

この学園都市においても、同じだ。

すでに『嵐』は学園都市という街を席巻し、多くの決断に迫っている。

逃げる事も留める事も叶わぬ『嵐』が、新たなドミノ倒しを始めようとしている。

故に。

産声を上げよう。

この『嵐』の中を羽ばたく、希望と願いが集約した『神上』の誕生を。


 

 


「asf狂asd凶aefc恐fewa!!」


完全なる黄金の輝きが文明破壊の紅火に侵食され、悶え苦しむように揺らめく。

最悪の暴走兵器<失敗作り>に狂わされた最悪の殲滅兵器<聖騎士王>。

失った完全性を求め、延々と『龍脈』を注ぎ込み続け―――しかし、その<絶対王剣>は呪怨の焔に変質していた。

生前は最強を誇った<円卓騎士>が、百鬼夜行の如き魑魅魍魎が跋扈するアカい呪怨の焔を纏う死の軍勢へと変ず。

アカい炎に灼れた鎧の隙間、その身体から、黒い瘴気を噴き出し、明かりが射し込まない夜の暗闇が広がる。


「我hdoc応sdk!!」


水溜りができるように次々と生まれる黒穴。

王の呼び声に応えて、無間へ続く黄泉の穴から骸達が這い溢れる。

国を滅ぼす怨嗟の声を上げながら奈落の底より甦った骸は際限なく増殖し、淀む事無く学園都市を覆い尽すだろう。

その『完全』と『不完全』の混沌は『全てを喰らう』というたった1つ命、弱肉強食の理を世に示すためにその実体をもった地獄。

それは騎士団と言うより病の類の方が正しい。

そして、


「詩歌君!! 早く逃げ―――なっ!?」


<冥土帰し>は言葉を失う。

病院車の壁になるよう<聖騎士王>の前に対峙する上条詩歌の姿が1つではなく、“ぶれ”ていた。

全く同じ位置に、無数の『上条詩歌』が重なって存在しているのだ。



「混成、<玉虫>「――黒「――白「――赤「――青「――黄「――千入」」」」」」」



己の存在を、<玉虫>によって創造し、<原初の石>によって形を与える。

そして、『同調』。

自然の生命力を循環し、澱みを浄化させ、性質を上化させ、己を賦活させる。

<幻想投影>を<幻想投影>が同調し、上条詩歌が上条詩歌の力を増幅させる。

合わせ鏡のように己の力を増やす。

まさに、無限機関。

しかし、人の身では制限ができる。

天は人の上に人を作らず、人の下にも人を作らない。

だから、その合わさった無限の力を1つにまとめる為に、その『殻』を破る。

兄が『浄化』だとするなら、妹は『上化』。

『戻すもの』とは対の『進むもの』。

そして、『神浄』であり、『神上』。



「「「「「「「――<五色絢爛>――」」」」」」」



少女自身の存在を詩にして歌うように、黒髪が広がり、その周囲に5つの光の柱が聳え立ち、調律に合わせるように螺旋に渦巻き、混じり合い―――鳳凰へと変じた。


「「「「「     」」」」」


鳳凰は自らの生誕の福音を表現するかのように5つの妙なる声音を高らかに響かせる。

『人』ではなく、『世界』そのもの。

そう彼女は、上条詩歌ではなく、『神上詩歌』。

『幻想』と化した身体が、能力よりも魔術よりも、奇蹟的な現象を創り出す。


「詩歌君! 今すぐそれは止めるんだ!! 人に戻れなくなるぞ!!」


カエル顔の医者は叫ぶ。

この現象は、かつて<能力体結晶>による能力暴走実験の被害者の治療の際に<乱雑解放>を抑え込んだ時と類似していて、それ以上の戦慄が彼の心を急き立てる。

しかし、少女には届かない。


「――――」


少女の顔に、笑みは無い。

そこにあるのはただの無。

そして、その虚空の瞳が示す先には、この空を埋め尽くさんばかりに増殖した黒い屍の山。

雲霞のごとく亡者の軍勢が、絶え間ない散弾となって、彼女を、街を喰らい尽くそうとする。



「「「「「「「――混成――」」」」」」」



少女の清らかな声が、世界に響く。



「<麹塵>―――
 「<深赤>―――
  「<黄丹>―――
   「<梔子>―――
    「<深紫>―――
     「<深緋>―――
      「<深蘇芳>―――



1つ1つの分子を震わせる、力の籠った声音が幾重にも重なる。

いつもの限られた状況下ではなく、『色』は<五色絢爛>により枷を無くなり本来の力を発揮し、それがさらに増幅し、混成され―――創り出す。

鳳凰は、その五つの色が織り合わさり、光が取り巻く両翼を大きく広げ―――輝く羽が舞い落とす。

ひらひらと、雪のように。

愛するものを一度失ったあの夜のように。

そして――――流転する。


「―――ow喰ラウdc喰ラウada喰ラウdfg喰ラウasdc喰―――」


次の瞬間、王の赫怒に触れたように天上から黒炎の雪崩が降り落ち、少女を押し潰す

しかし、黒炎の軍勢の前に立ちはだかるのは、『絶望』を、『不幸』を吹き飛ばす『色』。

この街を地獄に埋め尽くす亡者の軍勢が大津波だとするなら、それは世界さえも吹き飛ばす運命の嵐。

その領域に黒炎の滝の暴威を弾く―――いや、防御などとは生易しいものではない、そう、それは遮断。

この世の理さえも断絶するその聖域(から)は、たった1つの例外を除いて何者にも侵害を許さぬ。



「―「―「―「―「―「―「――千入混成、<禁色>――<虹>パターン――!!」」」」」」」



<麹塵>、<深赤>、<黄丹>、<梔子>、<深紫>、<深緋>、<深蘇芳>の人には禁じられた七色の多重混成、<禁色>。

その効果は、『万物を幻想へ自在に変換する』――まさに変幻自在。

この<禁色>が生み出した羽に触れた物は、どんなものであろうと『神上詩歌』の力に変わる。

『不幸』さえも取り込んで『幸福』に。

羽が降り注ぐ領域は、『神上詩歌』の支配する聖域なのだ。

『世界』と化した『神上詩歌』に境界はない。

全ての存在を投影し、全ての存在と同調し、全ての存在は吸収される――故に無敵、敵など存在しない幻想の隷属。

人間に許されたその力の領域を超えている。



―――    ―――



ただし、肝心の『神上詩歌』の“意識だけ”は停止している。

『世界』に意思など存在しない、ただ、その感覚だけが機能している。

無限に広がる大海(せかい)に、1粒の水滴(いしき)を落とせば、それは集合無意識に取り込まれて無に等しい。



―――――投影する―――――



それでも、ぼんやりと上条詩歌は思考する。

眠っているように、夢の中で思考する。

夢幻の中から、『神上詩歌』を操作する。

これは『この世でただひとり、生の苦しみより解脱した解答者』で、『地上でただ一人、生命の真意に辿り着いたもの』と称される仏教の開祖、釈迦――ゴータマ・シッダールタが悟りに到達する以前の過程として習得した技術と同等のもの。

元々王族だった釈迦は、生老病死、現実の非情さに悩み、自ら出家に至った。

その際何人もの思想家や仙人と出会い、そこで生み出された『神上』の境地に、心を至らせる瞑想の境地に達したと伝承にある。

そのひとつが、『非想非非想』

すなわち非想――想わない。

だが非非想――想わないにあらざる。

意識しないという事さえ無い。

完全なる無を、その技術は体得させる。

本質的に悟りには関係なく、その境地へ早々至った釈迦を除いて、釈尊の弟子にしても、その技術を受け継いだとされる者はほとんど見られない。

しかし、上条詩歌は、至っていた。

思想家や仙人と出会った釈迦と同じく、数々の人とその願いと希望から生まれし異能を投影してきた事によって。

故に、ありとあらゆる幻想が交り合った混沌の中でさえ、一定の自我を保つ事ができる。

想わないので他人の意識にも染まらず、想わないでもないので、一定のパターンに則って行動できる。

そして、その力を絶対の意思を持つ強き者に託す。



―――――神様が描いた現実に幻想を投影する―――――



そして、無限から生まれし、無敵の力を、夢幻の思考によって操る『神上』たる存在の背中から無数の森羅万象を彩る翼が解き放たれた―――



世界が――幻想的な虹色に、染まっていく。



虹色が、世界に降り落ちていく。

それは、ひどく優しい色だった。

静謐で、雄大で、圧倒的で、そして、温かで―――人を癒し、力を与える色。

学園都市全体へ、その色合いは染み込んでいく。



―――お願い、力を貸して―――



そして、残骸達は、知る事になる。

どのような思想や性格だろうと―――この街の頂きに立つ者には、大きな共通点があるのだと。

それはすなわち―――世の理を無視できるほどの、圧倒的な『強さ』に他ならない。





別荘



凪のように止まってしまった少年に希望の風が吹く。


「    」


救い難き少女の前で修道女は滑らかなメロディと共に歌う。

少年、一方通行にはどんな言葉なのかは分からない。

だが、修道女の詠唱には感情があった。

言語の壁を超えて、友を想い、街を想い、皆を想い、そして、打ち止めを想いやるその気持ちを確かに感じていた。

その声にどんな意味があるかなど、知らないし、ただ単に打ち止めの手を取って痛みを和らげようとしているだけなのかもしれない。

それでもこれは立派な救いだった。

この温かい光の中にあるような詠唱は、途絶えさせてはならない。


「―――ah喰sラウdk喰adラウlqwe喰l―――」


灯りに群がろうとする蟲のように終焉を起こす残骸がこの廃墟ビルを取り囲む。

それらはこの<大天使>とは別の場所に存在する<大天使>を統率する核となる少女を狙っていた。

この<大天使>さえ消えれば、天誅の砲撃も、守護も喪失し、思うがままに街を蹂躙できるのだから。

瞑想状態に入っている修道女は細く長く一心に祈りを込めて歌うも、残骸を退けるような力はなく、何より歌を止めさせてはならない。


助けたい。


正しい事は正しい人間がやるに相応しい。

善行は善人だけがやるべきだ。


『私はやりたいようにやっているだけ。<偽善使い>ってヤツです』


なんて、筋などどこにもない。

世界の区別など関係ない

偽って善が成せるのだから、例え悪人でも人を助ける権利はあるのだ。

例え傍若無人に振る舞ってきた学園都市最強の悪党でも、守りたい者を守ってもいいのだ。



―――助けて、あー君―――



無限の可能性を秘めた虹色の翼が舞い降り、浸透する。

雨は、人に知られず、人に厭われ、それでも人の為に、そして、己の為に雨を降らす。

そうだ。

太陽では照らせない、闇の奥に蔓延る悪(どろ)さえも一掃できる豪雨を降らす黒雲となれ。

既存のルールを全て捨てろ。

可能と不可能をもう一度設定しろ。

目の前にある条件をリスト化し、その壁を取り払え。

彼女の想いと共に伝わるこの『力』を糧にする。

凪の時間は終わり、彼を中心に巻き起こる風は、疾く嵐へと化け、ビル壁を昇り詰める残骸たちの黒炎が―――吹き消される。

そして、彼らは見た。



「sjo雨du成a」



目覚めた『悪魔』の姿を。

背中から勢い良く噴射する翼。

黒よりも黒く、光さえも呑み込むブラックホールのような、正体不明の<黒翼>。

<一方通行>は『種類を問わず、あらゆるベクトルを制御下に置く力』。

科学的に説明のつかないイレギュラーな法則、『神秘(オカルト)』であっても例外ではない。

Level5としての演算能力を失っていようが、今、虹の加護を得た『悪魔』に限界などなく、『新たな制御領域の拡大(クリアランス)を取得』し、『<自分だけの現実>に新規の通信手段を確立』―――そして、『進化』する。



「ihbf殺wq」



ドォッ!! と覚醒した『悪魔』の<黒翼>が爆発的に噴射。

説明不能の不可視の力が少女を狙う骸達を噛み砕く

地獄の亡者を欠片も残さない破壊のベクトルの暴嵐域は、プラズマの残像が尾を引く音速の数十倍を超える速度で夜空を掻っ切った。

断末魔を上げる機会すらも与えず、骸の軍勢を殲滅した。





道中



林のように静かに平然と少年は立っていた

猛然と迫り来る醜悪な侵略者を前にして、微塵も臆する事はなく、視線すら向けはしない。


「最初は、気が乗らなかったんだが―――はっ、なるほど。これは俺にピッタリな仕事って訳か」


少年、垣根帝督の周囲が白の力場が広がる。

<未元物質>。

『この世に存在しない素粒子を生み出し、または引出し、操作する』という創生の力。


「しかし、欲しいぞ、この力の源が。ああ、これは良い」


垣根はそれを掴むかのように右腕を伸ばし掌握し、この無限に生命力が、想像性が溢れる感覚に陶酔する。

残骸の兵団は、自分達をまるで意に返さない少年に牙を突き立て、呑み込もうと大口を開けた―――だが、地から飛び出た白き槍が軍勢を刺し貫く。



「俺を次のステップに昇華させる為の足がかりになる―――だが、その前にゴミ掃除をしなくちゃな」



垣根帝督の視界に入る事さえも許されない。

己の力に染められた地面から天を突くほど巨大な、仄かな白光を放つ大樹が生える。

それは留まる事を知らず、次々と、瞬く間に林となり、鬱蒼とした森となる。

突如として道路上に生長した樹木は、先端は槍のように鋭く、そして、無数の枝――の形をした機関銃が生い茂っていた。

自然と科学の融合したそれは人知を超えた、この世に存在しない、この世の理にさえも逆らう創生者の兵器。

垣根帝督は、その森の中央に浮かびながら、あの世の底から這い出る蟻の如く亡者を見下ろし、嘲笑う。



「試し撃ちだ。遠慮はするな。存分に喰らえ、虫けらども」



次の瞬間、<未元物質>により構成された機関砲から爆音と共に、千を超え広大に拡散する弾丸が一斉に吐き出され、物語の終演を魅せるように、美しい幾何学模様で死の閉幕を描く。

この弾丸も<未元物質>により作られたものだ。

速度は音速を超え、ただ通り過ぎるだけで破壊の嵐を巻き起こすソニックブームを生じさせるほどの超音速。

狙いは定められていなかったが、あらゆる力学を無視して標的へと向かう自動軌道修正(ホーミング)。

さらに、弾丸の先端は槍の如く鋭利で、超合金さえ紙のように貫通する威力はこの世の法則を遥かに超えた物であり、

そして、着弾した瞬間、1発でビルさえも粉々にでき、あの世のものさえ蒸発させる圧縮された破壊力が解放される。



「今の<未元物質>は、非常識すらも通用しねぇ」



繁茂する創生の樹林の発する幾多の衝撃が絡み合い、生まれたその猛り吠える龍の如き竜巻は、視界を純粋な破壊力で埋め尽くし、引き裂き、残骸の軍勢を全滅させた。





繁華街



その性格を表すように、女は猛火のように苛烈に、ビルの屋上から止まることなく撃ち続ける。

本人さえも御し切れない<原子崩し>が生み出す破滅の電子線。

しかし、狙いを付けずとも勝手に当たるほど地上は海のように大量の骸で溢れ返っている。


「気に喰わないわねぇ」


女、麦野沈利は苛立たしげに眉根を寄せる。

この次から次へとひらひら落ちる中での枯れ葉掃除のように一向に減る気配のない雑魚の処理―――だけではない。

この空から舞い落ちてきたこの虹色の翼にもだ。

このどこか覚えのある感覚に、麦野は苛立ちを覚えるのだ。

しかし、それよりも。


「フン」


降り注ぐ極太の光の柱は、黒に染まる大地を洗い流す。

だが、絶え間なく現れる黒い影。

群れより押し出された骸共はこのビルの足元にまで溢れ出している。



「コイツも気に喰わねぇが―――テメェら虫けらどもの方がよっぽど気にいらねぇ!!」



麦野沈利が束で取り出したのは、<原子崩し>を『線』の狙撃から『面』の絨毯射撃へと変える<拡散支援半導体(シリコンバーン)>。

厚みのあるカードを束ごと折り曲げると、噴水のように夜空へ高く跳ね上がる。

そして、月光を映して白く輝くカードが、宙でバラけるその光景は―――まさに万華鏡。

重力に引かれて木の葉のように舞い降り―――麦野の周囲におぼろげな破滅の光球が浮かぶ。



「み・な・ご・ろ・し・か・く・て・い・だ!」



いつもならこれほどまでに一遍に、一瞬に、精密にこの小さな的を狙い撃つなど<能力追跡>の補助があってもできるものではない。

しかし、今なら―――できる。

……この虹の力のおかげだと言うのが、非常に不本意だが。



「とっとと私の視界から消え去りな」



十数本の光の柱は、万華鏡を通過し、何百と拡散し、さらに各々もう1枚の万華鏡を通り、千を超える光の槍へと爆発的に分散。

結果、雨のように数え切れぬ光の槍に串刺しにされ、骸達の身体は塵へと変わる。

無限増殖する骸共といえど、瞬時に数は戻せず、下界を覆い尽くしながら横切る網目の電子線に野火にかけられたようにみるみるうちに大群を減らし―――視界から1匹残らず消滅した。





街中



1人で対戦略級の力を秘めたエリート集団を、その少女は陰から指揮を振るう。

己の『派閥』外の子、また、非正規部隊<猟犬部隊>でさえもこの虹の翼から供給され、拡大し、強化した領域内に入ってしまえば、従順な僕となる。

少女、食蜂操祈はこの盤上(せんじょう)を掌に思うがままに転がす。


「あー、この不気味力満載なガラクタを相手にするのは面倒なんだけどぉー。詩歌先輩の頼みは断れないわよねぇ」


この憶えのある温かな感覚。

優しい優しい聖母の温度。

視られ、探られ、操られたこともあるのを知っているのに避難せず、それどころかより優しくなっていく、食蜂が最も敵には回したくない先輩ものだと分かる。

そして、内より聞こえる声はその彼女からの救援だ。

だから、やる。

やらない理由が、無い。

ただし、自分の手でやるとは言わないが。

優雅さの欠片もない野蛮な獣どもに、辟易したように食蜂は軽くリモコンを指揮棒にし振る。



「はぁーい、皆さん一斉射撃。ここから先は体を張ってでも、蟻一匹通しちゃダメだゾ☆」


「「「「「「「「「「了解シマシタ」」」」」」」」」」



銃弾が、手榴弾が、携行ミサイルが、数を武器に押し寄せる大軍へと飛び交う。

不死の軍勢に対し、女王の命を受け、死を恐れずハイエナ達が一歩も引かず、文字通り体を張ってでも足止めをする。

されど、呪怨の焔を纏いし亡者になり果てようと、その身に沁みつくほど騎士であった者達。

状況を見るや否や突撃の最中に戦列を作り、満遍なく広がった陣形から、研ぎ澄まされた突撃槍(ランス)のように、密度を上げる。

ごっ、と風が爆ぜた。

無数の残骸達が、ただ1匹の獣と化して、牙を剥く。

<空気風船>や<衝撃拡散>の加護があろうと、たかが人の作ったバリケードなど一瞬で砕け散るであろう、獰猛なる突撃。

それを前に、食蜂操祈は、



「さぁーて、アナタ達。息の合った結束力を発揮しちゃってね♪」



ただ指揮を振るう。



「「「「「「「「「「ハイ、女王」」」」」」」」」」



それだけで、総計でLevel5にも匹敵する絶対可憐無双乙女集団が解き放たれた。


まずは、『派閥』の中でも実力者、学内で6つある『委員会』の委員長――通称、<六花>が仕組んだ罠。


バリケードに刃が届くまであと少しと、一本の槍となって突き進む軍勢が一気に沈む。

<擬態光景>による物理性を持ったホログラムで足元を隠され、さらには視角を除く感覚を麻痺させる<感覚遮断>により惑わされた幻像の中に、予め<運命予知>により、そこへ来るであろうと計算された大穴。

落とし穴の底には、<植物操作>により異常発達した蔓が待ち構えており、落下した衝撃に反応して絡み付き、騎士の骸を捕縛する。

当然暴れ、子供のように腕を振り回するも、獲物を捕らえる蟻のように整然と、そして、粛々と<影絵人形>に作られし、実体化した影が覆い尽くし、石牢の如く押し固める。


そして、生じた硬直を狙い撃つかのように、


地をも震わせる衝撃波を発する生徒会長―――<振動使い>の激震が。

空を突く発射点を作る砲弾お嬢様―――<空力使い>の激天が。

水、氷、霧を操る技巧の<水蛇>―――<水力使い>の激流が。


大地が引裂かれ、突風が吹き荒れ、津波が押寄せる。

3年、2年、1年と其々の学年で『四天王』を除き屈指の攻撃力を持つLevel4の猛威に次々と骸の軍勢は打ち払わ、地盤沈下した渦の中へと呑み込まれる。


<心理掌握>はあくまで精神系能力に過ぎず、個人的な破壊を不得手とする食蜂だが、組織的な戦略を掌握するのは得意分野だ。

学園都市で『5本の指』に入り、最も最優の指導者たる<微笑みの聖母>の『能力開発』を受けている常盤台中学生。

普段は蝶よ花よと暴力とは無縁なお嬢様達さえ、女王の命があれば、恐怖心を失くし、手加減も忘れた、およそ50と少数ながらも万の軍勢にも等しい天下無双の精鋭兵団と化す。

濁流に抗い、他の残骸を足場にしてなお突撃しようとも、<六花>を含む常盤台生に悉く薙ぎ払われる。


「私の縄張り(テリトリー)に、野蛮なガラクタは一歩たりとも踏み入る事を許さないわ」


陰に潜む最上の支配者は、強力なカードを掌握し、骸の大群を弄ぶ。





道中



聳え立つ不動の山脈の如く、残骸達の前に仁王立ちする漢。

計測不能の最大<原石>、<第七位>、削板軍覇の行動は単純で、漆黒の雪原へと飛び込み、骸を掴み、周囲を道連れのするよう投げ飛ばす。

ただし、それら一連の行動は、音速の2倍の速度で行われている。

キュガッ!! と炸裂する凄まじい轟音と共に、人間手裏剣のように超音速で飛ばされる骸の身体は、這い出た亡者の群れを、粉砕し、黄泉に叩き戻す。

数の暴力で押し潰そうにも、両手を頭上へ掲げただけで火山噴火のように吹き飛ばされる。

目まぐるしく戦場をかけながら、単身で残骸を圧倒し―――不意に立ち止まる。


「この感じは……」


天上から降り注ぐ虹の羽に込められた想い。

常人には理解できぬ、彼にとっても初めての現象。

初めてだけど、納得できた。

彼女と出会い、あの頭の先から爪先までを電流で打ち貫いたようなあの感動を体験した身からすれば、これはひどく親しみのある色合いだからだ。

そして、何より―――


「了解した」


一向に止まらない呪詛の狂騒を前に、削板軍覇は頬を綻ばせる。

がちがちと膝が震えていた。

これは、恐怖による震えとは違う。

あの少女に頼られた、身体の奥底からこみ上げる、どうしようもない歓喜と熱情による震えだ。


「詩歌さん。あなたの根性に応えるためにも、全力、いや、全力以上で死ぬ気で根性を出す!!」


右拳を引き、足を開いて、ここで初めて構えを取る。

思い出すは、この身体に刻み込まれたあの拳。

ひどく単純で―――一途な拳。

あまりにも真正直な、あまりにも小細工のない真っ直ぐな一撃だからこそ、己は惚れたのだ。



「うおおおおおぉぉっ!!!」



惚れた女に頼られて、本気を出さなければ、根性が廃る。

叫び声と共に強く踏み出し、



「―――真すごいパンチ!!」



大山を砕いたような轟音が響く。



『正しい拳』と書いて正拳。

削板軍覇がしたのは、ただ真っ直ぐに拳を突き出しただけ。

しかし、その単純な行為も、音速の3倍を超える<第七位>のいつも以上の速度で、解析不能の破壊力を秘めた<念動砲弾>が限界以上に加われば、それだけで対人必殺を超える対軍必滅の一撃と称するに相応しい威力に膨れ上がる。

地震のような強大な揺れと共に巨大な不可解な圧力が前方へと飛び、骸の大群に隕石でも通り抜けたような烈風が吹き抜けた。


「これが本物の根性だッ!!!」


今宵の<第七位>は一味も二味も違う。

険しい山脈を覆い尽くす万を超える軍勢だろうと、この常識を覆す漢を超えるのは不可能であった。





道中



少女は勇ましい雷神の如く、金色の衣を纏い、残骸を電光石火で撃ち払う。


「これなら、どうかしら!」


横薙ぎの閃光が大気を灼いた。

残骸達の正面に前触れなく出現した光の奔流が、激しく骸に噴きつける。

数億Vの電流を相手に叩きつける雷撃の槍だ。

騎士の鎧を身に纏おうと横一線に易々と突き抜ける。

そして、残る残骸に蛇の如き砂鉄の剣が走る。


「ったく、何だか知らないけど、ちょっと数多過ぎない? ここまでは流石に想定してなかったわよ」


<猟犬部隊>を軽く調理した後、いきなり現れた不気味な残骸。

あの幻想御手事件で出てきた<幻想猛獣>に近い。

治安維持機能が麻痺し、人々は気絶し、過去例を見ない異常事態の街の中。

今の学園都市で立ち向かえるのは、少女、御坂美琴を含むごく少数の人間だけ。

アレが人ではない、生き物ではない事から、加減はしていないが、この物事の限度を知らぬ道理を狂わせる無限の軍勢は、地上を埋め尽くし、天空を覆い尽さんばかりに巨塔へと伸びる。


「何よ、あれ……あんなのが街中に落ちてきたら冗談じゃないわよ」


この身に宿る最高の電撃系能力なら地上を蠢く残骸の処理なら容易。

しかし、己の代名詞とも言える必殺技、超電磁砲の攻撃範囲はおよそ50m。

<大天使>の攻撃を掻い潜り、黒雲よりもなお黒く空を漆黒へ染めるあの軍勢まではどうしようもない。

そして、今、<猟犬部隊>の相手をしていた事もあり、この数え切れぬ残骸を相手に『電池切れ』と呼ばれる状態に近い。

その時、美琴の元に虹色の光が届く。


「えっ……詩歌、さん」


足りない。

あの天上を穿つには、力が足りない。

だけど、確かに聞いたのだ。

だけど、確かに届いたのだ。

あの優しい姉の声を。


「ええ、簡単よ」


緊迫していた心が解れる。

ぐるん、と軽く肩を回す。


「なーに、不安になっちゃってんのかしら、私」


信じられる。

確信できる。

今なら。

この優しい虹色に包まれた、今ならば。

御坂美琴は満腔の自信を以て、能力を展開していく。



「昔、星を作るって約束した事があったわよね。だったら、アレくらいどうにかしなきゃ」



ドッ!! と。

御坂美琴の背中には、刃のように薄く鋭い、青白く輝く大小6枚の翼が展開される。

これは、磁力を操る砂鉄の剣の応用で、周囲に存在する水分子を集めた形成させたもので、水分子を消費しバーナーのように噴射しているのだ。

大気中の水分子が絶妙な比率で分布された状況下限定なのだが、今回はこの天候と、煉獄を喚起する『鬼』の暴走の残滓により、幸運にもその環境が整っていた。

しかし、これは飛翔の為ではなく、あくまで“これからの反動”に備えたものだ。



「これだけあれば十分。さて―――」



光が、集う。

出力が10億Vを軽く超える<超電磁砲>による亜光速で発射される強烈な水鉄砲――荷電粒子砲。

途轍もないエネルギーを刹那に凝縮し、その両手に其々正と負の電子を収束する黄金の力線が集中していく。

そして、数珠繋ぎのように無数の小さな輪を描いて強力な磁界を作り、間を通る電子線を波打たせるように曲げている。

波打つ雷光の力線から生み出された光は磁力の輪で捉えられて弾丸から流れが加速していくと共に細長い矢へと成長する。

そして、弓を引くように大きく腕を開き、



「―――行くわよ」



発射。

巨人が大槌を叩きつけたような大音響と、大群の足が止まるほどの地響き。

体が吹き飛ばされそうになるが展開したブースターがブレーキになる。

それは文字通り光の線だった。

生じた衝撃波だけで残骸の大群を吹き飛ばす。

まさに神話に出てくる天を望むバベルの塔を罰した雷のように、地上から放たれた黄金の光が、空を覆う黒い汚泥を打ち消し、夜空を翔け、暗雲を貫き通して空へと消えていく。





爆心地



虹の加護を得て、<大天使>――風斬氷華の放電に似た破壊が治まり、彼女の心のままに守護の鱗粉が学園都市を覆う。

街中で繰り広げられる『風林火陰山雷(Level5)』が存分に発揮できるのは、彼女の守りがあってこそだ。

そして、ここにいる愚兄(Level0)もまた同じ。


(―――ここで、余計な小細工などいらない)


僅か2歩で射程距離に入る5m先でヴェントが重たいハンマーを持ち上げ、構えている。

そして、その背後には『不死』の魔法陣が刻まれた『鞘』が地面に突き立てられている。

あれを破壊せぬ限り、この騒動は止まらない。

しかし、その為にはヴェントを倒さなければならない。

体調が復帰し、複数の空気の鈍器を重ね合わせ凶器を生み出す『前方のヴェント』。

本来、『自分に敵意を向けた者を全て叩き潰す』<天罰術式>と組み合わせることで、ほとんどの人間が敵わないであろう相手だが、上条当麻には<幻想殺し>がある。

だがら、空気の鈍器のみに集中する。

小細工なし、条件は同じの真剣勝負。

周囲の瓦礫がガラリと崩れた音を合図に、2人は一気に飛び出す。


「さあ! 実力を見せてみな!!」


ハンマーが何度も空を切り、一度に7つもの暴風の鈍器を生み出す。

そして、そのベクトルはギュルリと渦を巻き手1つに複合し、大嵐の杭と化した。

その撃ち出される速度は、常人には反応できない。

でも、愚兄は臆せず、回避行動すらも取りもしない。

速く。

深く。

重く。

右拳がさらに力を増し、加速する。

ほんの僅かでも狙いがズレれば、確実に終わりだ。

その事実を全て理解して、なお愚兄は怯まない。



『勇者(ペルセウス)』の1番の武器は、どんな時も前へ進む勇気。



(学園都市や風斬氷華が抱えている危機的状況も)



ただ誰よりも信頼する妹が信じる己を上条当麻は信じる。



(ヴェントが囚われている、科学への憎しみも)



打算もなく、小技もなく、震えもない。

『疫病神』になってしまった姉の最大の一撃を真っ向から全力で迎え撃つ。

やるべき事、全ての幻想(ふこう)をここでぶち壊す事のみに集中する。



「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」



『疫病神』同士、兄と姉は叫ぶ。

杭の余波で爆発拡散し細かい霧状となった雨粒が瞬間的に、視界を塞ぐ。

それでも己の為すがままに突き出した愚兄の拳は、杭とほぼ同時に激突し――――打ち砕いた。


「まだだッ!!」


ヴェントの残る渾身の力で振り下ろされる有刺鉄線の鈍器。

<幻想殺し>では打ち消せない本物の鈍器。



「俺は、最善の選択肢が取れない愚か者かもしれねぇ」



当麻は左手に巻き替えていた<梅花空木>で、その脅威を受け止め、



「だけど、俺は、馬鹿だから、どんな時でも妹が誇れる最高の兄への道を行く!!」



そして、愚兄の右拳が―――『疫病神』の身体の奥深くまで、その衝撃で打ち貫いた。


(お前は……本当に……馬鹿だ)


姉は、想う。

心底から罵倒する。

どうしようもなく、羨望する。

そして、愚兄は『鞘』を壊し、倒れゆく彼女へ言う。


「だから、ヴェント。テメェも弟の幸せを願ってんなら、その世界一凄い事をした弟が胸を張れるような、世界一お前の幸せを望んだ弟に胸を張れるような、そんな世界一の姉になってくれ」


その言葉に込められた熱に、凍り付いていた大地が雪解けを迎えたように姉の頬に涙が伝う。





駐車場



天地の境界線は無い、現実と幻想の狭間に意識を漂わせていた少女は、そっと微笑する。



「ありがとう」


少女は念じると、離れていても繋がっている虹の翼を通して彼女、風斬氷華から声が返る。


『お礼なんて……言わないでください』


聞こえる風斬の声は震えていた。

全部、自分のせいなのに。

自分がここにいなければ、街が破壊される事もなかったのに。

何故、自分だけ無傷なのだ。

何とか命は無事だが、それとて僥倖としか言いようのない、単なる幸運の積み重ねだった。

本当なら、この場に死体が出ていても何の不思議でもなかった。

そして。

それを、風斬は自分の責任だと思っている。


『結局、私って何なんですか!?』


街の人達の力のおかげでようやく存在できるのに、少しでも近付いただけで、街を壊してしまう怪物。

一緒にいる事は許されないのに、何故自分は存在しているのか。

そして、何故助けてくれたのか。

あの時強くなろうと誓ったはずなのに、どうしても、逆らえなかった自分の弱さが辛くて、悔しくて、哀しかった。


『折角あの子に『友達』って言ってもらって、それで少しは人間らしくなれたと思ったのに。私は化物のままだった!!』


それは違う、と思う。

人間らしくなったからこそ、見える世界が広がったからこそ、風斬は何もかも抱えようとして、その結果に悩んでしまう。


『アナタまで危険な目に遭わせてしまって……もう嫌ですこんなの。お願いです。これが終わった後、私を壊してください』


自分の命よりも、ただ皆の事を心配する。

だから、


「それはできません。だって、あなたはインデックスさんの『友達』であり、当麻さんの『友達』であり、そして私の『友達』なんですから」


風斬は、両目を見開く。

その『友達』という言葉に。


「それに、私が手を貸したのかもしれませんが、街を、皆を守ろうと全力を尽くしてくれたのは風斬さんです。胸を張ってください。風斬さんは『化物』じゃなくて優しい『人間』。だから、私はここに―――」


別れぬ分身のブレが収まる。

<鳳凰の翼>も薄っすらと空間に溶け込んでいく。

そう、この街で戦ってくれた者達のおかげで、風斬氷華が全力で街を守ってくれたからこそ、



「―――お兄ちゃんの隣に、戻る事が出来ました」



『神上詩歌』から『人間』に戻れないほど大きく境界線を超える事はなかった。


 

 


「もう、終わりにしましょう」


王に集いし残骸が大群となって、『上条詩歌』に押し寄せる。

まるで抱く憎悪に取り込むように、黒炎の残骸は、一斉に詩歌に迫り、呑み込み―――


そして、『嵐』が起きた。


温かくも綺麗な虹色が世界を埋め尽くし、そして、それはやがて全てを浄化する穢れ無き純白へと変わる

騎士の骸が砕け、潰れ、あるいは溶け、破裂し、歪み、次々とこの世から消滅していく。

断末魔は聞こえない。

むしろこの優しい羽に抱かれて、渦巻く憎しみが消えていく。


「as我hdk王sjd反hdj逆na罰ahj!!」


心なき『完全』なる人造兵器、<聖騎士王>は終焉を喚起する。

<絶対王剣>の漆黒の刀身に、赤き文様が浮かび上がる。

刻まれた精緻な魔法陣に型取られた呪怨の炎が浮かび上がり、巻き付いているのだ。

さらに、大きく広がり、それに合わせて刀身自体も巨大に延長されていく。

失った『不完全』を埋めるため許容限界を遥かに凌駕して加速度的に成長し、見る間に100mを超える長さまで成長した。



「sgdje滅adwwッ!!!」



『龍脈』を喰い尽し、怨嗟の風を巻いて、低い唸り声を上げ、<絶対王剣>が灼熱。

流出する暗黒の光を収束し、回転し、臨界点まで達する。

己れ以外は全てを塗り潰すとばかりに赤い文様が踊り狂うのように周囲に纏う黒炎の太陽。

<聖騎士王>の黒銀の鎧さえも赤熱させるその威力は、本来の絶対的王位による劫罰の極光すらも雲散霧消させるであろう。

だがしかし、



「<禁色>―――<無>パターン」



上条詩歌から鳳凰が真っ白な神浄の光となって飛び立つ。

それが何もかもを喰らい尽さんと燃え盛る暗黒のフレアだとするなら、それは、天地開闢を、その太陽すらも創生するビックバン。

渦巻く旋風が空間を歪ませ、激しい閃光が世界を染め上げる。

闇を切り裂き、死を一掃する無数の光の羽が、疾風怒涛の嵐の如き竜巻となりて<聖騎士王>へと殺到する。

それは<幻想殺し>のように力を0にする消滅とは対極、攻撃も防御も全てを己の力とし、∞の生み出す<幻想投影>。



「asw我sdf王――――――」



世界最悪の魔導師『マーリン』が生み出した最悪の人造兵器<聖騎士王>、そして、それが生み出す限りなく増殖する不死の軍団は、抗う事なく閃光に呑み込まれ、静かに形を失い、消えていった。



つづく

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