小説『とある賢妹愚兄の物語 第2章』
作者:夜草()

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閑話 チャリティマッチ開幕



???



『うっ……ここは一体……?』


『ひひっ。どうやら意識を取り戻したようだねぇ……』


『だ、誰だアンタは!? っつか何で――さん、両手両足縛られてるのー!?』


『いっひっひ。それはここが悪の組織で、君をこれから改造手術するからだよぉ』


『ちょ、マジで!? ――さんショッカーにされちまうのか!?』


『かかか、そんなに怯えることはねぇよ小僧。なーに、ちょいとコイツをしこたまつまんで、この杯を呑み込んでくれれば良いんだよ』


『待て! その得体の知れないモンはすっごい見覚えがあるぞ! 確か『鬼の瘤』―――』


『男ならガタガタ文句言うんじゃねぇ!! ほら、腹減っただろ? この儂が直々にあーんしてやる』


『おっさんにやられても全く嬉しく―――もがっ!?』


『大将……。そりゃあ、いくら何でも強引過ぎまっせ』


『良いんだよ、若ぇんだから。良し、食ったな。吐き出すな。吐き出したらその倍はおかわりさせてやる。次はこいつだ。こいつを飲み干すんだ。おっと、鼻はつまんでおかないと。おい、小僧の分はできてるか!』


『いひひっ、ばっちりさぁ。最高傑作だよぉ、ボス。なんだったら、一生外れないようにその顔に縫合しても良いんだけどねぇ………いひひひひっ!』


『お頭〜! あの子またおかわりを要求してきました!? もう買い溜めの分もありませんよ〜!!』


『ああん、なら適当に売店から買って来い! ダッシュだ!!』


『組長、保護者代表――様への説明が終わりました。是非、参加したいとの事です』


『かかか、よーし! あとは『虎』とこの企画人のブレイン様からの助っ人を待つのみ』


『大将……。そろそろ呼吸させてあげないと溺死しまっせ』


『がほ!? ぼほ!? ぶ……こ、おだ……』





スタジアム 控室



非常に慎ましやかな、清楚で気品漂う麗しの天下御免のお嬢様学校――常盤台中学。

政財界にも多大な影響力を及ぼし今時珍しい頭の固い女子校、だがしかし、逆らえないものもあるにはある。

例えば、学園都市の『統括理事会』からの保護者の学生回収運動に対する企画など………


「はいはい、皆さん静粛に」


と、教師達からまとめ役に抜擢された上条詩歌がパンパンと手を叩いて、ここにいる選抜メンバーを促す。

しかし、ここにいるメンバーは優雅で上品、豪奢で瀟洒な常盤台のお嬢様の中でも能力面はとにかく、一癖も二癖も三癖もある曲者揃いのお嬢様達――通称『TKD14』がそう簡単に人の言う事は考えにくい。

『Level5は常識外れの性格破綻者』囃し立てられるように、能力者はLevelが高いほど確固たる<自分だけの現実>――つまり信念や個性を持っているものである。


「あー、詩歌先輩はとにかく、何で御坂さんと同じチームを組まないといけないのかしらぁー? 不満力が爆発しちゃいそう♪」


最大『派閥』の支配者で最上の精神系能力者の<|心理掌握(メンタルアウト)>、『常盤台の|女王(クイーン)』こと食蜂操祈。


「私だって、アンタと組むなんて、背中から刺されそうで絶対いやよ! っつか、詩歌さんに何かしたらぶっ飛ばすわよ!」


学園都市の広告塔で最高の電撃系能力者の<|超電磁砲(レールガン)>、『常盤台の|姫様(エース)』こと御坂美琴。


「鬼。少しでも変な真似をしてみろ、先生に代わって、すぐに貴様を氷漬けにしてやる」


忍びであり、水を自在に操る新入生期待の<水蛇>、『常盤台の|騎士(ジャック)』こと近江苦無。


「詩歌っちも教育が甘いねぇ。こういうガキは根性焼きでもして、先輩を敬うっつう精神を身体に刻みつけてやるのが一番なんだよ」


凶悪暴走な<赤鬼>で最強の火炎系能力者の<鬼火>、『常盤台の|暴君(キング)』こと鬼塚陽菜。


「この婚后光子! 詩歌様の為に全力を尽くして頑張ります――ですから、白井さん、足だけは引っ張らないでくださる?」


常盤台の転入生で、何でも空高く飛ばす<|空力使い(エアロハンド)>、『トンデモ発射場ガール』こと婚后光子。


「それはこっちの台詞ですの、婚后光子。お姉様と大お姉様のベストパートナーはこのわたくし白井黒子、ただ1人」


街の治安を守る<|風紀委員(ジャッジメント)>で、希少な<|空間移動(テレポート)>で空間を渡る『腹黒テレポーター』こと白井黒子。


と同じチームなのにバチバチと火花を散らす者達や。


「あ〜ん……詩歌ちゃ〜ん……私〜……運動は苦手だよ〜……」


大地さえも震わす<|振動使い(サイコキネシス)>の最高学年の三番手、『のほほん生徒会長』こと音無結衣。


「詩歌お姉ーさん、お腹減ったのです」


枯れ木にさえ花を咲かせる<|植物操作(グリーンプラント)>のうら若き樹木医、『腹ペコ自然委員長』こと緑花四葉。


「しぃねぇ、能力は使ってもOKなの?」


魅せる光、<|擬態光景(トリックフィールド)>の双子の劇場演出家、『きまぐれ美化委員長』こと出雲朝賀。


「朝賀。それ、しぃ姉さんがさっき言いました」


隠れる影、<|影絵人形(トリッキードールズ)>の双子の舞台裏監督、『きまじめ文化委員長』こと出雲伽夜。


「マリア……眠い……」


未来を予測する、<|運命予知(ラプラスフォーミュラ)>の怠惰な予言者、『まどろみ図書委員長』ことデスティニー=セブンス。


「し、しし詩歌お姉様!! きょ、今日も大変………」


五感麻酔、<|感覚遮断(センスパラライズ)>の小動物の薬剤師、『おどおど保健委員長』こと里見八重。


「あははー、燃えてきますね。僕、スポーツは大の得意ですよ、|師父(しぃふ)


広大な感覚網、<|基礎強化(フィジカルブースト)>の体育会系の僧侶、『僕っ子広報委員長』こと九条葵。


など静粛など全く聞いておらず自分勝手に騒ぐ者達、と。

お嬢様達は手当たり次第に騒ぎ、あちこちで侃々諤々、全く統制がとれない。

とりあえず、この人選を要求した『統括理事会』とOKサインを出した教師陣にはもう少しこちらの負担を考えて欲しかった。

だが、こういう混沌に秩序を与える為に自分は。

そう、最優の秘密兵器で最新の賢者でもある<|幻想投影(イマジントレース)>、『常盤台の|聖母(ジョーカー)』こと上条詩歌はいるのだと。


「はい、皆さん元気なのはいい事ですが、静かにして下さい。もし騒ぎ続けるなら―――」


パァン、と詩歌は握り締めた拳銃を天井へ向けて発砲した。


「これから、皆さんには殺し合ってもらいます」


控室は水を打ったように静まり返った。

その“にっこり”とした表情に互いに手を取り合うものや、バッと起きて姿勢を正す者、青ざめて震える者まで、


「し、し、詩歌様がご乱心!?」


「どこから拳銃なんて持ってきたんですか!? 危ないですよ!?」


「安心してください、光子さんに、美琴さん。徒競争の『よーいどん』の合図に使う奴ですから。大きな音が出るだけです」


「それでも鼓膜とか破れるから十分に危ないよ、詩歌っち」


まーまー、と詩歌は安心させるように微笑みながら、こほんと咳払いして、


「私も、できれば手荒な真似はしたくないんですよ? 体罰反対。恐怖政治なんてもってのほか。だから、このピストルは、最大限の譲歩で、最後の警告。これでもまだ、無駄な騒ぎを繰り返すだけのようなら―――」


冷たい、この部屋は空調管理されているはずなのに、冷たい冷たい風が荒涼と吹き荒れる。

どんどん顔色を失くしていくお嬢様達に対し、どんどん“より笑みを深めて”いき……そして、優しい声で、



「―――もっと悲惨な目に遭うかもしれませんね……」



その微笑みの奥の、笑っていない瞳で彼女達を射た。

ほ、本気だ!! とその時、本能的に危険度を察したか、悪意や暴力を回避する術に長けたお嬢様達はお喋りを止めて、軍隊の整列もかくやという練度で綺麗に姿勢を正した。


(フフフ、そんなに怖がらなくても、ちょっとした冗談なのですが)


うずうずしながら猛獣使いが使うような鞭を握り締めて、詩歌は作戦会議を進行する。





スタジアム グラウンド



「野球! それは青春! 野球! それは戦争! 野球! それは世界の合言葉! 白い球を無邪気に追いかけ回る人間どもを鑑賞するのも乙なものだが、自らその馬鹿騒ぎに加わるのもまた一興! 踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃ損々―――という事でプレイボール!!」



青々とした人工のものではないが芝生が敷き詰められた広大なグラウンド。

マウンドで、真っ赤なユニフォームに、不死鳥にデザインされた“覆面”を被った大男がマイクも無しに観客席にまで届くような素の声量で開幕を宣言する。

その左側の三塁側のラインにはアップを済ませた常盤台中学の面々が整列している。

彼らは全員、この日のためだけにわざわざ用意された、胸元に校章があしらってある、制服と同じベージュ色を基調としたユニフォームを着て、機能性を重視したショートパンツタイプのズボンを穿いており、『TKD』と書かれた野球帽を頭に乗せている。

彼女達は|(大変個性的ではあるが黙っていれば)ラッシュ時であっても見分けがつく程気品あふれる存在感を持っており、スタジアムは満員御礼、観客達からはアイドルコンサート並の声援が送られている|(先頭で青髪の変態紳士がたった半日で結成させた応援団までいる)。

このイベントは9月30日のテロ騒ぎ、そしてそこから広まっている戦争の話で、不安になっている学生達を元気づけようと企画されたチャリティマッチであり、それで、<大覇星祭>で活躍し、世界中にその名を知らしめた常盤台中学の面々が招集されたのである。



表側、では。



「うんうんいいねぇ♪ やっぱり秋はスポーツの秋だよねぇ、詩歌っち」


運動系は大好きな陽菜は、もう遠足が楽しみで我慢しきれない子供のように、そわそわしっ放しで、あそこにいる覆面大男の正体については気付いていないし、気にしていない。


「落ち着いてください、陽菜さん。私達は、学校の代表としてここに来ているんですよ」


「けどさぁ、こういうのは楽しまなきゃ損だよ。『統括理事会』って、頭のお固い奴らばかりかと思ってたけど、中にはああいう粋な奴もいるんだねぇ」


全く以て気付いていない。


「でも、詩歌さん。相手チーム、あそこにいる人以外、まだ来てませんね」


美琴の視線の先、自分達の向かい、一塁側にはまだ誰も揃っていない。


「ええ、『統括理事会』が用意するとは聞いているんですけどね」


学園都市の競技は基本、能力の使用は認められており、今回のチャリティマッチも全面使用が認められている。

だが、試合というのは、実力が対等である者同士がやり合う接戦にこそ燃えるもので、実力差がつき過ぎてコールドゲームで圧勝などとは選手も観客も冷めてしまうもの。

今回の目的を考えれば、主役を輝かせる悪党――つまり、常盤台中学の面々にも匹敵する相手が必要なのだが。



「さぁっ!! この『キャプテンファルコン』に集いし、|強者(つわもの)どもよ!! この|戦場(いくさば)に颯爽と現れるがいい!!」



プシューッ!! と煙幕が上がり、一塁側ベンチから突如複数の人影が飛び出す。


「どうも〜『鳩ぽっぽ』です。よろしゅう」


白い鳩をイメージしたマスクを被る優男――『鳩ぽっぽ』。


「うっす、『バッファローマン』っす」


猛々しい角を持つ猛牛のマスクを被る巨漢――『バッファローマン』。


「『ミス・ドラゴン』。はぁ……やるからには全力でいきます」


尻尾まで付いたドラゴンのマスクを被る委員長タイプの堅物美人――『ミス・ドラゴン』。


「いっひっひ……『魔人アシュタロス』だよ」


生首に見えるほど不気味にリアルな馬のマスクを被る細身長身の男――『魔人アシュタロス』。


「……『タイガーマスク』、です」


見ただけでただならぬと分かる威圧感を纏う虎のマスクを被る大男――『タイガーマスク』。


「まだまだぴちぴちの十代には負けないわよー! あ、美琴――っと正体ばらしちゃダメだったんだ。ギリギリセーフ。『セクシー・ベル』参上よん」


大きく2つのMが重なったマスクを被る大学生に見えるお母――ではなく、お姉さん――『セクシー・ベル』。


「ふぅー、『メイド仮面』。今をときめく常盤台に華麗に勝利してしまうと、プライドが肥大化し過ぎて大変な事になりそうだ」


ブレインからの助っ人、唯一ユニフォームではなくメイド服で、パピヨンマスクを被る天才少女――『メイド仮面』。

そして、


「イ・マジンガーーーー―――」


最後の1人が新体操選手のように前転側転バク転バク転バク転バク転バク転………一気に先頭まで駆け抜け、最後は『鳩ぽッぽ』と『バッファローマン』の助けを借りて、高々と跳び上がり、空中で捻りながらアクロバティックムーンサルト、と



「―――エーーーーックス!!! 参☆上!!!」



着地成功。

同時に腕を交差させる決めポーズを取りながらX型のマスクのツンツン頭の少年――『イ・マジンガーX』 が登場。

さらに躍動感溢れる複雑な|(また奇怪な)アクションを連続させ、


「我が半身よ思い知るが良い!! 兄より優れた妹など幻想!! この右手で―――」


ビシッと真っ直ぐ右手で上条詩歌を指差し、


「ぶち、こ―――あ、あれ世界が、回るぅ〜〜……」


最後の決める所で目を回して、ぐるぐるばったりと倒れた。

そのままチームメイト達に回収され、肩を貸されながら整列。


 

 


「ウグイス嬢は『ホワイトラビット』がお送りするんだよ」


弁当が山積みされた放送席で、マスコットキャラクターを兼任した白いウサ耳を付けた修道女がもぐもぐと試合進行。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



―――何がどうなってんのよ、これは!!



御坂美琴は真っ赤になった頭を両手で抱えこむ。

試合も始まっていないんだけど、もうこの時点で精神的にひどく疲れる。

いい大人が怪人プロレスラーの真似事をしているのは常盤台の面々にも負けないくらい個性的だが、仮面舞踏会的な演出だと言い聞かせれば、何とか自分を誤魔化す事が出来た。

しかし、だ。

あそこで手を振っている『セクシー・ベル』は、何故ここにいる!?

ノリノリのあの声に、その目元だけし隠せない防御力が低いマスクでは、非常に|(どちらにとっても)残念なことに顔の90%以上が隠し切れておらず、見間違いすらもさせてもらえず、美琴の母――御坂美鈴だと分かってしまった。


(大学に通ってんじゃなかったの!? つーか、|本気(マジ)で母としての自覚を持ちなさいよ!!!)


もし許されるのであれば、今すぐ場外乱闘で怒鳴りつけたい。

そして、自分と同じように身内の醜態に恥じているのか、何やら、口元に手を当てて難しい顔をしている詩歌。

そう、ド派手にトリを飾って、姉に挑戦状を叩きつけた『イ・マジンガーX』の正体は………


「……『イ・マジンガーX』。一体何者……?」


「ええっ!? 詩歌さん、アレに気付いていないんですか!?」


「わかってますよ、美琴さん。危険だという事は……」


ほっとしたのも束の間、


「ええ、今の身のこなしから察するに、相当できますね。これは要注意です」


違う!! と美琴は叫びたかった。

危険と言えば、ある意味で大変危険だが、自分が言いたいのはそこじゃない!

まさか信じたくなくてわざとボケているのかと思ったが、長年の幼馴染の目に映るそれは、今の詩歌の表情が真剣であることが分かる。

純度100%の|天然(マジ)ボケだ。


「大姉様に勝負を挑むとはなんて身の程知らずな」


「ええ、ここはわたくし、婚后光子が格の違いというのを思い知らせてやりましょう」


黒子や婚后など他のチームメイトの顔色を窺うも、その様子からは全く察知できていない。

まさか自分の方がおかしいのではないかと勘ぐってしまう美琴。


「うん。他の連中も中々のオーラだよ。こりゃ、気が抜けないね」


陽菜も相手チームからのプレッシャーを敏感に察知したのか冷静に戦力分析に入る。

幾度の修羅場を潜り抜けてきた猛者としてのセンサーは、過酷な自然環境を生き抜く野生そのもの。

しかし、肝心な所には気付いていません。


(あー、もう観客の目なんか無視して、アイツらに電撃をぶっ放してやりたいわ!!)


もしかしたら、あのマスクにはそういう認識阻害効果でもあるのかと思いたいが、目元以外隠せないその面積では、常識的にその可能性は皆無だ。

だから、せめて。

自分以外にももう1人くらいこの現状に突っ込める常識人が……


「うふふぅ〜♪ 大変ねぇ、御坂さん?」


―――コイツ、気付いていやがる!?


美琴の耳朶をくすぐる蜂蜜のように甘い声。

こう言った派手なイベント事には必ず参加する目立ちたがり屋の女王様、食蜂操祈のものだ。

よりにもよって、この自分とはまったくの正反対で反りの合わない、同じチームだけど御坂美琴にとって最も注意すべき警戒人物が。

食蜂が<心理掌握>で何かしたのかと思うが、しかし、精神攻撃すれば詩歌はすぐに気付く。

ついでに、今彼女の手元にはあのリモコンが無い。


「詩歌先輩、何だかライバル宣言されちゃいましたねぇー♪」


「ええ、一体何者かは知りませんが、こうなったら全力を尽くすまでです」


「はい、先輩☆ 私も全力で頑張ります♪」


あんにゃろ、試合前はあんなにやる気のなかった運痴のくせに、ガッツポーズまで取っている。

ただし、試合を頑張るかどうかまでは言っていないが。

そして、こちらへクスッと如何にも何か企んでます的な小悪魔的な笑みを向け、神経を逆撫でするような声音で、


「それから御坂さん? あちらにいらっしゃる『セクシー・ベル』さん、さっきから御坂さんに手を振ってアピール力全開ですけど―――ま・さ・か、知り合いですかぁ〜?」


能力だけでなく、その性格もとびっきり下衆い奴だった、と美琴は改めるまでもないが再認識。

<超電磁砲>の電磁バリアで<心理掌握>は効かないが、それでも精神的に弄るのは女王様の得意技だ。

抜け目のない彼女のことだ、絶対にこの機会をただ見逃すはずがない。


「……何、やるってんなら全力でやるけど」


バチン、と本当に火花を散らしてみるが、


「あ、詩歌先輩、あそこにいる『セクシー・ベル』の正体は―――「わああああああぁぁぁっ!!」」


ちょっと来なさい! と美琴はむんず、と食蜂を引っ張り、『ふふふ、仲が良いですねぇ』と微笑んでいる詩歌達から離す。

そして、周囲には聞こえないけど怒鳴るという絶妙な声量で、


「(いきなり何暴露しようとしてんのよ!!)」


「(そんなに怖い顔しないで。折角、今日は|仲間(チームメイト)なんだから♪ 御坂さん“で”楽しみたいわぁ☆)」


『と』、ではなく、『で』である。

ただそれだけで大変意味が異なります。


「(あ、アンタ。試合が終わったら、憶えておきなさいよ!)」


この試合、コールド勝ちでも何でもとにかくさっさと終わらせて、この調子に乗っている女王とあそこで娘の心知らずに年甲斐もなくはしゃいでいる母、ついでに、あの馬鹿から大馬鹿にレベルアップした変態シスコン野郎にこのストレスを込めた電撃を1発入れてやる、と美琴のやる気がぐんっと上がった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「さて、互いのチームが出揃ったわけだが……」


演説再開。

『むさ苦しいオッサンは帰れー』、など|悪役(ヒール)とは所詮は応援ではなく、罵倒されるもので―――しかし、それは時と場合による。

『キャプテンファルコン』は観客からのヤジをそよ風のように受け流すと邪悪に笑って、


「ただの野球勝負じゃ、観客の君達にはちっと刺激が足らんだろう?」


何を言っているんだ? と観客達は一斉に『?』を浮かべる。

一見ただの野球勝負に見えるが、これは<大覇星祭>と同様、能力使用が解禁されているものであり、世界中から視聴率が取れるほど白熱とした試合になること請け合いなのだ。

それは、この立ち見までいるほどスタジアムが満席である事からも証明されている。

まさか、何かハンデでも付ける気なのか―――と思ったが、


「分かってる。ハンデなんぞ無粋なモンは付けん。ルールの中で駆け引きしてこそ勝利の醍醐味が味わえるのだ。であるからして―――」


にやり、と声高に、


「この『ヤキュウケン』に追加ルール。点を入れられたら、指名されたものは服を一枚脱いでもらおう」



シィン……



え、今何言いましたか? という空気が場を満たし、



「つまり、ユニフォームの上着、アンダーシャツ、ズボン、と3点分取られたら、普段は鉄壁にガードの固いお嬢様でもあられもない姿を拝めるという訳だ」



シーン……

シィーン……

シィィーン……


お、おい、そんなのあり得るはずが……

そうだぜ。常盤台がそんな真似をするはずが……

だ、だな、これは冗談に違いない……


ひそひそ、ひそひそ……とその反応に『キャプテンファルコン』はにんまりと、



「なお、このルールは学園都市『統括理事会』によって保障されており、常盤台とは話をつけてある」



「「「「「!?!?!?」」」」」



「という訳で喜べ野郎共!!! そしてこの『ヤキュウケン』どっちに勝って欲しいか吼えてみろ!!!」



その男というものを理解したカリスマ性が無駄に溢れる言葉に拍手喝采。

瞬間、今までお嬢様達に応援に回っていた者の半数以上が相手チームの応援に移った。

前代未聞のチャリティマッチ『ヤキュウケン』が開幕する。



スターティングメンバー



先攻 『|愚蓮羅岩(グレンラガン)



1番ピッチャー  キャプテンファルコン

2番センター   鳩ぽッぽ

3番レフト    ミス・ドラゴン

4番キャッチャー バッファローマン

5番ショート   イ・マジンガーX

6番ファースト  タイガーマスク

7番セカンド   メイド仮面

8番サード    魔人アシュタロス

9番ライト    セクシー・ベル



後攻 『TKDバスターズ』



1番サード    御坂美琴

2番ショート   白井黒子

3番キャッチャー 上条詩歌

4番ピッチャー  鬼塚陽菜

5番レフト    九条葵

6番ライト    婚后光子

7番センター   音無結衣

8番セカンド   近江苦無

9番ファースト  食蜂操祈


控え


緑花四葉

出雲朝賀

出雲伽夜

デスティニー=セブンス

里見八重



つづく

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