小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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しまった。
 切れ味鋭い風のような刃物たちがその外側を飛んでいく。
「なっ!?」
 木苺の驚嘆の声が響く。
 その可愛らしさに少し微笑みながら、ドームの中にいる子どもたちに近づいていく。
 怯えているかと思ったら、子どもたちは「やっと来た!」とでも言わんばかりに目を爛々と輝かせていた。
 なんと逞しい。なんとかっこいい。
 ……なんとかわいい。
「中に入ってしまえば、さすがに木苺も攻撃してこないか……」
 どうやら彼女は子どもたちを相当大事にしているらしい。今なんか心配でたまらないだろう。
「どうしたの、木苺ちゃん? 大事な大事な子どもたちが危ない目にあっちゃうよ? 何もしないでいいのかな〜?」
「ふざけないで! 子どもたちに危害を加えたら許さないから!」
 しかし、木苺の叫びとは裏腹に、子どもたちは興奮した様子で声を上げて突っ込んできた。大人気マスコットを見つけた時のように何も考えず、わたしの真っ白な装束にただ一点目立つ、黄色い花目がけてただ突っ込んでくる。
 その初々しさに、また微笑む。
そして──
 一瞬の内に、数十の子どもたち全員の花が消えた。
 きっと木苺含む彼女ら全員には、何が起こったかわからなかっただろう。子どもたちは自分の花が無くなっていることに気づかず、ただわたしがいなくなったことに驚いている。
 一方わたしはというと、ドーム(・・・)の(・)外(・)、やや上方で、子どもたちから奪ったノキイの花を束ねるのに四苦八苦していた。
 なんとも格好のつかない強奪だが、いかんせん量が多いのだ。
「まったく、我ながらふざけた戦力差に挑んだものだなぁ」
「ふざけてんのはどっちよ」
「あれ、木苺ちゃん、あのスピードで見失わなかったの?」
「見失ったよ、一瞬ね。本来この街でわたしが誰かを見失うことなんて有り得ないんだけど……。お姉さん、何したの?」
「何もしてないってぇ〜」
「茶化さないで」
 ようやくわたしの居場所に気づいた子どもたちがこっちを見上げ、指をさすなどそれぞれ反応を示している。
 それを横目で確認し、気づいた。
「ねえ、木苺ちゃん。そういえば子どもたち、ここにいる子たちで全員じゃないよね? なんか少ない気がするんだけど」
「何も話さないつもり? ……いいよ、次は完全に防ぐから」
「次、ってことは、やっぱりほかの場所にもいるんだね、子どもたち」
「……」
 そのだんまりは、答えを言っているのと同じだよ、木苺ちゃん。
彼女らしくもなく、少々焦っているようだ。
判断の追いつかないことが起こり、混乱しているのだろう。
それはそうだ。あんなスピード、このところ試合でも見せていない。
その混乱の覚めぬ内にほかの子たちを見つけ出し、さっさと彼女らの花を摘み取ってやろう。木苺は利口な子だから、相手の手の内がわからない内に無闇に攻撃してくることはないだろうが、代わりにこちらの手の内を探る実験のような攻撃を繰り返して来かねない。
そこまで彼女の頭が回る前、つまりデータを集められ、対策を寝られてしまう前に、残りの子どもたちを全て捕まえ、一対一に持ち込むのだ。そこで初めて全力を出し、彼女の防御網(ドーム)を破り、一気に勝負を決めてしまおう。
……なんだ、まだ余裕じゃないか。
街の主を相手に、「わたしはまだ変身を残している」という夢のセリフが、言えるかもしれない。
この勝負、改めて楽しい。
「「お姉さ〜ん! お花返して〜!」」
 ドームを隔てて悔しがり泣き叫ぶ子どもたちにごめんね、と手を振り、飛び立つ。
 すると、ドームを形成していた茎が崩れ、その一本一本が一斉に追いかけてきた。
 籠の目に絡まっていたのだから、半端な数ではない。
うねうねと気持ち悪く動き追いかけてくる。
一本でも結構な迫力だが、あまりの数に泡立つ緑色の壁が押し寄せてきているように見えてしまう。
当然スピードが違うので逃げきれたが。
その後もチェイスを繰り返しながらおよそ五分間で街中を見て回ったのだが、どこを探しても子供たちのいそうな場所は見つからなかった。
もう探すところは無いんじゃないだろうか。

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