小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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 ゴーゴーと音がするほど速く飛んでゆく木苺の少し後ろを追っていくと、すぐに子供たちに追いついた。
子供たちと木苺の一団、わたし、という位置取り。
 すると、前を飛んでいた、お菓子の家で隣に座っていた──演劇をやっていたのかと聞いてきた子だ──女の子がまたも隣にやって来て、前をチラチラと伺いながらちょいちょいと手を振ってわたしを呼んだ。
「お姉さん、ありがとう」
 なぜかお礼を言われてしまった。何かしただろうか。さっきプチショーのこと? でもアレは失敗しちゃったし。
 聞くと、少女は意外なことを言った。
「だって、先生が楽しそうだから」
 楽しそう? 木苺が? どう考えても怒っているだろう。
「うん。怒ってるけど、怒ってないの。先生、子供だから」
 残念だけど、あなたの方が子供だね。でも可愛いから許す。
 しかしその言葉を最後に、彼女は前に戻っていった。
 よくわからない。
今の短い会話でわかったのは、少女には木苺が楽しそうに見えるということと、可愛いは正義ということだけだった。
 合流したあとは子供たちの速度に合わせていたが、それでもすぐにさっきのお菓子の家に着いた。
 ところが彼女らは玄関ではなくその反対側、家の裏手に降りていった。すぐ後ろからついていく。
 すると一人の子供が、
「先生、ここだよ。ほらここ」
 と家の壁面──クッキー型のタイルがいっぱい貼ってある──を指さして言った。その中のある一つのタイルには、一度はがしたあと何かを隠すように貼り直した跡があった。
そしてそのタイルを木苺がはがす。ポロっと簡単に剥がれたそのタイルの下には、茶黒いチョコレートクリームが見えていた。しかしそこには、本来あるはずのない物がぬめりこんでいた。
「お姉さん」
それを壁から引き抜いた木苺が、背越しにわたしを呼ぶ。
 そして引き抜いたものを見せ、真顔でこう言った。
「これ、どういうこと?」
「話せば長くなりまして」
「短く」
 木苺の手に握られるティーカップの取手部分を見て、わたしはこう言うしかなかった。
「わたしがやりました」
「話は中で聞こうか」
 そして取り調べが始まることになってしまった。

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