小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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「崩れます。この街の成り立ちから関わってきた私にはわかります。彼らの精神はあなたが思っているよりずっと脆い。少々のことであっという間に瓦解し、誰かが崩れれば連鎖的に崩れていく。そうなればこの街は容易に崩壊してしまう。指導者としてそれは容認できません」
「だから外の人間に頼むしかない、と?」
 少し訝るように言うと、彼女は初めて顔を歪ませた。
「無責任に聞こえるでしょう。しかし外部の人間を使うしか方法が無い。たまの来客があなたのような人であることはまずありません。これを逃せば次の機会はもう無いでしょう」
「でも、何をどうすればいいか、何もわからないんですけど。そもそも彼らと接触してもいいんですか?」
「住人ではなく、あなたに許可証を発行します。それを見せれば、彼らはあなたに怯えることはなくなるでしょう。まずは住人たちに信用されることです。その後は、こちらから指示することもあるかもしれませんが、基本的にあなたに一任します。こちらとしても有効な方策があるわけではありませんので」
「あの、許可証なんてあるなら、最初に出してもらえば何の問題もなく街で聞き込みも出来たんじゃ……」
「前例がありませんでしたから。それに、すぐに許可してしまうと、あなたを拘束する理由が無くなるじゃないですか。千國さん」
「……あなた、わたしを知ってて監禁しましたね」
「確信はありませんでしたが、千國の名は知っていました。それに、あなたが人探しの事情を話してくれた時にはもうほぼ間違いないと思いましたよ。この街の人たちは街から出ないので住人たちはあなたを知らないでしょうけど、模擬戦闘のトッププレイヤーの名なんて、ほぼ常識の範囲かと」
 それで、わざとわたしの前でシークレットを喋り、確認のためにここに監禁か。
 まわりくどい。最初から頼んでくれればいいのに。彼女の立場と先の状況を考えればそうもいかなかったかもしれないけど。
「もしわたしが偽物だったら、どうするつもりだったんですか」
「それ以上何も聞かず、私はこの部屋を出て行ったでしょうね」
 よくそんなこと、平気で言えるものだ。それが人の上に立つ人間の台詞なのか。
「仮の話はともかく、『幻霧』ならば、並の人間よりもよほど期待できます。と同時に、この条件、私は二つ返事で飲んでもらえると思っています。利害が一致していますので」
「二つ返事で飲むに決まってますよ、そんなの」
 たとえここから抜け出しても追われたりしてまともに探せないだろうし、そもそもこっちは初めから穏便に街を回らせてもらいたくてあなたを探していたのだから。それにこの街を解放してあげたいと思ったのも事実だ。
「それはよかった。では早速、許可証を準備しましょう」
「わたしが用を済ませたらさっさと逃げて行く可能性を考えたりしないんですか」
「もちろん考えていますよ」
「考えた上で許可するんですか?」
「ええ。あなたが出ていけないようにしますから問題はありません」
 この世界の人たちはわたしをどこかに監禁しないと気がすまないのだろうか。

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