小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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まあ、急に戦争をしようと言い出す狂人が現れたならば、それが当然の反応かもしれない。
「といっても、末端の兵隊で戦うんじゃなくて、トップが、つまりわたしとあなたが戦うんです。出来るだけ派手に。見せつけてやるんです。そして、住人が見守る中、割とギリギリ、しかも卑怯な方法わたしが勝って、あなたが敗北する。勝者であるわたしが要求するのは、あなたの地位。……これで、あなたの権利はわたしのものになります」
「……この街を乗っ取るつもりですか」
「さっきは誰かに代わってほしいとか言ってたくせに、睨まないでくださいよ。……乗っ取ることじゃなくて、外からの侵略に対する危機意識を彼らの中に生み出すんです」
「それでは住人たちは保守化し、より法にこだわってしまいます」
「そうです。そして、そんな状態の彼らを、煽ります。この街を急速かつ合『法』的に解放していきます」
「……」
「そのまま解放に成功してもそれはそれでいいけど、きっとそうはならない。彼らは耐え兼ねてクーデターのようなものを起こす」
 法野はもうわたしの言いたいことがわかったようで、腕を組んで何かを考え出した。
「つまり彼らは法を守るために法を犯さなければならない状況に置かれるんです。……わたしは完全に悪者になりますけどね」
 もう二度とこの街には来れまい。
「……私とあなたが戦うきっかけはどうするんです」
「犯罪者は番人自身が取り締まるんでしょう? だったら簡単です。わたしが『犯罪者』になればいい」
「徹底して嫌われ役ですね。具体的には何を」
「あなたと法を批判してまわる、とかでいいんじゃないですか」
 どちらにせよココで口裏を合わせているんだから、具体的に何をやるかは関係ない。わたしが犯罪を犯すのはもう確定事項。いま、正義と悪の速やかな遭遇を予定調和にしてしまえばいい。
「あなたが私から権利を奪った後の、急速かつ合法的な解放、というのは」
「具体的な案は、法の全廃か段階的全廃をできるだけ憎たらしく宣言するとか、どこかの街と併合するっていう法螺を吹くとか、もしくはそういった噂を流すとか」
「感情を、まさに煽るわけですか」
「そして法を守るという名目で法を破った彼らは、皮肉にもそれをきっかけに法だけでは大切なものを守ることができないことを学ぶ、というシナリオです」
 後半は彼らが自身の矛盾に気づくかどうか、あるいは矛盾に目を瞑らないかにかかっているが、本質的に変えるには、その壁を自力で乗り越えてもらわなくてはならない。面倒だが。
「……そう上手く行くでしょうか。彼らは現実や矛盾から目をそらす傾向にあります。自らの行動に矛盾を感じても法から離れる勇気はありません」
これだけで法に依存する現状を脱却してくれたら楽だけど、彼女の言う通り、彼らはきっとまた法にすがりつく。
「でも、法に対する疑問を積み重ねていくのが一番いい方法なんだと思います。根本的に彼らを法から解放したいなら」
 彼らの中に積んでいくのだ。
 時間はかかるが、彼ら自身が納得して法から離れるのが最も望ましい形に違いない。
 ……本当はさっさと帰りたいんだけど。
 帰ったらまず賭場でファンたちに怒られるところから始めないと。
 考えるような間をおいて、法野が、
「認定的不協和を積み重ねて逃げ場をなくしていくわけですか……。いいでしょう。では時間のかかることなので、明日すぐにでも始めます。その後のことはまた今度」
「じゃあ、明日になったら街中でめちゃくちゃしますよ」
「期待しています」
 わたしにではなく、住人たちに、なのだろう。無表情で呟いて背を向け、出て行った。
 引き戸が閉まってすぐ、後ろで動く気配がする。

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