小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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「お疲れ様でした、侵略者さま」
 演説を終え、部屋に開口一番、法野が軽口で出迎えてくれた。
「住人たちは、どんな様子でした」
「愕然、といった感じでしたよ」
 上から見ていても彼らの顔に絶望の色が見え始めているのがありありとわかったほどだ。
「そうでしょうね」
「まあ、詳しい様子は後で報告が来ることになってますから、その時にでも」
「その報告、来ないかもしれません」
「え?」
「この館の職員も同じく愕然としていますから」
「だって、館の中にはわたしの声は届いてないでしょ?」
「あなたは職員たちがここに寝泊まりしていると思っているのですか。あなたは通勤前の彼らをも呼び出して先ほど宣言を出しました。なので働く意欲なんてまったく起きないんじゃないかという予測です」
 そうだったのか。
「でなければ今頃堂々と私があなた(・・・)の(・)部屋に来ているわけがないでしょう。表向き、私はいま牢の中なのですから」
 なるほど。つまり今職員たちはそれぞれの家で絶望しているので、館にはわたしたちだけだと。
「そう、私たち三人(・・)だけです」
「三人?」
「ええ。……正直報告するかどうか迷いました。本人も渋っていましたしが……、入りなさい」
 法野が言うと、部屋のドアがキィ、と音を立てて開いた。
 入ってきたのは──
「シタ!?」
 昨日この街を案内してくれた、現わたしの彼氏ということになっている、シタその人だった。
「法野! なんで一般住人がここにいるの!」
 すると法野はわたしに耳打ちした。
「実は、彼は私直属の部下なのです。彼は昨日まで、案内という名目であなたを監視するようにという私の命令を受けていました。安心してください、彼は計画についてほとんど知りません」
 まさか。あれだけ番人を怖がっていたシタが、そんなわけはない。
「にわかには信じられないかもしれませんが、事実です」
「でも、なんでシタが。彼はまだ?籠?に来て短いのに」
「だからです。彼は現在の住人の中で最も帰属年数が短い。つまり最もこの街に染まっていないということです。あなたに許可証を渡す直前に彼を雇い、命令を出しました」
 つまり、目星が立ちそうになったから最もわたしと親和性の高いであろう彼を急に抜擢した、と。
 それで、彼はわたしに近づいたのか。
 見れば、ひそひそと話すわたし達に、シタは不安そうにしている。
「シタ」
「はい」
 はい、か。
「本当に、番人の手下だったの?」
「はい」
「命令だったの?」
 わたしの問いに、何故か一瞬法野を見て、
「……はい」
「番人を怖がっていたのは、あれは演技だったの?」
「彼を責めないでください。彼はよく働いてくれました。結果、あなたは奥野とも接触して街の現状を知ることができたのです」
 あの言葉も表情も、嘘だったのか。
 わたしの心中を知ってか知らずか、シタは俯いたままだ。

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