小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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 つまり、わかりやすく楽しいものを喜ぶということ。
「だったら、お話はこれで終わり」
 えー、と不満の声を上げる子どもたちに、そのかわり、と指を一本立てる。
「みんなで模擬戦闘の体験をしたいと思いまーす」
「やったー!」
「戦うの!?」
「倒すの!?」
「や、さすがに戦わないけど」
 子どもたちはまた少し不満そうな顔をした。
 そんなに戦いたいのか。
「木苺ちゃん、折れてもいい花、無い?」
「喧嘩売ってるの、お姉さん?」
「まあまあ、出来るだけ折らないようにするからさ」
「何するの?」
「鬼ごっこ」
 一瞬呆気に取られた顔をした木苺だったが、ため息をついて、また呆れた顔をして掌から小さな黄色い花を出した。
「これならいくらでも出せるから、使っていいよ。ていうか、その花以外はちょっと苦労するからダメ」
「ふーん。何て花なの?」
「現実には無い花だし、出展用につくったものでもないから、名前なんて無いよ」
 確かに見たことのない花だ。スプーン状に丸まった花弁が一枚あるあだけで、真ん中にちょこんと柱頭が見える。
「ふーん。……じゃあ、『ノキイの花』で」
「は?」
「名前。この花の」
「テキトーな名前付けないでよ、お姉さん」
 じとっとした目でわたしを見る木苺。
「テキトーじゃないよ〜」
 小学生のようにうざったらしく言ってやる。
「ね、ノキイいくつかちょうだい」
「……その辺にいっぱい生えてるから、使っていいよ」
 呆れ諦め、ぶっきらぼうにどこともなく指を指す。
「ふふっ、ありがと」
 笑ってお礼を言ったらそっぽを向かれてしまった。
 その様子に首を捻りながら子どもたちの方を向く。
「じゃあみんな〜、このノキイの花を採って〜」
 花を掲げて見せる。
「ノキイ〜。あはは、変な名前〜」
「いま変って言った?」
 わたしは自分のセンスを疑った方がいいだろうか。
「見つけたよ、お姉さ〜ん」
「「こっちも〜」」
「よぉし、じゃあそれを見えやすいように体のどこかに着けて〜」
「「「は〜い」」」
 子供たちはそれぞれ自分の好きなところに好きなように花を付けていく。髪飾りのように付ける子が多い。それを見せ合って笑っている。こういうところはやはりしっかり女の子だ。
「では、子供たちには今から精一杯逃げてもらいます。飛んで逃げてね。とにかく早く。どこにでもいいから逃げてください。わたしがそれを追いかけて、君たちの花を取っちゃいます。取られないようにしっかり逃げてね〜。」
「「「は〜い」」」とまたも元気な返事をする子供たちとは対照的に、木苺が納得いかない顔をしていた。
「お姉さん、それのどこが模擬戦闘の体験なの? ホントにただの鬼ごっこじゃん」
 しかしわたしはちっちっち、と指を振って見せる。
「わたしから言わせてもらうと、模擬戦闘は鬼ごっこの延長線上にあると思うんだ」
「でも、実際の相手は逃げるどころか突っ込んでくるでしょ?」
「あんなの止まってるようなものだよ。それに、これは模擬戦闘そのものの体験っていうより、模擬戦闘選手のスピード体験だから」
「止まってるって……、だって普通の選手でもモニタ越しに目で追うのに苦労するには十分なスピードだよ?」
「その辺は、ちょっと口では表せないかもね。『ボールが止まって見える!』みたいな? ちょっと違うか」
 まあ、わかってもらえるともハナから思ってはいないし。
「それはお姉さんにしかわからないことなんだろうから教えてもらうのは諦める」
 おや、素直。
 と思った途端、でも、と彼女は続けた。
「でもそれじゃあ納得行かないから、その鬼ごっこ、きいも混ぜてもらうね」
 そしてニコッと笑う。
 いやいやいや。これは子ども達のための提案で。
 と言っても、彼女は強情に参加を主張するだろう。その強情さは子どもらしいのだが……。
 しぶしぶの了という旨を伝えつつ、少し皮肉を混ぜた、気の利いた返事を探す。
 ……。
「……あなた、実は模擬戦闘好きなんでしょ」
 ため息交じりのわたしの言葉に、木苺は否定も肯定もせず、嬉しそうに子ども達のもとに駆け寄り、言葉を交わしていた。

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