小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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だったら、わたしに追いつけるハズがない。
 だからわたしは追いかけさせたまま、反撃もしない。
 や、反撃しようもないけど。
 相手見えないし。
 いくら追いかけられていても、捉えられない絶対の自身があれば、それはもう追いかけられていないのと変わらない。
 文字通り敵無し。
 てことは、わたし無敵じゃね?
 気持ちにも余裕が出る。
「さて、そろそろ散り散りの子どもたちを探そうかな」
 ちなみに、もう何度目かわからない太い茎とのチェイスは続いている。
 出現から引き離すまでに数秒もかからないから、短時間で何度もチェイスが繰り返される。
それでも諦めないトコロを見ると、木苺は間違いなく負けず嫌いな性格だな。
「おっと」
 一つ引き離したかと思えばもう一つ前方に茎が出現するが、出現を確認した瞬間に完全な制動で上下逆の『の」を描くように飛び、回避する。
──もう引き離している。
 こんな感じ。
 わたしのスピードは、普通の人には見えない、と以前賭場の酔っ払いに言われたことがある。
 賭場には模擬戦闘を映す映像がモニタに流れるが、それを通しても大半が見えないそうだ。
 かなりの常連・古参でないと見ることもできないなんてつまらない、とまで言われた。
 わたしはそれから試合でちょっとだけ手を抜くようにしたが、それは誰にも言えない秘密。特に他の選手には。
 とにかく、わたしが言いたいのはそんなスピードに、木苺がそこそこついてきているのが不思議でたまらないということ。
 自分の街だから?
 そうかもしれないけど、まあ当然ながら答えは出ない。この世界についての知識が不足している。こんなことならもっと真面目に議堂に通っていればよかった。
しかし、もはやワンパターンに追いかけてくる木苺(というかデカい茎)を気にかける必要はないだろう。
 子どもたちを見つけ、襲い、ノキイの花を奪うことに集中しようじゃないか。
 そう、襲うことを一番に考えるのだ。
「ぐへへ」
 ……。
 とりあえず、どんなに速くても直線でしか移動していない今の状況では見つかりにくい。そろそろ街の端にも辿り着いてしまいそうだし、もっと広い範囲を探索しないと。
 広い街だが、始まる前の木苺が子どもたちに何を言っていたかを推測すれば、子どもたちが居そうな場所も絞れるだろう。
そして、彼女の過去の模擬戦闘に関する言動をヒントにすれば、どういう作戦かも見えてくるハズ。
 軽く整理しよう。
まず、彼女は『幻霧』というわたしの恥ずかしい称号を知っていた。
彼女が模擬戦闘に関心を持っている証拠だ。
次に、賭場での観戦についても、彼女は批判をしながらも否定はしていなかった。
しかも賭場のモニタ越しの選手のスピード感についても話していた。
彼女は賭場に足を運び、ギルド戦を観ているのだ。ということは恐らく、わたしのスピードについても知っていたと考えていいだろう。
さらに、彼女は全速で飛ぶわたしを見失うことなく追いかけている。
彼女は古参ではないから、おそらく賭場の常連なのだろう。
彼女はギルド戦をよく知っているに違いない。
だからこの体験を始める直前、あんなに自信を見せていたのだ。
賭場のモニタでわたしを見ていたとすれば、彼女は間違いなくわたしのスピードを警戒するはずだ。追いつけないときのことも考えて子どもたちに何か対処を伝えたに違いない。
そして彼女は勝負が始まった後、スタート地点から動こうとしなかった。その場でわたしが花を奪いにかかるかもしれなかったのに、まるで誘うように余裕をかましていた。
正直に言うと、あの場であっさり誘いに乗ってしまうのが癪で見逃したのだが、面倒なことに天邪鬼があだになってしまった。
木苺がとどまったことにも何か意味があるのだろうか。もしスピードでは勝てないとわかっていたから動かなかったというのなら、動かないことでスピードに対処出来る方法があるということ。
それはなんだろうか。
それに、なぜ攻撃がワンパターンなのかもわからない。街の主は街の中では自由に事象を起こせる。なのになぜデカい茎のみを一本ずつしか使わないのか、あるいは使えないのか。そしてその攻撃すらも少しずつ荒くなってきている。
もう十分とでも言うように。
あるいは手加減して勝負を楽しもうとしているかのように。
そうなら、初めとは立場がまるで逆になってしまった。
まとめると、どうやら模擬戦闘が好きらしい木苺は、わたしのスピードについても初めから知っており、何か対策を立て、子どもたちにそれを吹き込んだ。
彼女がスタート地点から動かなかったことはおそらくその作戦に関係している。自分が動かなくても、というか動かないことにこそ勝算があるらしい。そして、手加減なのか限界なのか、攻撃がワンパターンであること。なにより、彼女は姿を現さないにもかかわらず、間違いなくわたしを視ているということ。
……わからないことだらけだ。このまま闇雲に子どもたちを探すよりも、不明瞭な点を一つ一つ解決していくほうがいいだろう。
そう考え、まずは木苺を探しに、最後に彼女を見たスタート地点に戻ることにした。

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