小説『魔女』
作者:紅桜()

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(ああ、神よ)


 教会で、ミクは十字架を握りしめる。

(なぜ・・・なぜなんでしょうか・・・)

 この前見かけた桃色の髪を持つ美しい女性。傍らには位がかなり高いであろう男性がおり、二人で幸せそうに笑いあっていた。
 大勢いる人込みの中ではっきりと感じ取った不思議な感覚。今まで何回か感じことがある。あの女性は、魔女だ。
 聖職者の中でも上位に居るミクは、魔女を消さなけば行けない。愚かな魔女には情けなど無用だと幼いころから教えられてきた。善は人間、悪は魔女だと、周りの人たちから嫌というほど教えられ、軽く洗脳されていた。

 魔女は、その存在自体が罪なのだと。
 
 神に望まれ与えられた、魔女の存在を感知する能力。初めて、魔女がいると感じ、そのものをひっとらえたところ、正真正銘の魔女だと分かり、周りはミクを恐れた。この子も魔女なのではないかと。
 ところが、その時の最高責任者は、この力を利用しようと考えた。ミクの力を使い、魔女を全て消し去ろうと。よかったことに、ミクにできるのは魔女が分かると言うことだけ。魔女ではないと判断され、殺される心配はなくなった。だが、所詮口約束だ。おそらく、ミクが使い物にならなくなると、魔女だと騒ぎ立て処刑するだろう。同胞を死に導いたものとして。

(けど、私にはここしか居場所が無いんです)

 神に魔女を消す力を与えられたものとして顔は広く知れ渡っている。聖職を止め、違う仕事についても、遠慮もないことを言われ、居場所が無いと直ぐに想像できる。
 生きるためには、ここにいるしかない。

(ですが、あの二人を引き裂くことはどうしてもできません。幸せな二人を不幸にすることなど、私には・・・できません)

 人の幸せを壊してまで生きたくはない。黙っておこうと心に決める。神様だって許してくれるはずだ。
 そもそも、聖書に書いてある神が決めたとされる掟など、所詮は人が考え書いたこと。神がいても、神自身が書いたはずがない。・・・こんなこと、言えば裁きを受けるから心の中だけにしておく。





(やっぱり、幸せそうな二人)

 買い出しに行くとき、再びあの二人に出会った。
 
「綺麗ね」

「君の為に特別に作らせたんだ」

「嬉しわ。ありがとう」

 頬を染め、恥じらいながらも渡された綺麗な、宝石が付いた指輪を魔女が受け取る。男に促され、指にはめると、細長い、白い指にするりと入り、宝石が光を反射して輝く。魔女にとても似合っていた。
 
「どうしたミク」

「え、あ、いえ、なんでもありません」

 年上の男性と一緒に買い出しに来ていたことを忘れていた。まさか、魔女を見ていましたなど、言えるはずもなく、慌てて下を向いて嘘をつく。
 焦ったミクをみた男性は、ミクが見ていた方向を向く。すると、仲睦まじく話し合う男女を見つけた。

(ああ、そうか)

 ミクは、あの男性が好きなのか。男性はそう考えた。しかし、ミクは男性たちにとって大切な存在。手放すわけにはいかず、結婚することを禁止している。
 好きな人とも一緒いられないミクに同情しながらも、男性は後でもっとつらい目に合う前にと、諦めろと言う。途端、ミクは顔をあげた。まさか、魔女だと分かったのかと焦ったからだ。

「ミク、厳しいようだが、お前とあの人とは一緒に居られないんだ。お前は大切な存在だからね。・・・かわいそうに、普通の者ならば、自由にできていたのに」

「いいえ、私は幸せです。大丈夫ですよ」

 ばれていないと分かり、ミクが笑う。ミクを娘のように接してきた男性は、目を見て、ミクが無理をしていないと確認する。

「・・・あの」

「ん?」

「魔女は・・・本当に、全員悪い人なんですか?」

「当たり前だ、魔術を使い、人に愚行をする。魔女として生まれただけで、罪だ」

「・・・やっぱり・・・そうですよね。いえ、あの人たちを見ていたら不意に魔女のことを思いうかべまして。もし、魔女があの女性のような方だったとすれば、と考えて」

「ミク?」

 女性を見るミクの顔が、苦痛に歪んでいる。まさか、と思い、男性は女性を見た。
 楽しそうに笑う女性。一見見ればただの人のようだが、まさか、魔女なのでないか。だから、ミクが彼女を見ていたのではないか。
 何でもかんでも魔女に結び付ける国民と同じで、男性も直ぐに魔女に結び付け、疑い初めた。
 ミクが気づいた時には、男性に手を引かれ、人がいないところまで連れて行かれていた。

「いいかい、ミク」

 諭すように男性が言う。

「魔女は殺さなければいけない」

「・・・・」

「そうしなければ、私達に危害が及ぶからだ」

「情けなど、かけてはいけない」

 殺すべきだと、目で訴えかける。

(ああ・・・)

 所詮、この人も、周りの人間と同じなのだと、ミクは絶望した。魔女としか考えない。魔女は魔女、人は人と、線を引いている。魔女は人だと言うことを片隅にもおいていない。だからこそ、こんな非道なことしか言わず考えない。
 
「ミク、お前が優しいのは知っている。だが、私はお前に死んでほしくない」

 そうだ、もし、魔女がいることを知って黙っていたと分かれば、裏切り者とされ殺される。死ぬ時まで、いつ嘘がばれるのかとおびえ続けなければいけない。

(そんな生活・・・したくない)

 したくないが、あの女性も殺したくない。

(人なんか・・・殺したくない・・・)

「ミク」

「・・・はい」

「殺せ」

 目の前の男性の目に、光は宿っていなかった。





 まだ、決心がつかないと言い、ミクはその場から逃げた。追いかけてこなかったのは、彼が、ミクを傷つけたくないと思っていたからだ。
 逃げた先には、あの二人がいた。いつみても、笑っていて、楽しそうに寄り添っていて。
 それに比べて自分は、利用される毎日。自由に行動することもできず、選択肢も与えられず、好きな人ともいられない。いつかは殺されるかもしれない恐怖。

(なんで・・・!私が・・・)

 こんな目に合わなければいけない。悲しみが嫉妬に変わり、破裂寸前まで膨らんでいく。

(そうよ、魔女なんていなければ、こんな能力あったって使わなくて、普通の生活を遅れていた。魔女がいるから、いるから私がこんな目に)

 全て魔女が悪いのだと想い、ミクは手配書をかこうと教会に向かった。

-4-
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