小説『ONE PIECE【changed the course of history】』
作者:虹犬()

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【第32話 ナミの探検 前篇】





(SIDE ハンコック)

生まれて初めて見る男の人、それは聞いていた通り、乱暴で品が無くそして恐ろしい存在だった……怖い………恐怖で震える私の体…
だけど、勇気を振り絞って目の前の男を睨みつける……妹達は私が守らないと……
しかし、そんな少女の行動も男にはなんの効果も表わさず、逆に面白そうに笑みを浮かべ高温に熱した金具を手に男は近寄ってくる、そして……

「いやああああッ!………はぁ…はぁ……」

そこで私は目を覚ました。
汗で少し濡れた服が気持ち悪い。
額にも嫌な汗が…と思っていると私の顔になにか冷たい感触が優しくそれを拭ってくれる。

「だ、誰じゃ!?」

出来るだけ…というか絶対に人に弱さは見せたくない……
しかし、これだけ近い距離だ。先程の悲鳴も聞かれているだろう……それだけじゃなく、寝言で何かを言っていたかもしれない……
私は顔だけを動かし、恐る恐る私を看病してくれている者を見る。

「よう、ハンコック。起きたか?大丈夫……ではなさそうだけど。もうちょっとでニョン婆が薬を調合して持って来てくれるからな。」

と言いながら、私の頭を撫でてくれるマサヤ。

「薬?わらわの病気はただの風邪であろう?」

「ああ、でも、早く治るようにってナミがな。近くの島に薬草を取りに行ったんだよ。だから、まあ、後でお礼でも言っとけよ。」

そう言いながら撫でてくれる手はひんやりとして気持ちいい。
先程の悪夢による不快感が少しずつ消えていくのを感じる。

「ごめんな……体の傷が消えても心の傷は消えていないって……頭ではわかってたんだけどな……」

と申し訳なさそうな顔をするマサヤ。
マサヤは私の過去を知っていて、それでも私を愛してくれている人だから先程の悪夢の内容を聞かれても大丈夫な数少ない人の一人だ…だからこそ……この人だけには心配をかけたくなかった……

「い、いや、あなたが気に病むことではない。ただ、風邪で悪い夢を見ただけじゃ。」

結婚してから1年以上が経つがいまだにマサヤをあなたと呼ぶことに喜びを感じる。
そなたというような目下に使う呼び名ではなく同等の立場として名を呼べるという幸せ。

「まぁ……寝言は小さい声だったし、外には聞こえてないだろうし…さっきの悲鳴ももし、聞こえたとしても俺がお前を襲ったと思われるだろうから…大丈夫だ。安心しろ。」

と笑いながら言ってくるマサヤ。
その後すぐに、いや…安心されてもな……というか…俺の立場が危なくね……?と困った顔をしながら呟くのを見ると気持ちが楽になってくる。
こうやって、気持ちを紛らわしてくれようとする気遣いに感謝しながら、私も冗談で返そうとしたのだが………

「わ、わらわは…あ、あなたになら襲われてもかまわ………」

噛んだ……こういった冗談(あながち冗談ではないのだが)をペラペラと言えるナゴミさんは凄いと思う。
マサヤにはお願いだからああはなるなと言われたけど……二人の楽しそうな姿にはちょっと憧れたりする。

「……………………。」

とマサヤは少し驚いた顔でこちらを見た後、ポンッと優しくたしなめるように私の頭を叩く。

「そんな上気した顔と潤んだ瞳でそんなこと言っちゃいけません。普段でさえ、自制するの大変なんだから、もうちょっと自分の魅力を考えなさい。」

「………え?」

「ナゴミみたいな女っ気のない奴が言うんならともかく、お前がそんなこと言ったら、俺、獣か石になっちゃうぞ?」

身体が熱くなる、顔もより一層赤くなって、鼓動も早くなる……この人は私を殺す気なの…?こんなこと言われたら……私、我慢できない………

「……構わぬ。獣になってもあなたはわらわのことを大切にしてくれるはずじゃから……」

「はぁ……ったく…。」

と言って、立ち上がるマサヤ。
はしたない女と思われて呆れられてしまったんじゃないか…そんな不安が頭をよぎる…が次の瞬間、私は口をふさがれていた……マサヤの唇によって。

「……ん…ちゅ…ちゅる……んむ…はぁ…はぁ……」

「……はぁ。いくらハンコックのお願いでもさすがに今は駄目だ。元気になったら嫌になるほど相手してやるから今はこれで我慢しろ。」

と言って私の布団に入り抱きしめてくれるマサヤ。

「今日はずっとこうやって、そばにいてやるから……眠くなったら安心して眠ればいい。また、怖い夢見ても起きた時、俺がいれば怖くないだろ?」

「……うん。でも、マサヤに風邪がうつってしまう……」

「いいよ。お前が楽になるんなら。ほら、風邪をうつすと治るってよく言うだろ?…それに、辛い時は休めばいい……お前が頑張ってるのは知ってるし凄いとも思ってる。島の皆の為に七武海に入ったことも、時々ある召集に嫌な思いをしながら行っていることもな。ただ…無理はしなくていいからな……辞めたければ辞めればいいし、お前らを守るためだったら海軍だって相手してやるし、俺が代わりに七武海に入ってやってもいいと思ってる。」

「……あなたにそういってもらえるのは嬉しいけど駄目じゃ…それはわらわが好きでやっていることじゃ。それに妻の仕事を取らんでくれ。」

「仕事?」

「あなたが前に言ってくれた帰るべき場所、安心して休める場所を守るのがわらわの仕事じゃ。だから、あなたは好きなように生きて……」

マサヤが守ってくれると言ったのは嬉しいが、この人は一所に留まるような人じゃない。
私の為にこの島にずっと縛り付けることはしたくない。
それに……私は知っている……この人は目立ちたがりだけど…本当は自由気ままな平穏を願ってる。
もちろん、冒険や強い人と戦うというのも好きな人だけど有名な賞金首になっていつも命を狙われたりして緊張しながら生きていくとか何かの組織に入ってそれに従っていくというのは嫌いな人だと思う。
だから、私はそんなことはマサヤにさせたくない。

救ってもらって、こんな幸せまでくれて…全然、その恩を返せてないけど…あなたが好きだと言ってくれたこの場所を私は頑張って守るから………
私はマサヤの顔を見つめ、そのまま吸い寄せられるようにその口に……

「おお、熱い熱い。お熱いね〜。二人とも」

と扉の近くから声が聞こえる。
マサヤと共にそちらを向いてみると……

「ナゴミ?なんでここにいるんだよ?」

「ああ。ナミが薬ができたからってこの部屋に向かってたから一緒にきたんだが……もう、薬いらねえんじゃねえの?なあ、ナミ。」

「ま、マサヤの馬鹿ー」

―ボカッ―

「……いってえな……ナミ。覇気はそういうことに使う物じゃありません。」

「知らないもん。人が頑張って取ってきて作った薬を持ってきたのに……いちゃいちゃして…あ…そうだ。はい、ハンコックお姉ちゃん。お薬〜。」

と言って、マサヤには怒りながら私に薬をくれるナミ。

「ありがとう。ナミ。」

「えへへ。いいの。マサヤに少し手伝ってもらったけど楽しかったし…というかマサヤ、ハンコックお姉ちゃんのベッドから出なさいよ。」

「はいはい。わかったよ。名残惜しいけど出るか…俺の楽園から……」

「カハハハハ、楽園を追われた変態狼が一匹。」

「つか、いつからいたんだよ?お前ら。」

マサヤが私を離し、ベッドから出る。
心地良い温もりが消えてちょっと悲しい。

「えっと、私が女っ気がないとこぐらいからかな……つか、女っ気ない奴を良く抱くよな、お前。女なら誰でもいいのか?」

「いや……お前も稀に可愛いぞ。ほんとに稀にだけどさ……まぁ…そのギャップがいいんだけどな……見た目は完璧好みだし…」

「うわ、お前、病気になった妻の前で他の女の話をするとか……」

「うるさ〜い。ハンコックお姉ちゃんの熱が上がったらどうするのよ!騒ぐんなら外で騒いで!」

ナミが騒いでる二人を叱る。
仲良く言い合いをする二人の姿は微笑ましいのだがナミはそれが気に食わないみたいだ。
嫉妬……というものじゃろうか……私とナゴミさんは平等にマサヤに愛してもらっていてそれそれが本気で真剣な気持ちで思ってもらっている事を知っているから羨ましがることはあっても嫉妬することはない……
けど、ナミに対するマサヤの態度は歳の離れた子供に対する感じのものであるからだろう…あれはあれで、本気で大事にしてることがわかるんじゃが……ナミにとっては不満なんじゃろうな………
まぁ…マサヤも大きくなってもナミの気持ちが変わらないんなら責任は取るから知っといてくれって言っておったしな……その辺は心配せんでもいいじゃろ……

というわけでこの後は4人で雑談をして、少しするとナミとナゴミはマサヤに病人を襲うなよと忠告して部屋から出ていった。
そして、それから1日中、ハンコックはマサヤと穏やかな時間を過ごした。







(SIDE ナミ)

「はぁ………」

「まぁ、元気そうでよかったじゃん?薬も飲んだことだし、あの調子だとすぐに元気になるだろうな。」

とナゴミさんは笑いながら話す。
まったく……自分の男が病人を抱きしめて寝ていたのになんでこんなに飄々としているんだろう……ハンコックお姉ちゃんもナゴミさんとマサヤの会話を聞いて笑ってたし……なんだかよくわからない………

「というより……」

「ん……」

「……せっかく、薬草取ってきたのに………」

「ああ、もう、愛の力で治され……って私を睨むな。」

そう…私も少し、マサヤの力を借りたとはいえ、頑張ったのに……
まぁ……マサヤと二人で島を探索出来たから楽しかったから無駄ではなかったけど……
と思い、昨日の出来事を思い出すナミ。





そう……あれは昨日のこと。

「……で、ニョン婆。ハンコックの病名は?」

「うむ。これは……」

「これは…………?」

「なんと……ただニョ、風邪じゃ。」

ドテッとわざとらしくこけるマサヤ。
聞いてみるとこれはお約束のリアクションというものらしい。

「でも、結構苦しそうだぞ?」

「この島ニョ風邪は強力じゃからニョう……まぁ、蛇姫の耐久力なら安静にしておけば、大丈夫じゃろう」

「薬とかないの?」

「あるにはあるが…材料がないニョじゃ。」

「材料?私が取ってくるからニョン婆、教えてよ。」

「まぁ………この周辺の島じゃし、今のナミなら危険はないか………」

「そうだな。俺もついて行ってやるし、問題ないだろ」

マサヤもついてきてくれるらしい。
これってもしかして、デート……いや、駄目だ。
ハンコックお姉ちゃんの為の探索なんだから浮かれてちゃ駄目!

「それでな、薬に必要な薬草は………」

カゼナオル草。
アマゾン・リリー特有の風邪を治すために必要な薬草の名前らしい。
そのまんまだと思うけど、島の名前とかでもよくあることだし気にしない。
場所も本当に近くの島だし、すぐにマサヤの船に乗って行くことにした。

-33-
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