【第五十五話 虹と炎】
(side ナゴミ)
「わ、妾とマサヤの子供の名前……」
「おーい、ハンコック〜帰ってこ〜い……ってダメだな、こりゃ……」
困った顔をしながら恍惚としているハンコックを揺さぶるマサヤ。
しかし、ハンコックは夢の世界に旅立っており、当分帰ってくる様子はない。
……最近は結構耐性がついてきてたと思ってたんだけどな……っていうか
「なんで、んなこと突然言い出したんだよ?」
私はマサヤの隣に座り、彼を問い詰める。
まぁ……こいつが変なこと言い出すのはいつものことなんだけどな、さっきだって……
ー10分程前ー
「ああ〜、食った食った〜。リエラもかなり料理の腕上げてきたな〜、俺も負けてられんわ。そうだ!ハンコック、ナゴミ、今日晩飯何がいい?今日は俺が作ってやるよ。」
「私はお前が作るもんならなんでもいいぞ。まぁ、たっぷり愛情込めて作ってくれや、カハハハ」
「妾もマサヤの愛情の込もった料理なら何を食べても幸せじゃ」
「まぁ……そういうと思ったわ。じゃあ、期待してろよ。絶対、美味しいって言わせてやるからな」
私の言葉に続いて幸せそうな表情で返答するハンコック、そして私達の言葉に満更でもなさそうに笑い腕をめくってみせるマサヤ。
「でも……」
「ん?」
「マサヤの作る料理は多いから、太らないか心配じゃ……」
そう言って、困ったように笑うハンコック。
まぁ、確かにマサヤの作る料理は多い、本人が言うには栄養とかカロリーもちゃんと考えてるから心配すんなとは言っていたけどあの量を見ると確かに不安になるのもしかたがないと思う。
「大丈夫、太らないから。それに多少、太ったとしてもハンコックは可愛いと思うよ」
「えっと……ありがと……ってそうじゃないのじゃ!」
まぁ……いつも通り少しずれた返答を返すマサヤではあるがハンコックも嬉しそうな顔してるし問題はないか……多分、ハンコックが言いたいのはいつまでも自分の最高の姿をマサヤに見せたいってことなんだろうけどな……
「まぁ、いいじゃん。っていうか子供生む時はどのみちお腹が大きくなるんだしさ、俺はどんな姿のハンコックだって好きだよ」
う〜ん……やっぱり、なんか違う気がするんだけどなぁ。
でも、ハンコックを見てみると雷に打たれたかのようにピンと背を伸ばして固まってるし……どうするべきか……
「わ、妾とマサヤの子供……」
「まぁ、いずれはお前らが嫌じゃなければな……家族でも作って平穏に暮らしてみたいなとか思うわけよ」
「わ、妾は賛成じゃ!」
「ハンコック……ってなんで私まで入ってんだよ?」
「いや、お前も俺の妻なわけだしさ。なんだかんだ言って、おまえと一緒にいる時って居心地いいしさ。きっと面白いと思うぜ?」
そう言って、笑うマサヤ。
確かに彼と同じくマサヤと一緒にいる時間は自分にとっても至福の瞬間であるし、問題はないのだが……
「まぁ、考えておいてやるよ」
すぐに同意するのはなんか負けた気がするので私は話をはぐらかす。
「マサヤ!」
そんな私達に突然声をかけるハンコック。
「妾はいつでもよいぞ!すぐにでも……」
「待て待て、いずれって言っただろ。ハンコック、今は……ってハンコックは子供がどうやってできるか知ってるのか?」
「?」
可愛く首を傾げるハンコック。
やはり、知らなかったみたいだ……でも、知らせると……あれだろうし、さて、マサヤはどうやってこの状況を乗り切るんだろうか。
そうして、ナゴミがワクワクしながら見守る中マサヤは口を開き、
「まずな……子供の名前を決めるんだ」
「名前?」
「そう、自分の名前っていうのは生きていく中でずっと一緒にいるものだろ?だからそれはその子にとって親からもらう最初の宝物なんだ。だからそれを長い時間をかけて考えていかないといけないんだ」
「そうか……」
ほぅ……なかなか上手いこと言うな……
「ちなみに俺は男の子なら蓮、女の子なら蓮華がいいと思う」
「おい!」
せっかく、感心してたのにこの馬鹿は……
「わ、妾とマサヤの子供の名前……」
しかし、ハンコックはマサヤの言動に突っ込むことはなく、ブツブツと一人、自分の世界に入り込んでいた。
というわけで現在に至るわけなのだが……
「ま、流れだろ」
詫びれもなく笑うマサヤ。
「それにな……最近、ちょっと考えてることがあってな……」
「何をだよ?」
「いや、血以外にも人から人に受け継がれるものってあるんだなぁ……ってさ……」
妹達の修行に付き合って感じた彼女たちの変化、そして久しぶりに見たナミの変化を嬉しそうに語るマサヤ。
「ほんとにな……昔は泣き虫だったアレグレットがな……」
そう言って、懐かしそうに目を細めるマサヤ。
確かにマサヤの思いを受け継いでアレグレットは強くなっただろう…だがそれ以上に彼女が昔から抱いていたマサヤへの好意は強くなっているはずなのに……この男は……
「はぁ……」
「どうしたんだよ?」
「いや、なんでもない。まぁ、アレグレット達以外にもお前の意思っていうか思いを継いでる奴いるだろ?あいつは元気かなぁ……」
「あぁ、ユサか……懐かしいな。まぁ、元気にしてるだろうが……どこいるんだろうな……」
男には厳しいマサヤの唯一の弟であるアレッサンドロ・D・ユサを思い出し、私は天井を見上げる。
まぁ、マサヤが認めているだけあって、彼は強いのでそんなに心配はいらないのかもしれないが彼は運が悪いというか苦労人であり、そこだけが心配であり楽しみだった。
「ま、楽しくやってんじゃねぇか?ユサだしよ……」
黒髪の女性を引き連れ、今もトラブルに巻き込まれているであろう彼を思いながらナゴミは楽しそうに呟くのであった。
(side ユサ)
その頃、東の海のある名も無き島では今後の世界を大きく変えるであろうひとつの出会いがあった。
「綺麗ね。キャンプファイヤーみたい」
「はぁ……」
自分達の船が燃えているのに暢気な感想を述べる相方にため息をつきながらも俺は船から必要な物を取り出す。ついでにこの船を燃やした原因となっている男も掴み、陸へと上げる。
「ぐッあ?……」
顔面から地面に叩きつけられて変な声を出す男。まぁ、憎めない性格の奴なんだがそれで全てが許せるはずもなくこれは俺の怒りってことで……
「よいしょっと……こんなもんかな……」
海楼石や食料、服などを陸へ上げ終わり、俺は燃えていく船を見ながら腰を下ろす。
ここは無人島であり、当然人はいない。
まぁ、でも全く船が通らない場所というわけでもないので数日もすれば民間船にでも助けてもらえるだろう。
「すまねぇ。ユサ」
そう言ってくるそばかすがありながらも精悍な顔立ちをした青年ーポートガス・D・エースは申し訳なさそうに謝ってくる。
彼とはこの島の近くにある街で出会い、意気投合して不思議な石碑があるこの島に案内してもらったのはいいんだが……
「いいって。気にすんな。まぁ、頼んだ俺も俺だしな……」
「そうよ……彼も半分くらい悪いから気にしないで」
そう言って、笑うロビン。
その言葉には棘がなく、ただ事実だけを述べているわけなんだが……
「それってそんなに難しいのか?」
「あぁ、最近食ったばっかりでよ。なかなか制御ができねぇんだ」
そう言いながら拳を炎に変えようとするエースだったが拳だけではなく腕全体が燃え盛り、火花をこちらに散らしてくる。
「あちぃって。お前、もう静かにしてろ!」
火花から逃げ出すようにエースの周りを回るユサ。
「あぁ、花火みたいで綺麗ね」
そんなふたりを見ながらロビンは独特の感性でそう呟いていた。