小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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美奈の家に着くと、早速美奈が母、大沢を呼び出した。
大沢は聖弥を見て一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに無表情へと戻し、その横にいる美奈を少し睨みつけた。
そんな大沢に、聖弥は早速質問をした。
「あの、すみません。僕が父に包丁を向けたという噂は誰から聞いたんですか?」
その質問の後、大沢は再び美奈を睨みつけた。
美奈は、わざと下を向いて目を逸らしていた。
その様子を見ていた愛里は、口を挟んだ。
「そんなに美奈を睨みつけないでください。聖弥は包丁なんか向けてないんですから」
「え? 本当?」
「はい」
「ごめんね! 翔大君のお母さんから聞いたものだから、信用しちゃってて・・・」
「俺の母さん!? やっぱり最低じゃないか!」
翔大は大沢の言葉を聞き、母への憎しみが増した。
「翔大、まだお前の母さんと決まったわけじゃない。次はお前の母さんに会いに行くぞ!」
聖弥は翔大の肩を叩き、あっという間に外に出た。
愛里は礼儀を守りなさいよと言いたかったが、他の三人が走っていってしまったので「失礼しました」と大沢に一礼し、「待って!!」と三人を追いかけた。

二十分ほど経ち、ようやく翔大の家に着いた四人は、インターホンを押した。
すぐに応答があり、玄関の扉が開き、尾崎が出てきた。
尾崎は翔大がいることに驚き
「翔大! どこに行ってたの!」
と言い、翔大に近づいていった。
だが、翔大は逆に遠ざかり
「まだ母さんを完全に信用したわけじゃない。まだ帰ってはいないよ」
と言った。
尾崎は歩みを止め
「そうよね・・・」
とつぶやいた。
そんな尾崎に、翔大は真相を掴むべく質問をした。
「母さん、美奈のお母さんに、聖弥が父親に包丁を向けたって言ったんだよね?」
翔大の口調は鋭かった。
聖弥達から見ると、親が子供から説教されているような感じがし、新鮮だった。
尾崎は翔大の確信に迫った問いに嘘はつけないと判断したのか、黙って首を縦に振った。
翔大は質問を続けた。
「じゃあ、母さんはその噂を誰から聞いたんだい?」
「・・・私自身が作ったデマよ」
「え!?」
「でも、誤解しないで! ちゃんと理由があるのよ」
尾崎は慌てて言った。
「なに?」
「これは聖弥君のお父さんに従ってやったことなの。私は彼の計画に従うしかなかったのよ」
「計画って?」
「彼は聖弥君を完全に孤立させたかったようね。理由は分からないけど。おそらく聖弥君が楽しい思いをしていることが気に食わなかったんじゃないかしら?」
「・・・・・・」
聖弥は自分の父がこんなにも酷い男だということにショックを受けるのと同時に、怒りが湧いてきた。
尾崎は話を続けた。
「私は彼に逆らえない理由があった。翔大には本当に申し訳ないけど、私は浮気をしていたの。その浮気相手と一緒にいるところを写真に撮られて、その写真を公開されたくない一心で、私は彼に従った。でも、今は違う。浮気もやめたし、聖弥君のお父さんに従うこともやめた。翔大を失うぐらいだったらそんな写真なんか公開されたっていい! ごめん・・・翔大・・・」
いつの間にか尾崎は涙で顔がグシャグシャだった。
そんな母を見た翔大は、尾崎の側へ近づき
「もういいよ。・・・ただいま」
と言った。
そして、尾崎を連れて家へと入っていった。
愛里と美奈は、翔大の親子が元通りになって良かったと思っていたが、聖弥を見てその気持ちが一変した。
いつもは感情を表に出さない聖弥が、拳を震わせて、嶮しい表情をしていた。
愛里は聖弥に駆け寄り
「大丈夫?」
と訊いたが、聖弥は内にある怒りを懸命に撃ち殺したような声で
「しばらく一人にさせてくれ」
と言ったきり、どこかに行ってしまった。
愛里と美奈は一度お互いの顔を見つめ合い、どちらも同じ気持ちであることを悟ると、急いで聖弥を追った。
聖弥の精神状態がかなり危険であるということに間違いなかった。

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