小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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聖弥は気持ちを落ち着かせようとしていた。
怒りに震える拳をポケットに入れて隠し、下を向いて歩いた。
気がつけば数十分歩いていた。
着いたのは海だった。
幸い、誰もいない。
「うあーーーーーーーーー!!!!!!!」
「うわーーーーーーーー!!!!!!!」
聖弥は思いっきり叫んだ。何度も何度も叫んだ。
心の中にある怒りを、悲しみを、ストレスを、遠くに、遠くに弾き飛ばすかのように。しかしもちろんそれらは弾き飛ばすことはできず、聖弥の中にずっしりと、重くのしかかったままであった。

「ハァ・・・ハァ・・・」
そのうち叫ぶことに疲れ、大の字になって砂浜に横たわり、空を見上げた。
自然と涙が溢れてくる。
「なんで・・・なんで俺はこんなにも不幸なんだよ・・・俺が何をしたっていうんだ・・・」
聖弥は自分の運命を呪った。
空からは聖弥の気持ちを表すかのように雨が降り始めた。
その雨はしだいに激しくなっていき、豪雨となった。
海は荒れ始め、波が高くなっていった。
気温も低下していき、聖弥の身体もガタガタと震え始めた。
聖弥は寒さを紛らわそうと、再び叫んだ。
「うあーーーーーーー!!!!!!」
その時、もう一つの叫び声が・・・いや、二つの叫び声が聞こえた。
「うわーーーーーーー!!!!!!」
その声は愛里と美奈のものだった。
「二人とも・・・どうして・・・」
愛里は聖弥の隣に大の字になって横たわり
「ごめん、心配だったからついて来ちゃった」
と言った。
美奈も聖弥の隣に大の字になって横たわった。
そんな二人を一度見て、再び空を見上げた聖弥は
「なあ、三人で叫ばないか?」
と言った。
愛里と美奈は同時に
「うん」
答えた。
その返事を確認した聖弥は、目一杯息を吸い込んだ。
愛里と美奈も同じように息を吸い込んだ。
そして、三人は同時に叫んだ。
「うわーーーーーーーー!!!!!」
その叫び声はいつしか笑い声に変わっていた。
「一人で叫ぶよりも、三人で叫んだほうがスッキリしていいな」
「でしょ?聖弥は一人で抱え込むからダメなんだよ」
美奈はそう言って聖弥の震える手を握った。
「私達がついてるからさ!」
愛里も聖弥の手を握った。「そうだよ!」
「愛里・・・美奈・・・」
聖弥は何かを考えているようだった。
しばらくすると、急に「よし!」と言った。
聖弥は大きな決断をしたのだった。
そして、その内容の一部を二人に話した。
「俺、決めたよ」
「何を?」
「父さんとちゃんと話してくる。正直、ここまで嫌われてるとは思わなかった。俺を友達から孤立させようとするし、友達まで巻き込むし・・・」
「大丈夫なの?」
「ああ!」
聖弥はニッと笑うと、二人の手を離して立ち上がり、雨の中を走っていった。
二人にはこの笑顔の裏に隠されている、もう一つの大きな決断を知ることはなかった。

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