小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

入学した当時、母は病気にかかっていなかったが、兄からの虐めが酷く、この時もかなりのストレスが溜まっていた。
そのため、友達がいないこの時期、聖弥からは負のオーラのようなものが出ていて、誰も近づこうとはしなかった。
入学してから二週間が経った頃、授業ではようやく全てのオリエンテーションが終わり、普通の授業が始まっていた。
聖弥は家庭のこともあってか、オリエンテーションも普通の授業も寝ていた。
注意されることは多かったが、それでも寝続け、先生には呆れられた。
そんな日々が続いたある日、聖弥は中学生になってから初めて話しかけられた。
その話しかけてきた人物が・・・愛里だった。
最初は「何で毎回寝てるの?」や、「勉強大丈夫?」などの質問ばかりだったが、時が経つにつれお互いのことを知り合うようになり、仲良くなっていった。
最初に出来た友達が愛里だったのだ。

自分がもうすぐ死ぬとなると変なことを思い出すんだな、と聖弥は思った。
そして、三時間目が始まった。
三時間目は道徳だった。
教室に先生が入ってきて、プリントを配り始めた。
配られたプリントの題名を見ると「家族について」と書かれてあった。
「それでは、これからあるビデオをながします。それを観た後に、家族についてどう思ったか発表してください」
先生はそう言うと、テレビの電源をつけ、ビデオをながした。
聖弥はビデオを観ながら内容をまとめた。
「主人公が反抗期で、親に対してうざったいと思っていたが、母が突然病気で倒れ、初めて今まで母から受けた愛情を実感する」
聖弥は、このまとめた文章をプリントに書いた。
だが、それについての感想は書けなかった。
このビデオを観ても家族のありがたさは全く分からなかったのだ。
「それでは、感想を発表してもらいます。じゃあ、珍しく起きてる聖弥君。起立して発表してください」
聖弥はまだ感想は書いていなかったので、自分が家族をどう思っているか発表した。
「僕は・・・家族が大嫌いです。一番そばにいる最悪な人間だと思っています。父は暴力をふるい、友達から僕を孤立させようとした。そんな僕を慰めるわけでもなく、奴隷のようにこき使う兄。そして、自分勝手で何もしてくれない母・・・。
僕は、他の人の家族を見ると、とても羨ましく思いました。親に対して敬語を使うこともなく、親しく話している楽しそうな親子。そして、子供のためにと一生懸命働き、愛情を注いでくれる優しい親。
・・・本当に羨ましかった。なぜこんな家庭に生まれたのかと、自らの運命を恨みました。だけど、恨んだところで何も変わりはしない。そんな魔法なんてこの世界のどこにも存在しないのだから・・・」
教室は重苦しい空気に包まれていた。
それはそうだろう。
普通は家族の良さが分かりましたというような感想を述べるところなのだから。
「あの・・・聖弥君。あなたの両親だって・・・」
先生の慰めの言葉が終わらないうちに聖弥は叫んでいた。
「じゃあ! どうすれば僕の家族は良い家族になってくれるんですか! どうしたらこの苦しみから逃れることが出来るんですか!
何をしたって変わらないんだ・・・。誰が何をしようと無駄なんだよ!」
聖弥はそう言うと、教室を飛び出した。
皆が自分を呼ぶ声が聞こえてきたが、どうでもよくなっていた。
一人になりたかった。
教室ではパニックになっていた。
「おい! 先生! どうすんだよ! 聖弥は家族のことで心に大きな傷があるんだ。それを質問にするなんて信じられねえよ!」
翔大は先生を責めた。
愛里は涙を流し、美奈は顔を手で覆い「どうしよう・・・」と繰り返し呟いていた。
「まさか、こんなことになるなんて・・・」
先生も混乱し、聖弥に質問したことを後悔していた。
「そんなとこでボーッとしてないで車でも何でもいいから、聖弥を追えよ!」
翔大は必死だった。
「そうですね。ちょっと行ってきます!」
先生は教室を出ていった。

-15-
Copyright ©zebiaps All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える