小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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聖弥が入院してから数日が経った。
聖弥は未だに幻覚症状が治らず、薬で眠らされる日々が続いていた。
そのため、面会は断られ続け、愛里達三人は聖弥が治るように祈ることしか出来なかった。
学校では、聖弥がいないことで三人どころかクラス全体の空気が重く、先生までもがそれに影響された。
特に、担任の先生は、『自分が聖弥君をあんな状態にしてしまった』と自らを責め、酷い時にはうつ状態で学校を休むほど精神状態が悪化していた。
聖弥が入院することで、周りの人達の幸せが失われていくのだった。

そんな日々が続いたある日、愛里達三人は警察署の前まで来ていた。
今日は警察による事情聴取の日である。
彼らはこの日をずっと待ちわびていた。
なぜなら、上手くいけば聖弥を辛い家庭から救い出せるかもしれないからだ。
この日のために彼らは聖弥の家庭に関することを紙にまとめ、準備をしてきた。
この機会を逃したら次はもう二度とないだろう。
これで救い出せなければ、もし仮に聖弥が一時的に理性を取り戻したとしても、またストレスが溜まって同じ状態かそれ以上になってしまうだろう。
それだけは何としてでも避けなければならなかった。
「よし。行こう」
翔大の力強い声に後押しされ、三人は中へと入っていった。
中に入ると、三人は周りを見回した。
すぐ近くに受付をすると思われる場所があり、少し先にベンチが用意されてあった。
建物の大きさの割りに入口は狭く、通路が続いてるだけだった。
三人は受付で何かをするのかな、と話し合っていると、ベンチに座っていた男性の警察官が立ち上がって三人に声をかけてきた。
「尾崎さん、中村さん、大沢さんですね?」
三人は同時にその男性の顔を見ると「はい」と言った。
「私は小林と言います。よろしくお願いします。それでは、これから色々訊きたいことがあるので、場所を移動しましょう。私についてきてください」
そう言うと小林は奥に向かって歩き出した。
三人は黙って彼の後を追った。

たどり着いたのは小さな部屋だった。
中央に机があり、向かい合わせに椅子が置いてある。
小林は手前の椅子に座ると、向かい側の椅子を指差して「どうぞ」と言った。
三人は言われた通り椅子に座った。
三人が座ると、早速事情聴取が始まった。
「さて、私がまずお訊きしたいのは聖弥君の家庭のことなんですが、知っていることを全て話してください」
愛里は待ってましたと言わんばかりに、ポケットから聖弥の家庭事情について書かれたメモを取り出し、彼に渡した。
小林は二分ほどそのメモを見続けた。
彼の顔が見るほどに深刻な表情になっていくのが愛里達にも分かった。
「これは・・・本当かい?」
「全て真実です」
美奈がはっきりそう言うと、小林は「そうか・・・」と呟いた。
「かわいそうに・・・。こんなに辛い日々を送っていたんだね。これならあの状態になってもおかしくはないよ。酷いものだ。我々はこんな状況に置かれている少年に気がつかなかったのだから・・・」
「彼は何度も何度も辛い目に遭って苦しんでいるんです。幸せに近づくことは一切なく、不幸なほうへと人生を歩んでいます。彼は誰かに頼っても無駄だと決めつけ、辛さを自分の中に閉じ込めてきました。私はこの機会を通して彼を幸せなほうへと近づけてもらいたいのです。そうでなければ・・・彼は・・・もう・・・」
愛里は涙声で「駄目かもしれません・・・」と言った。
「そうですね・・・。我々が彼を救い出して見せます!安心してください」
「お願いします!」
翔大は深く頭を下げた。
こうして三人は警察署を後にした。
聖弥が救い出されてくれることを祈って・・・。

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