小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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雑談も終わり、一時間目の授業が始まった。
いつも通り授業はもくもくと進んでいったが、授業の終わりのほうで、美奈が「先生、具合が悪いです」と言った。
翔大は「大丈夫か?」と訊いたが、美奈は黙ってただ先生の返答を待っていた。
先生が「保健室行ってこい」と言い、美奈は教室から出ていった。
愛里は、さっき話している時に反応が薄かったのはそのせいかと思った。

病院へ着いた小林は、すぐに目撃者である看護婦に会いにいった。
「お仕事中すみません。警察の者です。聖弥君が刺されるところを目撃したのはあなたですね?」
患者の血圧を測っていたその看護婦は、小林のほうを振り向いて
「はい、そうです」
と答えた。
「早速お話を聞かせてほしいのですが、お時間いただけるでしょうか?」
「ええ。ちょっと待ってください」
しばらくすると、「ピピ」と音がし、血圧が測定された。
看護婦は血圧計を手早く箱にしまうと
「それではここでお話しするのもあれですから、場所を移しましょう」
と言った。
「そうですね」
小林は別の部屋へと移動する彼女の後を追った。

しばらく歩くと、看護婦は立ち止まり、ドアを開け、部屋へと入っていった。
彼女は素早く二人分の椅子を用意すると「どうぞ」と言った。
小林は「ありがとうございます」と言い、その椅子に座った。
「それでは、早速本題に入りますが、あなたはあの現場で何を見ましたか?」
「私は、患者に呼ばれてその患者のいる病室へと向かっていたのですが、その途中で不自然な笑い声というか、奇声というか・・・そんな声を耳にしたんです。私は病院でこんな声が聞こえるのはおかしいと思い、その声が聞こえる病室へと向かいました。目にしたのは、被害者である聖弥君が刺されている光景でした・・・」
看護婦は話すのが辛いのか、下を向いた。
小林はメモを取りながら更に質問を続けた。
「そうですか。それは辛いですね・・・。刺していたのは昨日逮捕された木村一樹さんでしたか?」
「いいえ、違います。犯人はその人ではありません。それをお伝えしたくて連絡したんです」
「本当ですか!? ちなみに、その犯人の特徴とか分かりますか?」
「聖弥君と同じくらいの年齢でした」
「え!! 男性、女性どちらですか?」
「女性でした。私も襲われるかもしれないと思い、急いで逃げたので、服装や詳しい容姿は憶えてませんが、姿を見れば判別出来ると思います」
小林は愛里、美奈の姿を思い浮かべた。
「あ、ちょっと待ってください。本人は父親に刺されたと言っていましたが・・・」
「それは、幻覚だったのではないかと思います。彼は人の声や姿などが全て家族に見えてしまうという症状が起きていたので、彼女の姿が父親に見えたのでしょう」
「なるほど・・・。あ! この病院に監視カメラはありますか?」
「あります。監視カメラが管理されている部屋に案内しましょうか?」
「ええ。よろしくお願いします!」
小林は不安を隠しきれなかった。

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