小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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「具合が悪くて帰りましたよ」と生徒に言われたため、小林は美奈の家に来ていた。
チャイムで美奈の母を呼び出した小林は、早速美奈の所在を確認した。
だが、返答は分からないとのことだった。
「困りましたね・・・」
部下が残念そうに呟いた。
「ああ・・・」
「どこに行きます?思い当たる場所はありますか?」
「いや・・・」
小林は首を横に振った。
「まさか、また病院に行って聖弥君を刺してるとか・・・いや、まさかねー」
「いや、そのまさかかもしれない!行くぞ!!」
小林達は病院に向かって走り出した。

「ちょっと待て!!」
聖弥は包丁を振り上げた美奈に怒鳴りつけた。
「理由が分からないのに殺されるのは流石に報われない。せめて、それだけでも教えてくれ」
「・・・・・・」
「頼む!」
美奈は少し考えた様子を見せた。やがて、包丁を下ろし、語り始めた。
「私が転入した時覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。なんか、暗い感じだったのが印象に残ってる」
「暗いか・・・。まあ、そりゃそうだよね。逃げてきたんだから・・・」
「逃げた?」
「ええ。私が転校した理由は、ある男から逃げるためだった。・・・と言っても、あなたにはその男のことは分からないから、言っても仕方ないわ」
「そうか・・・」
「私はその男のせいで人が信用出来なくなり、一人の時間が欲しいと思うようになった。だから、友達が誰もいない見ず知らずの学校に行こうと思った。しばらく一人でいたかったから、友達を作らないようにワザと話しかけられても無視したり、ボソボソ喋ったりした」
「だから、暗いように見えたのか・・・」
「ええ。ワザと暗くしてた」
美奈はワザとの部分を強調した。
「・・・俺はそんな美奈に積極的に話しかけた。何度も何度も・・・」
「そう。でも、それだけではここまで憎むことはなかった。聖弥があの男に似てきたのよ!」
「俺がどんなことをしたって言うんだよ」
「妙に優しいとことか・・・」
「別に普通だけど・・・」
「あの男のようにはめるつもりだったんでしょ!!」
「知らねーって!!その男が一体お前に何をしたんだ!」
「・・・・・・」
「言うのが辛いか。悪い。トラウマを思い出させてしまって」
「あんたがあの男のような人になる前に、殺しておくのよ!」
「そうか・・・。よく分からないが・・・」
聖弥はしばらく黙り込んだ。そして、美奈を見上げた。
「分かった。覚悟を決めたよ。殺せ。もともと俺は死ぬつもりだったんだ。それが、こんな風に命が延びてしまった。一人で死ぬより、友達に殺された方がよっぽど良いかもしれない」
「死ぬつもりだったんだ・・・。じゃあ、もう一つ教えてあげるわ」
「何だ?」
「あなたを友達から引き離そうとしたのも私。全てあなたの父親に頼んだ。私はずっと演技をしてたの。最低でしょ?私って」
「俺は辛いことには慣れてる。だが、他の人に迷惑をかけたのは許せねえ。俺が死んだら、ちゃんと償えよ」
「分かった。それだけは守ってあげる。いくわよ!」
美奈は再び包丁を振り上げた。
聖弥は目を閉じた。
「死ねーーーーーー!!!!」

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