小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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愛里の家に着くと、愛里は「ただいまー!」と言って中へ入っていった。
聖弥は、いきなり家内へ足を踏み入れていいのか分からなかったので、しばらく玄関前で立っていたが、愛里に「早く!」と手招きされたので、聖弥も「おじゃまします」と言って中へ入っていった。
愛里は早速、頼みごとをするために親のもとへ向かった。
ただボーッと立っているのも虚しいと感じた聖弥は、愛里についていくことにした。
二人は、親がいると思われるリビングに向かった。
そして、その中に入った愛里は、驚きの声をあげた。
「あれ? 何でお父さんがいるの?」
その声に気付いた愛里の父は、振り向いて
「あ、おかえり。今日は歯医者のところに行かなきゃいけなかったから、会社は休んだんだ」
と言った。
愛里は「なるほどね〜」と言うと、早速本題に入った。
「あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど・・・いい?」
「いいよ。何?」
「本当!? じゃあ、聖弥が遊べるようになるために、聖弥のお父さんを説得してくれる?」
「ようするに、遊ばせてくださいって頼めばいいんだな?」
「うん!」
「よし! 分かった!」
「ありがとう! 良かったね、聖弥!」
「うん。ありがとうございます」
「任せときな!」
そう言って笑顔を見せた愛里の父は、電話のもとへ向かっていった。
すると、そこに愛里の母が
「あ、おかえり。あれ? 聖弥君じゃない? 昼ご飯食べてないんじゃない?」
と言って入ってきた。
愛里は母の入ってくるタイミングの良さに内心驚きながらも
「そうそう。今日は聖弥の分も作ってあげてほしいんだけど・・・」
と言った。
母は気前良く「オッケー!」と言うと、エプロンを着けてご飯仕度を始めた。
その様子を見た愛里は、聖弥に
「じゃ、私は着替えてくるね」
と言い残して、リビングから出ていった。
その直後、鞄を部屋の隅に置いた聖弥に、母は
「聖弥君、何か食べたいモノある?」
とテーブルを拭きながら尋ねた。
その質問に「そうですね・・・」と考え込んだ聖弥に、母は笑いながらとどめの一言を言った。
「何でもいいは絶対になしよ」
聖弥は苦笑いを浮かべながら
「あ、はい。じゃあ・・・ハンバーグでいいですか?」
と答えた。
母は人差し指と親指で丸を作り、オーケーサインを出した。
「了解。ご飯はチャーハンだけどいい?」
「はい。むしろ嬉しいぐらいです。僕も手伝いますか?」
「偉いわねえ。でも大丈夫。休んでな」
「分かりました」
聖弥はそう言うとリビングのソファーに座った。
すると、愛里の父がリビングに入ってきた。
「聖弥君、説得しておいたぞ。十九時までに帰ればいいそうだ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いいって、いいって。聖弥君大変だし。たまにはくつろがなきゃ身が持たないよ」
そう言うと、愛里の父はリモコンを持ち、テレビをつけた。
テレビでは最近流行ってるらしい芸人が一発芸をしていた。
聖弥はその面白さに少し笑った。
学校以外で笑ったのは何年ぶりだろうかと思った。
「皆、ご飯出来たよ!」
愛里の母が大声で呼んだ。
「美味しそうですね」
と聖弥は言い食卓についた。
それにつられるように愛里の父と、私服に着替えた愛里も食卓についた。
「いただきます!」
皆でそう言い、一斉に食べ始めた。
「美味しい!」
「美味しいです」
「さすが母さんだな」
あまりの美味しさに三人とも口々に感想を述べた。
それを聞いた愛里の母は口元に笑みを浮かべた。
皆が食べ終わると、丁度翔大と美奈が家に到着した。
「おじゃまします」
と言って入ってきた二人が靴を並べたことを確認した愛里は
「これで皆揃ったね。じゃあ、私の部屋に行こっか」
と言って、三人を部屋へ案内した。
四人が遊んでいる間にあっという間に時は過ぎ、時刻は十八時になった。
「じゃあ、俺はご飯仕度あるから今日はここで帰るよ。楽しかったぜ」
聖弥はそう言って立ち上がった。
「そうか。頑張れよ、聖弥」
翔大はそう言いつつも残念そうな表情を浮かべていた。
「気を付けてね」
「明日、また会おうね」
愛里、美奈もまた、翔大と同じような表情をしていた。
「じゃ、明日な。おじゃましました」
聖弥はそう言って家を出た。
聖弥の背中はどこか寂しげだった。

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