小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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机を拭いた後、独特な臭いを消すためにいろいろな洗剤を机につけ、消毒した美奈は、ようやく席に座った。
だが、勉強道具を机に置けるはずもなく、ただただ汚らしい机をジッと見つめていた。
そのうち、授業が始まり、先生に
「大沢さん、用意する物があるでしょ?」
と注意され、美奈は仕方なく道具を机に置いた。
その様子を見たのか、周りが急にクスクスと笑いだし、再び美奈に不快感を与えた。

授業が終わり、給食の時間になっても美奈の悲劇は終わらなかった。
美奈が手を洗い、教室に戻ってくると、どこから持ってきたのか分からないが、カメムシを二、三匹持った男子が美奈の机の上に置いてある給食の上に、すり潰してかけたのだ。
美奈は、虫全般が大の苦手で、思わず悲鳴をあげてしまった。
カメムシをかけた男子は
「あっはっはっは!! きったねーーーー」
と言って、そそくさと教室を出ていった。
今の悲鳴を聞きつけた漲は
「大丈夫!? 美奈?」
と訊いてきたが、今の美奈は頭の中が真っ白で、言葉が全く出てこなかった。
しばらくして、美奈はこの給食を捨てようと決心した。
そこで、恐る恐る自分の席に近づき、皿を手にとると、急いでゴミ箱へと向かった。
「美奈さん! 何やってるの?」
突然、先生の怒声が響いた。
「食べ物を粗末にしたらダメでしょ!!」
その言葉に、美奈の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
「か、カメムシ・・・嫌だ・・・」
「早く席に戻りなさい! 食べるよ!」
クラス中が笑っていた。
美奈は重い足を何とか動かし、自分の席に戻った。
美奈が席に戻ったことを確認した日直は、大きな声で「いただきます!」と言った。
皆が、箸を手に取り、一斉に食べ始めた。
だが、美奈は違った。
箸を掴めない。
まるで手が棒になったようだった。
そして、そんな美奈に更なる悲劇が襲った。
「美奈さん? 結局、食べ物を粗末にするんですか?」
最悪だった。
先程の出来事で、先生に注目されていたのだった。
『・・・嫌だ・・・嫌だ! ・・・嫌だ!!!!』
心の叫びは誰にも届かない。
「早く食べなさい!!」
先生は更に美奈を急かした。
その声に焦った美奈は、震える手を机の上に持ち上げ、もう片方の手で箸を持たせた。
しかし、そこからまた手が動かなくなった。
「早く!!!」
先生は更に急かした。
周りの生徒が皆笑っている。
いつの間にか、美奈の目には涙が溜まっていた。
「嫌だよ・・・」
「早く食べなさい」
「だってカメムシが・・・」
「早く」
美奈はついに箸で食べ物を掴んだ。
そして、ゆっくりと口の前に持っていった。
「早く」
先生の更なる声で美奈はその異物を口の中に入れた。
「ウッ・・・・・・」
あまりの気持ち悪さに、美奈は嘔吐してしまった。
「汚ねぇぇぇぇ」
「やだーー」
「うーわ! あいつ吐きやがった」
どんなに周りに気持ち悪がられようが、今の美奈には関係なかった。
とにかく、この場から立ち去りたくて、教室を出ていった。

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