小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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聖弥が自宅に着いたのは十八時半頃だった。
「ただいま・・・」
返事をしてくれないと分かっていながらも、これからの自分を励ますように呟く。
そして、早速ご飯仕度を始めた。
聖弥が棚から皿を何枚か出してテーブルに置こうとした時、聖弥の父がキッチンに入ってきた。
聖弥は何をするのかと身構えていると、いきなりテーブルの上の皿を一枚突き出してきた。それは聖弥がいつも食事に使っている食器だった。
「これしまえ。今日はお前が食べる資格はない」
「え・・・」
聖弥は突然そう言われたので言葉を失った。なぜ? とそう思ったのだ。
「勝手に人ん家行って更に人の親をこき使って遊ばせてくださいだー? ふざけるのもいい加減にしろよ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「は? 何だって? お前は昔から声が小せえんだよ!」
そう言って父は突然聖弥のみぞおちを蹴飛ばした。
聖弥は後ろに吹っ飛び、頭を打った。
「グハッ! 痛てててて・・・」
聖弥は腹を抑えながら立ち上がった。
「お前は声をもっと出せんのか!!」
「出せます・・・」
「じゃあ何で出さないんだ?」
「・・・・・・」
聖弥は黙り込んだ。
聖弥は声が異常に低く、聞き取りにくいのだ。
テンションが上がっている時は大きくなるが、家庭内ではストレスの影響でテンションは低く、どうしても声が小さくなってしまう。
そんな理由は父に言っても無駄だと分かっていたので、あえて言わなかった。
「まあいい。とにかく、飯は抜きだ。三人分だけ作れ」
「はい」
聖弥は拳を強く握り、この家に生まれたことを恨んだ。
そして、ご飯を作り始めた。

三十分ぐらいかかってご飯を作り終えた聖弥は、家族一人一人に「出来た」と伝えた。
そして、聖弥のいない食事が始まった。
三人が食べている間、聖弥は愛里の家での時間がどれだけ幸せかを考えていた。
三人が食べ終わると、洗い場には沢山の茶碗やフライパン、鍋など大量の洗い物で溢れていた。
聖弥は『俺は食べてないのに・・・』と思いながらも一つずつ洗い始めた。
あまりの皿の多さにため息をつきながらも、一通りスポンジで擦ったので、ゆすごうとした。
その時だった。
手が激しく痙攣を起こし、皿を落として割ってしまった。
痙攣は極度のストレスのせいだった。
「なにやってんだ!!」
いきなり父が大声で怒鳴った。
「皿を割るな!」
父は再び聖弥の腹を蹴った。
聖弥は「うっ・・・」と言い腹を抑えた。
「もう一度割ってみろ。ただでは済まさんぞ」
そう言って父は部屋から出ていった。
聖弥は『こうなったのはあんたのせいだ!』と心の中で思っていた。しかし言葉には出さない。
そのうち痙攣も治まり、再び茶碗洗いを再開することになるのだった。

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