小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 新たな仲間を加え、和やかな空気が流れる。
 だが、長くは続かなかった。
「……頭」
 ふとブラウンが低い声で呼ぶ。おおきづちを構え、何かに警戒しているような仕草だった。彼女が冗談を言う性格ではないことを十分承知しているアランは、表情を引き締めた。
「どうしたんだい」
「揺れてる」
 ブラウンの視線は下を向いたり上を向いたりしていた。アランはその場に跪き、掌を地面に乗せる。眉をしかめ、さらに耳を当てた。
 何事かとスラリンとメタリンが連れだってやってくる。
「アラン? アラン?」
「キュル?」
「しっ。静かに」
 集中し、地面から伝わってくる音の正体を探る。
 ――ぎし。
 アランは目を見開く。ちょうどそのとき、天井から拳大ほどの石が落ちてきた。湿った音を立て、沼に落ちる。
「ヘンリー」
「おう。これはもしかしたらもしかすっと……」
 応える親友の額には脂汗が浮かんでいる。彼の視線は天井に向けられていた。
 直後。
 ぎし……ぎし、ぎしっ……ぎぎぎぎどぉおおおおおっ
「落盤だっ!」
「みんな逃げろ! 早くッ!」
 洞窟内で幾重にも反響する轟音に抗い、アランは声を張り上げた。いち早く反応したブラウンに比べ、スラリンは大きな音に驚いたのかおろおろと辺りを見回していた。すると隣にいたメタリンが噛み付いた。
「いったーッ!?」
「キュル、アランも言ってたでしょ! さっさと逃げるのよ!」
 意外に流暢にヒトの言葉を操り、スラリンを半ば突き飛ばすようにして走る。さすがメタルスライムだけあって、非常に素早い。アランもその後を追った。
 間一髪、もと来た細い道の中へ転がり込む。粉塵が怒濤の勢いで押し寄せてきたが、アランが機転を利かせ、バギによって粉塵を押し返した。
 やがて音は収まり、細かな塵がゆっくりと舞うようになる。視界が晴れてきた。
「ぷひぃー……危なかったぜ。まさか落盤が起こるなんてよ」
 額の汗を拭い、ヘンリーが言う。すると足元でメタリンがじっとりとした視線を向けてきた。
「もとはと言えば、あんたの呪文が原因なんじゃない。あんなところで派手な爆発呪文をかますから、ゆるくなっていた地盤が崩れたんだわ」
「……おぉ?」
「おぉ? じゃないわよ」
 ヘンリーはうろたえていた。まさかつい先程まで戦っていたモンスターが、こんなにも強気にぽんぽん喋る奴だとは思っていなかったためだ。その点、アランは落ち着いている。
「メタリンはこの辺りの地形に詳しいんだね」
「当然。ずっとここに住んでたんだから」
「ひとりぼっちですることなかったから、あちこちたんけんしたり、人間のことばをおぼえたりしてたんだよね」
「あ、あんたはッ。余計なこと言うな!」
 またがっぷりといく。スラリンが泣いた。
 ヘンリーが諸手を挙げる。
「やれやれ。まさかメタルスライムがこんなに気の強いお嬢様だったとはなあ。納得できるようなできないような」
「モンスターにもいろいろいるんだよ」
 ぎゃあぎゃあと再び言い争いを始めたスラリンとメタリンを眺めながら、アランは感慨深くつぶやいた。
 一向に収まる気配がない子どもの喧嘩に割って入ったのはブラウンだった。その小さな手で二匹を掴むと無理矢理引き剥がす。特にメタリンに対しては、突き刺されと言わんばかりに壁に叩き付ける。
「い、痛ったぁい! 何すんのよ!」
「うるさいわ」
「だ、だってスラリンが」
「うるさいわ」
「うぅ……わかったわよう」
 ずぼ、と壁から抜け出たメタリンがぼやく。
「もう、姐さんってば手加減ないんだから……」
「ね、姐さん?」
 とヘンリーが声を上げる。
「彼らからすればブラウンはお姉さん的な立ち位置なんだよ。きっと」
「……モンスター使いのお前が言うんだから間違いなんだろうがよ、何だってそんな平然としてられんだ? 俺なんかさっきから驚きっぱなしだってのに」
「いいじゃないか。楽しそうで」
 微笑む。するとブラウンがこちらを振り向いた。
「頭。道」
「うん」
 アランはうなずく。
 粉塵が次第に地面に落ちる。その先に見えてきたのは一変した洞窟の姿。
 落盤によって崩れた土砂が沼を埋め、通行できるようになっていたのだ。
「……この階と上の階の間の地盤は、一部が結構もろくなってたみたいなの。私は平気だったけど、ちょっと体の大きなモンスターが上を通ると、よくここに石やら土やらが落ちてきたわ」
 メタリンが説明してくれる。そして再びじろっとヘンリーを見た。
「そんなところに呪文で衝撃を与えたもんだから、もろい部分が一気に崩れたというわけね。もしあのままあそこにいたら、どうなっていたことか」
「あのよ。イオを使ったのはもともとお前を助けるためで、もっと言えばお前があの沼に突撃しなければあんなことしなくて済んだんだぜ?」
「う、うるさいわね。ちょっとした出来心じゃない。そ、それにこうして先に続く道もできたんだから、文句は言わないで欲しいわね!」
「お前、言ってることムチャクチャだぞ?」
「まあまあ」
 取りなしたアランが、何気ない仕草でメタリンを抱き上げた。慌てたように視線を巡らせる彼女に、アランは真剣な表情で言い含めた。
「でもいいかい、メタリン。ヘンリーの言う通り、君の行動に危ないところがあったのは確かなんだ。もうあんな無茶はしないね? 僕たちはもう仲間なんだ。あまり心配させないでくれ」
「う……」
「スラリン、おいで」
 呼ぶとすぐにスラリンが肩の上まで駆け上がってきた。
「さ。スラリンにまだ言ってないだろ? 助けてもらったお礼」
「い、今ここで!?」
「そ。今ここで。真っ先に助けに行ったのはスラリンなんだから」
「わ、わかってるわよ。それくらい」
 不思議そうにしているスラリンから視線を外し、彼女はぽつりと言った。
「…………助けてくれて、ありがと」
「はい。よくできました」
 アランはメタリンを撫でた。スラリンは嬉しそうに飛び跳ねていた。

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