小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 途中、最初の小部屋と同じような仕掛けを解いて新たな通路を発見する。そこは入口へと戻るための扉を開くものだった。
 アランはブラウンたちに指示し、筏でスラリンたちが待つ宿まで引き返させた。さすがにスミスを連れた状態で城内を移動するのは難しいと判断したためだ。城内へはアランとヘンリー、そしてスライムナイトのみで乗り込む。
「貴方は倉庫に侵入し、薬草を探すのです。ですが、あまり時間をかけないように。無理だと思えばすぐに飛んで戻るのですよ」
 スライムナイトはドラゴンキッズにそう言い含め、先に城内への階段を上がらせた。それからアランたちを振り返り、先へと促す。
 入口方向を横目に階段を上がる。その先は広い中庭の片隅に繋がっていた。どうやら地下への隠し階段のようになっているらしい。いつの間にか、空は薄く白み始めている。
「さて、どうするか。この時間じゃ、まだデールも玉座に座っていないだろうし」
「かといって、城内をあんまりうろうろしていたら怪しまれるだろうしね……」
 二人で知恵を絞り、とりあえず、あの秘密の梯子からかつてのヘンリーの部屋へと忍び込み、そこから折を見てデールに会いに行くことを考えた。
 と、そのとき。すぐ近くの扉が開いて、中からひとりの女性が出てきた。格好からしてこの城の下働きらしい。桶を持っているところを見ると、井戸に水でも汲みに行く途中なのだろう。
「あら? あなたたち?」
 咄嗟に身を隠そうとするも、女性がこちらを振り向く方が早かった。怪訝そうな顔をする彼女に対してどうごまかそうかとアランが冷や汗を流していると、
「なあ、あんたこの城の使用人か?」
「え? ええ、そうよ」
「ああ、良かった。助かったぜ。実は俺たち、この城の雇われ兵としてここに来たんだが、何せこれだけでっかい建物なんて見たことなかったからよ。迷っちまって……相棒とあっちこっちうろうろしてる内に中庭で閉め出されてしまったんだ。おかげであんたが来るまで、ここで一晩明かすことになっちまった……」
「まあ、そうなの」
 女性が気の毒そうに眉を寄せる。ヘンリーは彼女に見えないようにアランに向けて親指を立てた。このときばかりは親友の口の巧さにアランは感謝した。
 すると女性は、自分が出てきた扉を指差した。
「それならここから入るといいわよ。他の扉は、この時間だとまだ閉まってるはずだから」
「ほんとか? ありがとう、助かるぜ!」
「いいえ。でも、あなたたちが太后様に雇われた傭兵なら、急いだ方がいいわよ。今日は太后様直々に閲兵をされる日。遅刻すると大変なことになるわ」
「大変なこと?」
「文字通り、首が飛ぶってこと。よくわかってると思うけど、今この国で実権を握っているのは国王陛下のデール様ではなく、太后様。逆らえば命はないわよ」
 アランとヘンリーは顔を見合わせた。
「ちなみに、その閲兵ってのには陛下も来られるのか?」
「さあ。でも、噂じゃデール様はあまり国政に興味なさそうなご様子だから、お出でにならないんじゃない?」
「閲兵はどこで?」
「二階の大広間。デール様がいる謁見の間とは反対側だから、間違えないようにね」
「ありがと」
 手短に礼を言うと、アランたちは扉をくぐる。そこは厨房だった。いい匂いが部屋中に充満し、アランは思わずお腹を押さえた。
「飯は後だぜ、アラン」
「わ、わかってるさ」
「人間はなかなか不便な生き物ですね」
 それまでずっと黙っていたスライムナイトが言う。変化の石の効果か、彼が厨房を横切っても誰も気づかなかった。
 厨房を出て、使用人たちの通路を走り、さらに城内の回廊に出る。深い絨毯がくるぶしまでを包み込む。その感覚に、アランとヘンリーは思わず十年前を思い出していた。
「この辺は変わらねえな」
 ふっ、とヘンリーの顔に郷愁が滲む。
 それから二階に上がる階段を上り、まっすぐに国王の座す謁見の間へ向かう。途中、何人もの戦士とすれ違った。中には明らかに『まともじゃない』風貌の男も混じっていて、彼らが下卑た笑い声を上げながら城内を闊歩している様はとても異質に見えた。
 さらに走り、円形の大きな広間に出る。ここも記憶があった。このまま真っ直ぐ進めばヘンリーが住んでいた部屋、そして壁に沿って備え付けられた階段を上れば謁見の間だ。
 だが気になるのは人の少なさだ。ここに来てすれ違う人の数が極端に減った。見張りの兵の姿すら見当たらない。スライムナイトが「不用心ですね」とつぶやく。アランはどこか、深い寂しさがこの広間に漂っているような気がした。
 階段を上がり、さらに高台に設えられた玉座まで上がる。そこには出仕したばかりらしい国王と大臣のふたりだけがいた。
「何だお前たちは。謁見の時間にはまだ早いぞ」
 大臣が詰問する。アランたちは応えず、じっと国王を見た。
 まだ若い青年だが、身に纏う空気はひどく疲れている。表情に覇気はなく、豪華な衣装も借り物のようなよそよそしさがあった。
 痩せてるな、デール――ヘンリーがつぶやいた。
「それに、デール陛下は特別な貴人以外、誰ともお話にならない。早々に立ち去るが良い」
 大臣の言葉にデールは目を閉じた。彼の言葉を肯定するような仕草だった。
 だが、敢えてアランとヘンリーは玉座の前に進み出た。焦る大臣を無視し、じっとデールを見つめる。
「……」
「……」
「……」
「……そこの大臣から聞いたであろう。特に今日は誰とも話したくない。下がるが良い」
 疲れたように、それだけを告げる。
 そのとき、ヘンリーが小声で囁いた。デールにだけ聞こえるような声で。
「ですが陛下。子分は親分の言うことを聞くものですぞ?」
 ――デールの目が、大きく見開かれた。

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