【第一章】
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1 『ニート少女と世話好き少年』
夏だ。太陽がさんさんと人々を照らし、セミは自分の存在を主張するように大声でミンミンと鳴いている。
こんな気持ちの良いほど夏らしい日には、海にでも行きたい。
今度それとなく学校の友達を誘ってみようか、などと考えていると目的の場所にたどり着いた。
ここは海という言葉とは縁もゆかりもないような場所だ。
チャイムを押しても返事は無かったが、鍵が開く音がしたのでドアを引いて中に入った。
「今日は何しに来たの?」
彼女の名前は青海心音。あおうみここねと読む。ここねをしんおんって読まれるとすごい睨まれる。
彼女は学校にもいかず、ただただ家の中に引き篭もっている、いわゆるニートだ。
実際には学校に所属をしているので、正式にニート認定を受けたわけではないが生活そのものがすでに形作ってしまっているので、もうニート呼ばわりしてもいいだろう。
「暇だったからさ、遊びに来た。」
「なにそれ、何もないなら帰れば?」
「そう冷たいこといわないでさ。ん? 何読んでるの?」
「ゆ、悠には関係ないでしょっ!」
彼女は顔を真っ赤にして持っていた本を咄嗟に後ろに隠す。
しかし、隠すのが遅かった。俺の目は彼女が持っていた本の題名をしっかりと捉えていた。
『人と話すコツ56』
さすが引き篭もりのニート様である。人間関係が上手くいかなくて悩んでいるようだ。
「み……見たの?」
「安心しろ、見てない見てない」
心音はほっと吐息をもらし、机の上にあるファンタの缶に口を付けた。
「人間関係なら実践が一番だと思うぞ」
「ぶふぅっ!」
彼女は俺の顔面に勢い良くファンタを吹き出した。
あぁ顔がファンタで染まった。ベタベタする。
「やっぱり見えてたんだ!!私をだまそうとしたんだっ!!」
「ん、なんだやっぱり人間関係に悩んでるのか?それはもしかして自分で買ったやつか?」
俺は顔面にぶちまけられたファンタをポケットティッシュでふき取りながら答えた。
すると、心音が急に静かになる。
あ、これはまずい。心音が泣きそうだ。横にティッシュの準備をして、そこに手を添えている。
泣く準備万端ってやつですか。あとは……涙が出てくるまで…3、2、1
「うああぁぁぁっ! 」
やっぱり泣き出した。しかも予想以上の大声で。
「あぁ……そうだよなそうだよな。人間関係なんて悩んで当然だよな。実を言うと俺だって毎日悩んでるし。」
「うっさいうっさい! バカバカバカ!」
「悪かったって……。ほんとごめんな。」
彼女の頭に手を載せてなでてやる。こうすると泣き止むことを俺は知っているのだ。
「反省……しろよ……このやろぉ…」
「ほんとごめんな、お前の相談ならいつでものるからそれで許せ」
彼女は細い腕をまっすぐ伸ばして、俺の腹にゆっくりパンチをした。
そしてそのまま腹に拳を突きつけたまま顔だけを俯け、その体勢で止まった。
「ん……悠……許す……」
彼女は俯いたまま小声で言葉を発した
「ありがと心音」
なんだかんだいって彼女はかわいいのだ。