11『 逃走 』
今日は平日。
学校が終わり、いつものように心音の家でのんびりと過ごしている。
俺は心音の持っているダックスフンドのぬいぐるみを枕にして仰向きに寝転び、腕を垂直に伸ばして天井に付いている照明を隠すようにして漫画を読んでいた。
心音はというと、眉間に皺を寄せながら、部屋の奥にある少し大きめのデスクトップパソコンと睨めっこしている。まぁ、なんというか、相変わらずだ。相変わらずのニートライフだ。
そんな平凡で当たり前の光景があったのだが、突如インターホンの音が鳴り響く。
それと同時に大きな音を立ててノック連打をしてくるものだからたまったものじゃない。
その音にびっくりしてしまってイスから転げ落ちている心音は無視して俺は玄関まで足を運ぶ
「はいはい、誰か御用ですかぁー?」
家主でない俺が何故こんなことをしているんだろうと心の中で自己ツッコミをしつつ、ドアを開けた。
また、彼女が現れた――。
いや、正確に説明すると今回は彼女らだったのだが。
「助けてっ! かくまってっ!!」
「は?」
素で声が出てしまった。
彼女らというのはつまり、この間の電波妹と馬鹿兄だ。
二人は肩で息をしていて、理由は分からないがなにやら急いでいる様子だった。
「今、ヴィン……えっと、悪い人たちに追いかけられてるの! だから力を貸して!」
「わ、分かった! とりあえず中に入れ」
事情は分からないが彼らは今大変な状況に置かれていらしい。
「な、なに、なに!?」
大変な事態が起こっていることに気づいた心音はとことこと玄関まで小走りで走ってきた。
玄関で彼らを見た心音は瞬時に人見知りを発動し、すかさず俺の後ろに隠れる。
でも仕方ない。緊急事態ということらしいから、とりあえず彼らを家の中に入れよう。
「おい! あそこだ! あそこに兄貴がいるぞ! 」
そう思っていた矢先にマンションの下のほうから野太い男の声が聞こえた。 兄貴って何だ?
「まずいっ ここじゃだめだ! すぐに逃げるぞ!」
そんなことを言い出す金髪の特攻服。彼は妹の手を引いてそそくさと階段を下りていこうとする。
「あなた達も来なさいっ! もう巻き込んじゃったから逃げないと!」
「はっ!? どういうことだよ! ……ってちょっとっ」
兄と同じく金髪の妹は、俺達に向かって無責任発言をしながら俺の手を掴む。
流れにのって階段を降りることになってしまった俺は仕方なく心音の手を掴んで一緒に降りていく。
結局仲良く4人で手を繋いだまま階段を降りていった。なんなんだこれ。
「こっちだ! 商店街に逃げるぞっ!」
「あぁ! 分かった!」
先頭をきる金髪特攻服が大声で呼びかけた。
仕方なく俺達も彼ら兄妹の後を追って走っていく。
「くそっ! どうすればいい!」
俺達は、商店街の人ごみのおかげで少しだけカモフラージュできたかに思えたが、それでも人と人の間から時々姿が見えてしまっている。
「こっちー! 悠くんーっ! 心音ちゃんーっ! とその他ーっ!」
10メートルくらい離れた先から俺達を呼ぶ声がした。
ラーメン屋の前でバイトの格好をした女の子が大きく手を振ってる
……これは、なんという幸運。
「森村さんっ!」
森村さんはこっちに向けて腕を伸ばして親指をピシッと立てた。
今だけかもしれないが、森村さんが天使に見えた……!
「私にまかせてっ! 君達は後ろの倉庫に隠れるのだよ!」
俺達は頼もしい言葉に甘え、森村さんに指示された通りに、ラーメン屋の後ろにくっついている倉庫の中に入っていく。