森村さんに指示されたとおりにラーメン屋の後ろに隣接していた倉庫らしき場所に着いた。
倉庫の鍵は掛かっていなかったらしく、中にはすんなり入れた。
4人全員が倉庫の中に入り終わってから俺が扉をバタンと閉める。
「ふぅ……いったいなんなんだこれは?」
今まで感じていた疑問を兄妹に尋ねてみる。
「あー、えっとね、簡単に説明すると……」
そう言うと、彼女は倉庫の中にドスンと置かれている自分の身長と同じくらいの高さまで積まれていたダンボール箱の上に軽々と飛び乗り、腰掛けた。
「不良グループのリーダーだった兄を、メンバーが取り返しにきたってとこね」
俺は追ってきてた奴らが叫んでいた言葉を思い出した。
……なるほど。だからさっきの奴らはこの金髪兄を兄貴と呼んでいたのか。
「なるほど……そういやあんたらの名前は?」
何度か会ったにも関わらず、名前を聞いていなかったことに気がつく。
「あたしは、神ヶ崎友香。で、こっちのでっかいのが神ヶ崎恭介」
「そう、俺達は神、よろしくな」
ずいぶんと壮大なスケールで自己紹介をしてきた。
略しすぎだろ。
「友香と恭介、こちらこそよろしく。俺は、空下 悠。悠って呼んでくれ。そしてこっちは……」
心音が恥ずかしそうに俺の後ろからちょこんと顔を出す。
「ほら、自己紹介」
「う、うん。分かってるよっ……青海心音……です」
「よろしくお願いしますッ!心音さん!あ、俺、言われた通りクッキー持ってきましたよっ!」
恭介が心音の舎弟みたいな態度で接しているのが不思議だったが、そういえば前に遭った時心音が舎弟にしたとかなんとか言ってたな……。そしてクッキーを持ってくるとも言ってたな……。な、なんでこんな関係に?
「う、うむ、ご苦労……」
「心音さんのためならなんでも……っ」
恭介は床に膝を着いてからまるで忠誠を誓うのかのように腕を伸ばしクッキーの袋を渡す。
それを心音は堂々とした態度で受け取る。なんだこれは。演劇でも見ているかのような気分だ。
「何の茶番よ、これ。心音ちゃんがお姫様なの?」
ダンボールの上から、友香が少し起こったような口調で恭介に向かって言う。
それからそっぽを向いて小声で「ずるい……」と小声で呟いていたが、兄の恭介の耳には届かなかったようだ。
心音と恭介の茶番劇の最中に、森村さんが倉庫のドアを勢い良く開け中に入ってきた。
「さっきの追いかけてた奴らはみんなもうどこかに行ったよっ!」
興奮まじりにそんなことを言ってドヤ顔を浮かべる。
俺は本当に助かったよ!……と返そうと思ったのだが、彼女の視線を辿ると後ろで行われている茶番劇に釘付けになっている。
「お姫さまプレイ……? しかも悠くんとじゃない……!?」
彼女は憐憫な目でこっちを見てくる。やめろ、なんでこっちを見るっ?俺は関係ないぞ!
森村さんの心の中で、悠君かわいそうに と言ってるのが聞こえる。
「悠くん……かわいそうに」
ほんとに思ってたよ!口に出しちゃったよ!というか別にかわいそうじゃないだろ!
「彼に心音ちゃんとられちゃったんだね……悠くん……ご愁傷様です」
「かわいそう目で見るなっ!そして手を合わるな!」
「ナマステ……」
え、挨拶されたっ!?