12.『 作戦 』
「わ、わ、我々のグループの名前を宣言するッ!!」
「よっ!ボスっ!」
「心音頑張れー!」
「心音ちゃんファイトー!」
「……が、がんばれー、心音ー」
彼方のバイトをしているラーメン屋に隣接している倉庫の中で、ちょっとしたイベントが行われているのだ。
倉庫内にあるダンボール箱を朝礼台のように組んで、その上に心音が仁王立ちで立っている。その周りには、彼方、恭介、友香、そして俺の4人が取り囲むようにしてダンボールを椅子代わりに座っている。
「我々のグループ名は、しゃ、しゃどーっ!」
「「おおおおおおぉぉ!!」」
観客席から拍手が巻き起こる。
「シャドーか! 格好よくていいな!……英語で書くと、S A D O U か?」
「お兄ちゃん、それだと茶道だよ、お茶飲むやつだよ」
「そ、そうか! S Y A D O U か!」
「それだと車道だよ、車通るとこだよ」
……この兄妹はいつもこんな感じの会話をしているのか?
友香なんてツッコミというか淡々と間違いを訂正してるだけだ。
「そこで、我々の活動……の報告……じゃなくて、えーと、目的をおさらいしよう!」
心音がみんなに向かって台の上で宣言する。彼女の足は震えていて、その振動が台であるダンボールにまで伝わる。上に乗っている心音とシンクロしてるかのように僅かに揺れる。
――心音、大丈夫か?
俺は心音の近くに移動しようとダンボール椅子から腰を浮かせたが、近くに座っていた彼方がそれより速く心音のそばに駆け寄っていってしまった。
「大丈夫だよ! 私がついてる!」
「う、うん あ、あ、ありがと。 じゃあ……えーっと」
心音は彼方のエールを受け、僅かながらも緊張が解れたようだ。そして、改めて前に向き直り説明を始めた。
俺は浮かせた腰を静かに元に戻し、再びダンボール椅子に座る。俺はさっきよりも少しだけ深く椅子に座った。
☆
目的、これからの行動についての説明が一通り終わった。、
心音の説明を簡単にまとめるとこんな感じになる。
俺達のグループ 【 SHADOW 】 は、 恭介のグループ【 ヴィンテージヘブン 】、そしてそれに敵対しているグループ【 龍人隊 】に続いて第3のグループとして存在させることになる。
恭介が抜けた後のヴィンテージヘブンは弱体化してしまい、それに気付いた龍人隊は潰しにかかろうとし、抗争が始まってしまう。それを防ぐため、SHADOWを介入させ、両者の対象をSHADOWに向かせようと言う内容だ。
俺達SHADOWは名前の通り、『影』のように実体の無い存在。
敵が、SHADOWの存在を認識したとしてもそれが透明だったなら意味がない。
つまり、両者のグループにSHADOWという幻覚を見てもらうということだ。
まぁ、俺達のグループというより、架空の存在としてSHADOWを創りあげたというべきかもな。
で、まず何から始めるかというと。
「偵察、そして監視カメラの設置」
隣に座っていた友香が軽々と言い放った
「え、えらく本格的だな。そんなものあるのか?」
「あ、あたし、こういうの結構好きで色々持ってるのよね……」
どんなもの好きだよ。というかまだ中2だろっ!?
「心音っ! 偵察、監視カメラの設置、まずはじめにこれでいい?」
「あ、うん……えっと、お願い」
あ、いいんだ。
「ということで、悠! あたしの手伝いをお願いするわ!」
「お、俺!? 恭介でいいんじゃないのか? 腕っ節強いし、兄妹だし」
「おぉ? 俺の出番か! なんでも任せろっ! 魔王でも勇者でも何でもかかってきやがれっ 」
恭介は、ここぞと言わんばかりに立ち上がってそんなことを言った。
いや勇者は倒しちゃだめだろ。それ以前にそんな事は頼んでないっ。
「お兄ちゃんはだめっ! だってどっちのグループに顔知られちゃってるもん。黒豹ってあだ名まで付けられてるくらいだし」
確かにそうだな。そんなやつがの顔出しちゃまずいな。
でも、そうすると……なるほど、いけるのは俺くらいしかいないって訳だ。
恭介は 「そうか……」とうな垂れ、ダンボール椅子にドスンと腰を下ろす。
それを確認した友香は、キラキラとした目でこちらを見据える。そして、両手を自分の胸の前まで持ってきて、合わせた。
こんな拝むようにで頼んできているのだ。やはり男してここは退くわけにはいかないよな。まぁしょうがないか。
ん? 拝むように……?
「悠……ナマステ」
え、何、流行ってんのそれ!?