ということで、まずこのアジトの玄関ホールから監視カメラを設置していくことになった。
幸い、メンバー達は全員で3階に集まっているようなので俺達は見つからないように作業できそうだ。
友香は玄関ホールの端のほうで屈みこみ、工具箱の中に手を突っ込んで弄っている。
俺は、その場所から3メートルくらい離れたところに俺は見張りとして立った。
友香の監視カメラ設置作業の間、俺は特にすることも無い。
なんとなくポケットの中に手を突っ込むと、商店街主催の秋祭りのチラシを発見。
――なんでこんなのが入ってるんだ?
そういえば、最近商店街でビラを配ってる気がしていたが、これのことだったのか。いつも面倒だからと無視していたので気づかなかったな。
裏面を見ると詳細が書かれている。どうやら川原近くにある、わくわく広場に集まって焼き芋をみんなで作ろう、ということらしい。いろいろな味を付け足しして楽しめる様だ。
はちみつ焼き芋、イチゴ焼き芋、ラーメン焼き芋……
――ラーメン焼き芋!?
――それってアリなのかっ!? もしかして森村さんのとこのラーメン屋が……?
そしてふと、彼女の事を思い出した。
――この秋祭りに心音を参加させれば、人に慣れるかもしれない。
俺はそう思いながら、チラシをポケットに戻す。
そして床に向かって嘆息を漏らす。
――青海心音。
彼女は何者なのだろうか。
戦略シュミレーションの天才CHAPPYの話を聴いてからというもの、俺はそう思うようになった。
俺が心音と出会ったのは、1年前の夏だった。
☆
心音は、幼くしてほとんど親戚がいない。そんな環境の中、彼女の両親が事故で急死を遂げた。
そして彼女は以前から、学校を嫌い通ってはいなかった。だから友達もいなければ、知り合いもいなかった。
そうしたことから、手を差し伸べてくれる人は誰もおらず、彼女は孤独に打ちひしがれ、狭い狭い部屋の中に閉じこもった。
カーテンを閉め、太陽の暖かい光にも当たらず、薄暗い部屋の中でPCから発せられる青白い光だけを体に浴びていた。
そしていつしか、家にたまっていた食べ物は何も無くなり、ついに暮らしていけなくなくなった。
俺はこの時、今住んでいるこの町に引っ越してきた。
俺は高校生にして一人暮らしというちょっとした重荷を背負うことになったのだ。
俺は引っ越したこの街がどんな所だか知るために、街の中をぶらぶらとうろついていたが、いつの間にか迷子になってしまっていた。
「まずい……ここどこだ?」
周りを見渡すが、知っている風景が一つも無い。
それはそうだ。昨日この街に着いたばかりなんだから。
炎天下の中、歩き疲れた俺は、喉がからからに渇いていた。
俺は近くに稼動している自動販売機を見つけ、ファンタを一本買った。
喉を潤そうとファンタの口を開け飲もうとしたとき、すぐ近くの路地裏からドスッっと物音が聞こえた。
気になった俺は、ファンタを片手に持ったまま、路地裏に走る。
そこには、小柄で華奢な一人の少女がごみの山の中に、落ちていた。
上に見えるベランダから落下したのだろうか。
「お、おい大丈夫か!?」
すぐさま駆け寄って声を掛けてみる。
「だれ……? みず……ほしい……」
彼女は真っ青な顔をしていて体は痩せ細っていた。
細い腕を俺のほうにゆっくり伸ばし、俺の胸に手を当てた。
「み、水だな!?」
俺は手に持っていたファンタに目をつける。
彼女の体を片腕で支えて、もう一方でファンタを飲ませる。
「ん……」
彼女は口に吸い付くにようにして全部を飲み干した。
「あ、ありがと……」
「おう……」
それが心音との出会いだった。
それ以来、俺は彼女の心配をして時々会いに行くようにした。
その効果もあったのか、段々と彼女は元気になっていった。
それからというもの、俺は彼女と一緒にいることが多くなった。
彼女の家で一緒に遊んだり、別に何するわけでもなくただ一緒にいるだけだったり。
彼女の内にある心に触れられたような気がした。
そして、
――彼女の、一番の理解者は俺なんだ。
いつの間にか、そう思うようになっていた。