俺は友香の後を追って壁を上りアジトの外に出る。
そのまま走ってしばらくしたら、龍人隊はもう追ってはこなくなった。
「あぁ……疲れたっ!」
友香は仰々しく腕を上げ伸びのポーズを取る。
着ている服のパーカーのフード部分が猫耳みたいになっているので、そのポージングも猫の伸びにしか見えない。そして緊張から解けたからか「ふにゃぁ」と欠伸をして目を細める。
やっぱり猫だ。
「な、なに……?」
友香が怪訝な顔つきでこちらを見る。
「いやぁ、猫がいるなぁと思って」
口元を弛緩させ、執拗に周りを気にし始める友香。
いや、お前のことだからな。
SHADOWのアジト(森村ラーメンの倉庫)に戻ってきた俺と友香を待ち受けていたのは、たった今取り付けた監視カメラから得られた情報だった。
「俺の存在があらわになったぞ!」
帰ってきた俺達を出迎えたのは恭介だった。両の腕を180度広げ玄関前に立ちふさがる。
自己の存在アピールに必死すぎて何が言いたいのかさっぱり伝わってこないぞ。
「今、ヴィンテージヘブンに恭介がいないって知られちゃったの!龍人隊に!」
部屋の奥で椅子に腰をかけている心音が倒置法を用いて追加説明してきた。
めずらしくあぐらを掻かずに真面目に座っている心音からは真摯な態度が受け取れる。
「ということは恭介のいないことをチャンスに龍人隊がヴィンテージを攻撃するかもしれないってことか」
「そういうこと! だから、そ、その悠にもう一回お願いしたい!」
「なにをすればいいんだ、……ボス」
心音は一瞬だけ静止したがそれも束の間で、目を伏せがちにして質問に答える。
「SHADOWの名前を使って龍人隊を……騙してきてほしい」
椅子をくるっと回転させ後ろを向き、メモ用紙サイズの紙と机の上に転がっていた鉛筆を手に取る。そして手に取った紙に一文だけ書き入れる。書き終えた後、四等分に折ったその紙を俺に渡した。
「なんだ……これ?」
「龍人隊に混じって……そこに書いてるセリフを言って……ほしい」
……なるほど。確かにこれなら
もしかしたら矛先を逸らすことは可能かもしれない。少々危険が伴うがそれは致し方ないな。
「明日の朝、龍人隊がヴィンテージを攻撃するらしいの、だからその時に―― 」
「分かった」
「え、あ、……う、うん、お願い」
なんだか会話がぎこちない。どうしたんだろう心音。
――どうかしたの、俺?
その日は他に何をするわけでも無く解散した。もちろん俺もだ。
6畳の空間しかない家に帰って早速布団を敷く作業。布団を真ん中に敷くと、本当に寝るためだけの部屋だということが感じられる。
今までほとんど心音の所にいたからな。あぁ、でも今はSHADOWのアジトにいることのが多いか。そう思うと自分の家にいる時間も心なしか多くなっている気がする。いずれか俺の方がニートになってしまう日がきてしまうような気がしてきた。