明日の朝のスパイ活動のために今日は早く寝ようとして布団に潜り込んでいたら恭介から電話が掛かってきた。電気を消した暗い部屋の中で音を頼りに携帯を探す。確かな感触を感じて携帯だと確認できた。通話ボタンを押す。
「明日、俺も協力する」
唐突にそんなことを言ってきた。
「……有難いがそれは無理だ。お前は既に龍人隊に顔がばれてるんだ」
眠気を少しでも覚ますために窓を開け、心地の良い風に体を託す。
「そうだな、言い方を間違った。俺達ヴィンテージヘブンが手を貸す」
窓のふちに手を掛けたときに驚くような返答が返ってきた。
俺達?グループを抜けたんじゃなかったのか?
「ボスの指示でヴィンテージに戻ったんだ。駒としていつでも使える……とそう言ってたぞ」
駒?……どう使うんだ。というか何をするつもりか全然分からない。
というか、恭介がヴィンテージに戻ったら意味ないんじゃないか?
あぁ、問題は竜人隊の方だけって事か。
彼らを事実上消してしまえば、ヴィンテージが狙われることも無い。恭介も必要でないってことか?
それなら合点がいくが……
いや、だから消してしまうにはどうすればいいんだよ。
頭がごちゃごちゃしてきた。心音の考えてることが全く分からない。
とういうか、心音の事が良くわからない。
――はぁ。
……吹っ切れてみようか。
自分のこともだ。自分をゼロだと思え。何もなし。何も無かった。
携帯を持った手と逆の手が空いていたので思いっきりふとんの上から床を殴ってやった。
いや、理由にはなってないけど。
「おい、悠、大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと吹っ切れただけだ」
「吹っ切れた?」
「あぁ、そんなかんじ」
「……なんだか良く分からないが元気だせ、頼りたいときに頼っていいからな」
恭介に慰撫されるとはな。
「あぁ、ありがとう」
感謝の言葉だけ最後に付け足して電話を切った。
天井から垂れている蛍光灯のひもが外からの風で小さく揺れ動く。
それと同時に俺の心も揺れ動く。震える。
あぁ、なんていうか、俺が一番助けたいのは恭介でも友香でもなく、そして心音でもなく――
結局、自分なんだろうなぁ。そしてそれに気づいた自分に辟易した。
心が弱い俺は、心音を支えるふりして逆に支えてもらってた。
それに、心音とは不可分な関係にあると思ってたが、そうでもないようだ。
心音は自立できる。ニートになんてならない。曖昧にだがそんな感じがしてきた。
だからまぁ、とりあえず、寝よう。理由になってないけど。
そして、 ボス の言うとおりに動けばいい。ゼロからのスタートだ。
俺は、”また”一人になるだけ。昔に戻るだけだ。
心地の良い風に体を託していたが、もう寝る時間だ。大きく開いた窓を閉め、外からの風は止む。蛍光灯のひもは少しずつ揺れが止まる。さらにカーテンで外に点々としている僅かな光とも決別を図る。
「はぁ、明日が待ち遠しいな」
真っ暗な箱の中で小さく呟いた。