俺は龍人隊のスパイが終わった後、自分達のアジトに戻った。
森村ラーメンのがやがやした雰囲気を傍目にして脇を抜けアジトである倉庫に辿り着く。
「お疲れー!」
まず友香の声が部屋中に鳴り響く。
あぁ、と手短な返事だけを返し、その辺に積みあがっているダンボール箱を移動させ一つ椅子代わりにした。
奥の薄暗い空間の中でPCのモニターを見つめている心音は一瞬だけこっちを振り向き、目線が会った瞬間すぐに顔を元の位置に戻した。
マウスでカチカチと音を鳴らす。心なしかさっきよりクリックの回数が増えてる。
「どうだった? スパイ活動」
ボスである心音の代わりに彼方が俺に声を掛ける。
「あぁ、上手くいったよ」
「そうなんだ、良かった良かった! まぁ……私には良くわかんないんだけどね」
彼方ははにかんだ表情を浮かべる。
「心音ちゃん…… 」
俺に少しだけ接近して耳元で彼女の名前が呼ばれる。
なんだ、心音がどうかしたのか。
「すごく心配してた。こんなことさせなきゃ良かったって」
「そうか……」
心音は心配してくれていたのか、そうか。
心音の為ならなんでもしてやれるのに、だから心配なんていらないのに。
いつもなら逆だったのに。昔なら逆だったのに。
ちなみに俺が今回スパイ活動でした内容。
一つ目、龍人隊がヴィンテージに攻撃するのを邪魔すること。これは誤情報を味方に流して簡単に回避できた。
二つ目、龍人隊のリーダー、杉村帝斗を騙し、あたかも龍人隊が別のグループSHADOWに攻撃されたと思わせること。
あの校舎の玄関で倒れていた龍人隊、あれは本物の龍人隊じゃない。
あれはすべて龍人隊ではなく、恭介率いる”ヴィンテージヘブン”。
入れ替わりの激しい龍人隊の弱みに漬け込んだ作戦だ。
そして駆けつけた杉村帝斗と一緒にいたのは俺。
そして倒れている仲間のポケットに忍ばせていた、例の紙を取り出し読み上げる。
”彼らをやったのは我々SHADOW。以後お見知りおきを”
これで龍人隊の対象はすべてSHADOWに向く。これでヴィンテージが狙われることがなくなり、恭介が抜けても平気な環境が作られる。
しかし、まだ終わってはいない、次に龍人隊が起こす行動、それはSHADOWを潰すこと。
どんな方法でくるかは分からない。
ただ、SHADOWの次の行動は決まっている。龍人隊にSHADOWの圧倒的強さを見せ付けることだ。
ヴィンテージの黒豹を恐れていたようにSHADOWを脅威の存在に仕立て上げるのだ。
その行動を起こすには十分の余裕が残されていたはずだった。
龍人隊内部で一人の人物が彼の写真を撮る者がいなければ。
そしてその彼というのが”空下悠”