「 違うッ!! 」
断崖絶壁。そう思っていた壁の上のほうからその声を聞こえた。
手足を震わせ、生まれたての小鹿のように必死に立っている。
SHADOWと書かれた漆黒の服装をした心音がいた。
「な、なんで! なんでここに来てんだよ!」
俺は上を見上げ、心音に向かって叫ぶ。
「悠……わたしは、一人で大丈夫な人間じゃないよ……」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら彼女は言葉を紡ぐ。
「悠、最近、わたし……のこと、天才だとか思ってるでしょ……実はね、これギフテッドとかいう病気で、それで普通の人とは違う……うん、分かってる、気持ち悪いよ、こんなのが近くにいたら……」
「それは違う! 俺は別に気持ち悪がってなんかない!俺は、俺は、お前のすべてを肯定してみせるッ!! 」
俺は必死に叫ぶ。
避けてたのは事実かもしれないけど……そんなの俺自身が原因で……。
「あのね、わたし、悠に頼ってばかりじゃダメだと思って一人で色々頑張ってみた!勇気振り絞って、友達の助けってのをしてみたり、一人でできれば悠も褒めてくれるかなって…… でも、でも、やっぱりわたし……悠がいないと、不安で不安で心が張り裂けそうになって、結局取り返しのつかないことしちゃったり! ……やっぱりわたし」
「わたしには悠が必要なの……!」
雲に隠れていた月が顔を出す。
月光が反射してフードで隠れていた心音の顔が明るくなる。
涙を流しながらも、もう涙は出さないと固く誓ったような表情。
「心音……ごめんな、俺、自分勝手だったよ……」
「ううん、わたしの自分勝手……そして悠、わたしは頼るだけじゃない、悠がわたしを支えてくれたようにわたしも悠の支えにもなりたい…… 」
「心音……」
心音は涙を袖でふき取り、キリっとした表情で前を向く。
「 わたしは違うといったッ! 彼はSHADOWじゃない! わたしが、わたし達が本物のSHADOW!!」
俺を囲んだ龍人隊、さらにその周りにSHADOWと書かれた制服をきた人々が取り囲む。
その数はみるみると増していく。始めは龍人隊と同じほどの数だったのに……すでに2倍、いや3倍以上の数になっている。
見渡す限り黒、黒、黒。
龍人隊と同じだが、ひとつの違い、それは水玉模様。
月の光で反射した水玉模様はまるで宇宙にちりばめられている小さな星。
辺り一面を銀世界に染め上げていく。
「これがわたし達、SHADOW」
何者も取り込む真っ黒な影、ブラックホールをも彷彿させる。
3倍、4倍、5倍、普通ではありえない数の人々が集まる、集まる、集まる。
「な、な、な、なんだなんだ、なんなんだこれはッ!!」
龍人隊はブラックホールに吸い込まれるように中心に集まる。
「我々SHADOWを覚えておけ! これ以上悠に……!、……ヴィンテージに手を出したらただではおかない」
心音の指示によってSHADOWの面々が道を空ける。
「に、逃げるぞッ!」
リーダーの帝斗の指示で龍人隊はいっせいに広場から出て行く。
「ふぅ……怖かったぁ……」
上から声が聞こえる。
心音は嘆息をついて腰が抜けている。
「ん、う、うわぁぁぁああ!!」
腰を抜けたのが原因かバランスを崩し地面に落下する。
「危ないっ!」
俺は疲れ切って重くなった体を使って最後の力を振り絞った。
ヘッドスライディングするように思いっきりジャンプをしてギリギリで心音を受け止める。
「……………………悠?」
「大丈夫か? 心音」
「あ、うん、……あ、ありがと」
「お、おう」
「また、……わたし助けられた、昔もわたし落下したし」
「今回は俺が助けられたんだよ、心音」
「わ、わたしも、助けられた……!悠に完全に捨てられたと思ったもん……ッ!……ん、う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
心音は腕を俺の首に回し、容赦なく抱きつく。
痛い、痛い。
まぁ、今回はこれくらい許してやろう。
しばらく泣かせた後に、心音の頭に手のひらをおく。
ぽんぽんとなでると、泣き止んで顔をあげる。
こうして心音を撫でてやると、泣き止むことを俺は知っているのだ。