「可愛くてぬいぐるみ扱いしてます! すみませんっ!」
彼女は俺に謝罪をしつつも、心音で遊ぶことをやめる様子はない。
そしてぬいぐるみと化している心音は「私に謝れっ!」と憤慨して手足をばたつかせている。
「やめろぉぉぉ〜! ……悠〜っ!」
「あ……あぁ」
その光景に呆気にとられていた俺に、心音は早く助けろといわんばかりに困惑と恐怖が混ざったような視線を向けてくる。
「……そろそろやめてもらえますかね? 心音がかなり困っているので」
「あぁっごめんなさい! 心音ちゃんがあまりに可愛かったもので」
彼女は満足そうな表情を浮かべ、心音を膝の上から降ろした。
「うわぁぁぁぁっ! 悠〜っ!」
心音は怪物から逃げるようにその場から駆け出し、俺の背中の後ろへと回った。
しばらくすると俺の服を掴みながら、ひょこっと顔を出した。
「えっと、とりあえず君の名前は?」
突然ここに来て、ラーメンをぶっかけて、心音をぬいぐるみのように扱っていた彼女に質問をした。
「あ、はい 私 森村彼方 っていいます!」
「心音、知り合い?」
「え、いや 違う……」
「ただ可愛くて心音ちゃんに抱きついちゃっただけっていうか、心を打たれたというか……」
「はぁ……心音ってラーメン頼んだ?」
「頼んでないよ?」
どうやら心音はラーメンを頼んでないらしい。ならば何故ラーメンが届いたのか。
この森村彼方って娘の性格からしてもう答えはひとつしかないんだが。
「森村さん」
「なんでしょう?」
「多分ラーメン届ける先間違えてると思うぞ」
「え!?本当ですか!?」
「しかもそのラーメンぶちまけちゃったし。」
「あ!そうですねっ……まずいですねぇっ……すみませんお店に戻りますっ!失礼しますっ!」
森村彼方は慌てて帰る用意をして心音に、
「ばいばいっ また来るからねっ!」
と笑顔で手を振った後大急ぎで心音の家を飛び出していった
しばらくして遠くのほうで盛大にこけた音がしたが、気にしないことにする。
「また来るってさ 友達できたじゃん」
「友達?」
「あぁ、また来るっていってたから友達ってことでいいんじゃないか?」
「あ……うん」
心音は頬を赤らめて小さく頷いた。