3 『ぬいぐるみとお人形』
玄関のドアのインターホンを押してみると音が鳴らなかった。
何度も押してみるがカチカチ音がするだけで本来鳴るべきである音が鳴らない。
仕方がないのでドアをノックして心音の反応を待ってみる。
「…………。」
返事がない。
少し不安になってドアを開けようとすると、鍵が開いていたのかすんなりと開いた。
「心音……いる?」
玄関で靴を脱ぎ中に入ってみる。家に入るとクーラーが効いているせいか、とても涼しくなっていた。
部屋の中をぐるっと見渡してみるが、心音はどこにもいない。
その時、部屋の隅でごそごそと何かが動いた音がした。
音のした方向に視線をやると、人の足らしきものが見える。
心音の持っているたくさんのぬいぐるみの山の中からにょろっと2本足が生えていた。そしてふとももを擦りあわしてとても寒そうにしている。
「寝てる……のか?」
心音の上に乗っかっているくまのぬいぐるみを取っ払ってみる。
彼女は、まわりのぬいぐるみに溶け込むようにして眠っていた。
すぅすぅと寝息をたてて、幸せそうな表情で寝ていた。
ぬいぐるみ達に囲まれている心音はまるで、小さなお人形のように思えた。
それはとても可愛らしく、絵になるような光景だった。
寝ている心音の頬をつんつんとつついてみると、彼女は「うーん……」とうなって顔をしかめた。
心音で遊ぶのに満足した後、しばらく寝顔を見ていたらついに彼女が起きた。
「ん……ぅ……悠? ……来てたの?」
半覚醒状態でしばらく焦点が定まらないでいたが、数秒経って意識がはっきりしたらしい。
そして心音は顔を紅潮させ、「はぁ……」と溜息をついた。
俺が予想していた反応と真逆の反応だったために少し驚いてしまった。
てっきり憤慨し「見るなっ」などと怒鳴ってぬいぐるみを投げつけられるかと思っていたのだが。
「いつからいたの?」
「えっと、10分ぐらい前かな」
「ぅ……起こしてよ、恥ずかしい……」
「怒らないのか?いつもだったらなにか罵声が飛んできそうな気がするんだが」
「いや、あの……ちょっといい夢見てたから、その……今日は怒らないでいてあげる」
「どんな夢?」
「え? えっと悠が出てきて……あとは、何されたとかはもう忘れたっ!」
心音は顔をさらに紅潮させ叫んだ。
そしてこう言葉を続けた。
「悠は……その……お母さんやお父さんみたいにいなくならないでよ……?」
それは呟きに近いような小さくか細い声だった。
「大丈夫だよ 心音のそばにいる」
自分でも恥ずかしいと思うようなセリフだったので俺自身少し顔が赤くなるのが分かった。
「そ……そう、ありがと 」
「こんにちわ〜っ!! 心音ちゃんに会いに来ちゃいました〜!!」
勢い良くドアを開け、大声で声を張り上げる少女がそこにいた。
「……森村さん? あー、急に来るなよ」
森村彼方は俺達二人が顔を見合わせて真っ赤になっているのを確認して気がつく。
「え、あ、ごめんなさい……えっと……お邪魔だったかなぁ? 」
「いや、まぁ別にいいんだけど」
心音のほうに視線を戻すと、口を開けて石化したように固まってしまっていた。
「え、もしかして、二人ってこ、恋人だったりするのかな? わ、わたしずっと兄妹かと思ってたんだけど違うのかな? あ、もしかして兄妹だけどお互い愛し合っていて禁断の関係に……」
「落ち着けっ! 違うからっ! ただの……友達だよ!」
「そ、そうなんだ、わ、私は帰ったほうがいい?どっちがいいかな?」
「「ここにいていいからっ!」」
心音と声が重なった。