4 『図書委員及び飼育委員 森村彼方』
「心音ちゃん〜? あ〜んして?」
「…………。」
「ほらあ〜んして? あ〜ん」
「…………ふん。」
「森村さん……何やってるの……?」
「ごはんあげてるんですよ? 心音ちゃんかわいいから!」
森村さんは心音を膝の上に乗せ、家から持ってきたというチョコクッキーを彼女に食べさせていた。
一方心音はというと、あからさまにその行為を嫌そうにしている。が、しかし、目線を辿ると森村さんの持っているクッキーに釘付けになっている。
「んー、心音ちゃんクッキー嫌いかな? 」
「…………。」
「じゃあ、悠君にあげようかなぁ」
「え? 悠にあげちゃうの……?」
「うん、心音ちゃん食べないならあげちゃおうかなぁ」
「悠にあげちゃうくらいなら私が食べてあげてもいいよ……?」
「そうなの? じゃあ心音ちゃんに食べてもらおうかな? はいあ〜ん」
「…………あ〜ん」
結局食べるのかよっ!!
思わず突っ込みを入れそうになったが、言葉を口にせずにすんだ。
そして、チョコクッキーを満足そうに食べている心音のほうを見ていると、目が合った。
何故か心音が俺の顔をじっと見つめてくる。何か言いたげな顔だ。
「ゆ、悠にはあげないからねっ!」
「あ、あぁ分かってるよ」
どれだけ食い意地張ってるんだよ。
「そういえば、あの……悠君ってどこかで会ったことがあるきがするんだけど、気のせいかな?」
森村さんは心音にえさを与え続けながら、俺に質問をした。
「前に商店街で、俺が森村さんにかつあげされそうになった時のことか?」
「違いますよっ! 二つの意味で違いますっ! まず、私はかつあげなんてやってませんっ!! もうひとつは、それ以前に会ったことある……というか、見たことある気がするんですよ 」
それ以前……?俺は、商店街かつあげ事件の時が初見かと思っていたが違うのか?んー、でも確かに見たことはあるような気がするかも……。
森村さんは俺の瞳をじっと見つめながら、何か思い出そうとしている。
そして心音へのえさは与え続ける。
森村さんは何かに気づいたように「あっ……」と声を漏らし、やはり違うかといわんばかりに首を振る。
そしてやはり心音へのえさやりは忘れない。
森村さんはついに「思い出したっ」という表情をして、俺に向かって自信ありげに頷いた。
そして相変わらず、心音の飼育員、森村さんは心音の小さな口へとえさを運ぶ。
「学校ですっ!」
……学校?
「クラスとか違いますけど、絶対学校であってますっ! 成川高校ですよっ!」
あぁ……成川高校……確かに俺の通ってる学校だ。そういえば、いたかもしれない……?。
「や……やっぱり私のこと分からないですよね……。一応図書委員なのでよく図書室います。」
「図書委員なんだ」
「もう……絶対わかってませんよねっ! 悠くんっ!」
「あ……あぁ悪い」
思い出そうとしてみたが、全然分からなかったな。
「まぁいいです。 学校で暇な時間ができたときは図書室にでも来てください。」
「そうだな、今度行くよ」
「ところで……森村彼方? クッキーもうないの?」
俺が森村さんと話している間、大量にあった心音のえさがもうなくなっていた。
「あれ?もうなくなったの? 今度またもって来るね。」
「よろしく」
「いや……心音……なんでそんなにえらそうなんだ……?」
「うん、じゃあそろそろバイトだからもう帰るね〜」
「あぁそっか、ラーメン屋か、また届け先間違えるなよ〜」
「もう、間違えないよぉ!たぶん! じゃあねっ!!」
バタンッ!
扉が閉まって、暫しの間静寂が訪れる。
「あぁ森村さんがいないだけで、こんなに静かになるんだなぁ。」
笑い混じりに、思ったことを言ってみた。
「なっ」と同意を促すように心音のほうをみた。
彼女はニコッっと笑ってから、あぐらをかいていた俺の太ももを手のひらで2回トントンと叩いた。
そしてこんなことを言った。
「森村彼方っていい人かもね!」
「……お前の言ういい人ってのはお菓子をくれる誘拐犯とかも含まれる気がするなぁ」
「……?」
まぁいいか。