小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

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「田中さん、どうしましたか?」
母親は看護士だ。今もナースコールで呼ばれ、患者の所に来ていた。
「あ、すみません。夢を見て・・・。無意識に押してしまったみたいです。すみません。」
「夢?いったいどんな?」
「嫌な夢でした。鏡の中から、もう一人の自分が出て来る。そして、私を殺そうとするんです。」
「確かに嫌な夢ですね。でも、自分が殺される夢は何かいい事があるって、テレビで言ってましたよ。だから、そんなに気にしちゃダメですよ。」
患者は話しを聞いて、少し落ち着きを取り戻した。
「そうなんですか?なら、明日辺りいい事あるかな?」
そう言って笑った。
「そうそう。笑うのが一番ですよ。笑っていれば、絶対にいい事がありますからね。」
母親の口癖だ。
「本当に千代田さんはやさしいな。」
患者は再び布団の中に入った。
「じゃ、また何かあったら呼んで下さいね。」
「はい。でも、悪夢はゴメンですね。」
母親は病室の電気を消した。

一人、暗い廊下を母親は戻って行った。

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