小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

もっと早く気がつけば良かった。
僕がうまくいかない理由。それは鍵が開いていたからだと。向こう側とここを繋ぐ鍵が開いていたからだと。そして、鍵を閉めると言うのは、絶対に出来ない事なのだと。

誰かが棚を開けた。何にするかを悩んでいるらしい。隙間から見ると、僕と同い年くらいの女の子らしい。
なかなか決まらないようだ。店内の暖かい空気が流れ込んで来るのがわかった。
ケースの硝子に僕が映りこんでいた。
「ん?」
女の子と目が合った気がした。その時だ。信じられない事が起こった。棚にある飲み物が、彼女目掛け崩れたのだ。物凄い音。僕は何もしていない。目が合っただけだ。
「あぁ・・・。」
冷蔵庫の中でウロウロした。
そうしている間にも、叫び声は続く。先輩の声もした。
「千代田!手伝え!」
「あ、はい。」
慌てて冷蔵庫から出ようとした。しかし、慌てれば慌てるほど僕は駄目だ。床に置いてあった商品の段ボールにつまづき、激しく転んだ。
「あいたたた・・・。」
結局、僕が店内に向かった時には、先輩がほとんど片付けをし終わっていた。
「お前、何やってたんだよ?」
「あ、はい。すみません・・・。冷蔵庫の中で転んじゃって・・・。」
ジャンパーは抜いできた。だからこう言わなければ、誰も僕が冷蔵庫にいたとは思わなかったはずだ。
「冷蔵庫?あなた、冷蔵庫にいたの?」
さっきの客だろうか。腕を怪我しているようだ。僕に聞いてきた。
「あ、はい。」
「この人、私が開けた時に裏から商品を押したんです。それも思い切り。だから、あんな事に。」
もう一度言う。僕は何もしていない。
「千代田、お前。」
先輩の顔は、僕を犯人だと決めつけている。可愛い女の子と薄汚い僕となら、どっちの味方につくのかは決まっている。そして、この後どうなるのかも決まっている。お決まりのパターンだ。

だから、僕はバイトをクビになったのだ。

-3-
Copyright ©mz All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える