小説『魔法科高校の劣等生 〜不完全に完成した最強の魔法師〜』
作者:國靜 繋()

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 次に見に行ったのは第二小体育館、通称「闘技場」では剣道部の演武が行われていた。

 レギュラーによる模範試合は中々の迫力だった。

 中でも目に留まったのは女子部の二年生の演武だ。

 女子としてもそれほど大柄とは言えない体格で、二回り以上大柄な男子生徒と互角以上に打ち合っている。

 力ではなく、流麗な技で打撃を受け流している。

 しかも、彼女の方はまだまだ余裕がありそうだった。

 模範試合に相応しい華のある剣士だ。

 観衆も殆どが彼女の技に目を奪われていた。

 そして、あんな手の内を知り尽くした隠した相手に鮮やかな一本を決めた。

 あそこまで来ると中々面白い余興だったなと思ってしまった。

 観戦ゾーンを後にしようとした時、勧誘の口上とは別種のざわめきが背後から伝わった。

 対峙しているのは男女の剣士、言い争いの内容もハッキリ聞き取れる位置に居たので両者の名前は分かった。

 女子の方は、ついさっきまで試合をしていた壬生と言う名の先輩。

 男子の方は、桐原と言う剣術部の先輩だ。

 言い争いの雰囲気も悪化していき、張り詰めた糸の様な空気も限界が近づいてきた。

 桐原と言う先輩の口上が、開始の合図となり剥き出しの頭部目掛けて、竹刀を振り下ろす桐原。

 竹刀と竹刀が激しく打ち鳴らされる。

 悲鳴は、二拍ほど遅れて生じた。

 見物人達の中には、何が起こっているのか分からなかった事だろう。

 ただ、竹と竹が打ち鳴らされる音、時折金属的な響きすら帯びる音響の暴威から、二人が交える剣劇の激しさを想像するのみだ。

 少数の例外を除いて。

 鍔迫合いで一旦動きの止まった両者が、同時に相手を突き放し後方に飛んで間合いを取った。

 息とつく者と、息を呑む者。

 見物人の反応は、二つに分れた。

 現状を見るにどちらが勝つかと言われたら、壬生だろう。

 桐原は麺を打つのを避けている。

 初撃は、ブラフの意味を込めた一撃であり、魔法を使わないという制約を負ったうえで、さらに手を制限しているほど、実力に差はない。

 「おおおおおお」

 桐原が雄たけびを上げながら突進した。

 「相打ちか?」

 誰からの目で見てもそう思える場面であった。

 いつの間にか剣道部と剣術部がギャラリーの最前列にいるのが見えた。

 そして、凛とした表情で壬生が勝利宣言をする。

 その言葉に、桐原は顔を歪めた。

 壬生の指摘が正しい事を、感情が否定しようとしても、剣士としての意識が認めてしまっているのか、突如、桐原がうつろな笑い声を漏らした。

 傍から見たら「負けを認めたのか?」と思えてしまえる場面だ。

 しかし、そうは見えなかった。

 「真剣なら、か俺の体は切れてないぜ?壬生。お前は真剣勝負を望んでいるようだな。だったらその願い望み道理にしてやると」

 その言葉と同時にガラスを引掻いた様な不快極まりない騒音が闘技場中に響き渡り観衆はみな耳を塞いだ。

 悲鳴を上げる女子も居れば、顔を青ざめて膝をつく者も居た。 

 しかし、一人だけ平然としている者がいた。

 そう、龍弥である。

 幼少期から、あらゆるものを徹底的に仕込まれ、刷り込まされてきた龍弥にとって、この程度然程問題ではない。

 問題ではないと不快ではないは、勿論同義語ではない。

 つまり、不快なものは不快ではあるが、何ら支障が無いといった程度である。

 一足飛びに間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす桐原。

 片手の打ち込みに、早さはあっても力強さはない。

 だが、壬生はその一撃を受けようともせず、大きく後方へと飛び退った。

 当たってはいない。

 せいぜい、掠めた程度だ。

 しかし、壬生の胴には、細い線が走っている。

 竹刀が掠めて、切れた痕だ。

 竹刀に真剣の切れ味を与えているのは、振動系・近接戦闘用魔法『高周波ブレード』だ。

 「どうだ壬生、これが真剣だ」

 再び壬生に向かって振り下ろされる片手剣。

 その間に、いきなり誰かが割って入って行った。

 そして、間髪入れず割り込んできた生徒から、魔法が放たれた。

 今度は、見物人の中に口を押さえる者が続発した。

 乗り物酔いに似た症状が、急激に連鎖する。

 その代り、不快な高周波が消えた。

 桐原のしないと、割り込んで来た者の腕が交錯する。

 生じた音は、肉を打つ竹の音ではなく、板張りの床を鳴らす落下音だった。

 音と揺れから解放された、何が起こっているのか確認する余裕がようやく取り戻された見物人たちが見たのは、桐原の左手首を掴み肩口を膝で抑え込んでいる達也の姿だった。

 「たく、達也の奴目立ちたくないとか言っておいて、いきなり目立ちやがって。ガーディアンの職務や四葉との関わりに気付かれるようなことにならないといいな」

 誰にも聞かれず、気づかれる事もなく龍弥は呟いた。

 しかし、それを差し置いてなお、面白いものを見せてくれたな達也。

 そう思い、今にも笑い出しそうな風に口元を歪めた龍弥がそこにいた。

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