小説『魔法科高校の劣等生 〜不完全に完成した最強の魔法師〜』
作者:國靜 繋()

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 アクセス数が3万超えてました。
 こんな駄作をこれだけの方が読んでいただいていると思うと感無量です。
 コメントにて、アドバイスをいただけると幸いです。




 小体育館――――「闘技場」内での静寂を破ったのは、悪意が滲む囁き声だった。

 「誰だ、アイツ」「見たことないけど」「新入生じゃないか?」「見ろよ、二科生だ」「補欠がでしゃばってるのか?」「でも、あの腕章って」「そういえばあたし、二科の新入生が風紀委員に選ばれたって聞いたよ」「マジかよ、二科生が風紀委員」

 ざわめきは、剣術部が陣取っているあたりを中心に広まっている。

 囁かれる声に、男女の別は無かった。

 人垣を作る話の半分から、非友好的な視線が達也に投げ掛けられている。

 残りの半円は、ただ息をひそめている。

 圧倒的にアウェイな空気が押し寄せる中で、達也は桐原を組み伏せたまま、携帯端末の音声ユニットを取り出した。

 「―――こちら第二小体育館。逮捕者一名、負傷していますので、念のため担架をお願いします」

 大声を張り上げた訳では無かったが、達也の言葉は人垣の外側まで届いた。

 勇置いて、その意味が意識に浸透すると同時に、最前列にいた剣術部員の一人が、慌てて達也を怒鳴りつけた。

 「おい、どういうことだっ!?」

 気が動転しているのだろう。

 あまり意味のある問いかけではなかった。

 いや寧ろ質問ではなく恫喝だろうと思えた。

 「魔法の不適正使用により、桐原先輩に動向を願います」

 その怒鳴り声に対して、達也は律儀に答えた。

 あれじゃあ、相手を馬鹿にしているのと変わらないじゃないか。

 そう龍弥は、表情を周りに悟らせない程度に笑みを浮かべ、もう暫く傍観に徹することにした。

 達也が、危険にさらされるという事自体まずありえない。

 それが学生や一般的テロリスト程度なら、万が一にもである。

 だからこそ龍弥は、傍観に徹することが出来るのである。

 「おい、貴様っ!ふざけんなよ、補欠の分際で!」

 達也の胸倉に手を伸ばしてくる先輩を軽くいなした。

 相手の事を歯牙にもかけていない、と見えるその態度に、達也と向き合っている剣術部員は今にも歯軋りが聞こえてきそうな強さで奥歯を噛み締めている。

 「何で桐原だけなんだよ!剣道部の壬生だって同罪じゃないのか。それが喧嘩両成敗ってもんだろ!」

 人垣の中から援護射撃が放たれた。

 それに対して、達也は

 「魔法の不適正使用の為、ともうしあげましたが」

 平坦な口調で、またしても律儀に答える。

 無視すれば良い事に対して、律儀に応答する達也の様子に龍弥は、笑う事を堪えるのに必死だった。

 周りの数人に若干訝しげな表情を向けられたが、大多数の人が達也たちの方を見ているので然程問題にはならなかった。

 「ざけんな!」

 完全に逆上した上級生が、再び達也に掴みかかる。

 闘牛士のように身を翻してその手を逃れる達也。

 今度は拳を固めて殴りかかる、が、やはり達也に躱される。

 その剣術部員はムキになって次々に拳を繰り出しているが、徒手格闘は門外漢な上に逆上しているが故の雑な動作、達也ではなくても避けるのは難しくないだろう。

 軽やかなステップで大振りのパンチを躱し続け、相手の位置が入れ替わる。

 空振りに疲れた上級生の足が止まり、達也も合わせて足を止めた、ちょうどその時、人垣の中から、達也の背中に襲い掛かる剣術部その二。

 両手を中途半端に突き出した体勢は、羽交い絞めをねらったものだ。

 しかし、急は不意打ちでさえ、達也は余裕で躱して見せた。

 剣術部その二は、勢いを殺し切れず剣術部その一に突っ込み、二人は団子状態で派手に転倒した。

 闘技場内に再び静寂が訪れた。

 それから、一泊間を置き剣術部員たちは、一斉に達也へ襲い掛かった。

 悲鳴が上がる。

 ギャラリーだけでなく剣道部員までもが、巻き込まれることを恐れて蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 その様子を、遂に我慢の限界にきた龍弥が腹を抱えて笑い出した。

 ここまで、滑稽な事はない。

 しかし、周りの人たちは我先にと逃げ出しているので、笑い声は聞こえるが、誰の声かまで構っている余裕がないことが幸いだった。

 達也は、襲ってきた剣術部員たちに反撃はせず、その全てをいなし、躱して、あしらい続けた。

 身のこなしは、華麗と言うより堅実、達人たちが見栄え良くギリギリで躱すと言った芸当をするが、達也は危なげなく余裕をもって躱す。

 人垣の後ろの方では、すっかり頭に血が上っている剣術部員が達也へ魔法を放とうとしている。

 だが、魔法は発動しなかった。

 乗り物酔いに似た吐き気をもたらす揺れと共に、魔法式に成り切れなかったサイオンの塊が虚空に散っていく。

 訳が分からず八つ当たりで呪詛をまき散らしながら、なおも達也に掴みかかり殴りかかり、からまわり続ける剣術部員たちの滑稽な姿を笑いながら見続ける龍弥。

 そして、もう一人その様子を男子剣道部主将が興味深げに見ていたことに、龍弥以外気が付かなかった。

 少しの間乱闘騒ぎが起きたが、風紀委員の応援が駆けつけ事態は速やかに収束した。

 あの乱闘が速やかに収束されたのも偶々近くにいた風紀委員長の渡辺摩利が、応援に駆け付けたのが大きな要因だ。

 「中々楽しめたな」

 あんな騒ぎの中で、最も楽しんでいたのは、他でもない龍弥だ。

 余り目立ちたくないので、乱闘に参加できなかったのが不満であるが、さして問題ではない。

 もう暫くするともっと面白い事が起きるからである。

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