「あ、龍弥様」
深雪の声が聞こえたので、振り返ってみるとちょうど深雪がこちらに駆けて来ている所だった。
「お疲れ、深雪。生徒会の方は終わったのかい」
「はい。丁度終わったところです」
「それじゃあ、帰ろうか」
「はい」
周りから、若干羨ましそうな視線を感じたが気にすることなく深雪と二人並んで帰る事にした。
「龍弥様、部活動の方はどうでしたか?何処か入部するご予定でも?」
ある意味当たり前の反応をしてきた深雪に対して
「いや、興味本位で見て回っただけで、どこにも入部する予定はないよ」
首を横に振りながら答えた。
「そうなんですか?龍弥様ならどの部活動に入られても直ぐにいい結果を残せると思いますのに」
「俺はあまり目立ちたくないからね、頑張って努力している人にとって俺自身フェアな存在ではないからね」
そう笑顔で深雪に答えたが。
深雪自身、「しまった」と口には出さないまでもそう思ってしまったようだ。
俺の出自を知るのは、本当に一握りの存在だけだ。
暴露されたら困る訳では無いが、周りが騒がしくなるのは目に見えている。
だからこそ、今は目立ちたくない。
せめて、後半年、そう半年で何もかもが、盤石になり全てが解決する。
「それにもう少しだね、深雪」
一言である、しかし深雪は全てを知っているからこそ、全てを悟ってしまった。
顔を真っ赤にし俯いてしまったいる深雪が微笑ましくて仕方なかった。
「私も楽しみです」
俯いてボソッと呟いた一言は、龍弥には聞こえなかったが、その一言は深雪にとって紛れもなく本心から出た言葉である。
「だから、何が何でも深雪だけは守り通すからね」
「私も、龍弥様をお支え致します」
これは、お互いにとって誓いであった。
この誓いは、お互いのどちらかが死ぬその瞬間まで、守り通しその生涯を通して貫き通した誓いだった。
新入部員勧誘週間(と言う名のバカ騒ぎ)も終了し、静かな日々が戻ってきた。
「そういえば、聞いたあの噂」「え?どんなの」「ほら、剣道部と剣術部の乱闘騒ぎの」「何かあったらしいね」「それをたった一人で沈めたらしいよ」「え!ほんと」「あ、その話なら俺らも聞いた」「何か新入生のそれも二科生が沈めたらしいぜ」「ほんと」
学校全体で、達也の武勇伝が話題になっていた。
名前がバレていないのが、せめてもの救いだ。
実際、名前がバレた所で、真実に辿り着ける者がいるとは、思えないが何処から真実が暴き出されるかが分からないのが現実だ。
それに現在、七草や十文字と言った十師族が在校しているのが問題だ。
彼らなら若しかしたら真実に辿り着けるかもしれない。
もしそうなったら、とても面倒な事に為る。
真実を皆が知るには、達也にとっても四葉にとっても好ましくはない。
だからもう少し時期を置くべきだ。
「おはよう、龍弥さん」「おはようございます、龍弥さん」
「おはよう、ほのか、雫」
いろんな思考を張り巡らせていたら、ほのかと雫に挨拶されたとたん毒気が抜かれたかのようになった。
「難しい顔をされてましたがどうかしましたか?」
「いや、大丈夫だよ」
「そうですか」
まさか、心配されるとは思いもしなかった為、内心驚いた。
しかし、思い返してみると、この時間のこの平穏な一時がどれだけ貴重かを思い出し、今はこの貴重な一時に身を任せてみようと思った。