小説『魔法科高校の劣等生 〜不完全に完成した最強の魔法師〜』
作者:國靜 繋()

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 「さて、深雪帰ろうか」

 どうやら入学早々、上級生、しかも生徒会役員の不興を買ってしまったようだが、今のは不可抗力に近い。

 もとより、この程度でクヨクヨできるような順風人生を辿って来た訳では無いのだが。

 まだ十六年にも満たない人生だが、その程度のネガティブな強さを身に着けるだけの経験は有している龍弥だった。

 「すみません、龍弥様。わたしの所為で、龍弥様の心証を」

 「深雪が謝る事じゃないさ」

 表情を曇らせた深雪のセリフを最後まで言わせずに、龍弥は首を横に振って、ポン、と深雪の頭に手を置いた。

 そのまま髪を梳くように撫でると、沈んでいた表情が陶然の色を帯びる。

 傍らで見ていると中々キツイ甘さを感じさせる雰囲気を醸し出していた。

 そこは初対面の遠慮もあってか、ほのかも、そして雫も、その事については何も言わなかった。

 否、言える様な雰囲気では無かった。

 「せっかくですから、お茶でも飲んでいきませんか?」

 「近くに美味しいケーキ屋さんがあるらしいですよ」

 代わりに投げ掛けられたのは、ティータイムのお誘い。

 家族が待っているのではないか、と訊くつもりはない。

 こんな事を言い出した時点で、無用な気遣いだろう。

 それを言うなら龍弥達も同様だ。

 それよりも龍弥には、訊いてみたいことがあった。

 実にどうでもいい事なのだが、放置できない程度には気になってしまったのである。

 「何故、美味しいケーキ屋の当てが在るんだい?この近くに住んでいるのかい?」

 「いえ、この近くではないですよ。でも、美味しいスイーツが食べられるお店に当たりを付けるのは、女の子として当然の嗜みですよ」

 然も当然の如く雫は応えた。

 「当然なのか……」

 相槌のセリフが、呻き声になっていた。

 だが、それは誰が責められようか、と龍弥は他人事の様に思った。

 「龍弥様、どういたしましょうか?」

 どうやら、雫の発言にショックを受けているのは、龍弥だけだったらしい。

 深雪も、式場より甘味処を優先した非常識に、気を留めている素振りがなかった。

 「いいんじゃないか。せっかく知り合いになったことだし。同性、同年代の友人はいくらいても多過ぎるという事はないだろうから」

 とはいっても、同意見の回答自体はほとんど考え込むことなく返された。

 特に急いで帰宅しなければ為らない用事もない。

 元々龍弥は、深雪の入学祝に何処か適当なレストランで昼を二人っきりで済ませて帰ろうか、と考えていたのだ。

 深く考えられたセリフではないので、そこには彼の何気ない本音が表れている。

 「龍弥さんって、深雪さんの事に為ると自分は計算外なのね……」

 「深雪さん思いなんですね……」

 褒められているのか呆れられているのか、配合がそれぞれに異なる眼差しを前に、龍弥は苦い顔で黙り込むことしかできなかった。

 当の深雪は、雫の「深雪さん思いなんですね……」と言う発言に顔を真っ赤にさせていたのは余談である。





※深雪と龍弥を同棲させるかどうかどちらが良いか、コメントお願いします。
なかった場合は、必然的に同棲させますので、ご了承ください。

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