小説『魔法科高校の劣等生 〜不完全に完成した最強の魔法師〜』
作者:國靜 繋()

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 四葉家本家から連絡があってから数日が過ぎた。

 その間も暇を持て余すことなく過ごすことが出来た。

 特筆すべきことは、達也が風紀委員入りしたことだ。

 特に「二科生に勤まるはずがない」と言う声が、表面上にこそ出て来なかったが一科生のほぼ全員が思ったことである。

 後は、予想道理と言うか当然と言うか深雪が生徒会入りした事位である。

 深雪が生徒会入りした時は、「矢張りな」と思ったが、達也が風紀委員入りした時は、流石に龍弥でも驚いた。

 達也の性格的にも四葉での立場役割的にも、そんな悪目立ちするような役職に着く筈がないのである。

 実態は簡単なもので、風紀委員長が二科生のイメージ改善と言う建前の元スカウトと言う名の強制的に入会させたのである。

 そんな事を知る由もない龍弥は、少し悩んだが今更如何にもすることが出来ないので、為るように為るだろうとどこか投げやりだった。

 そして、今日から新入部員獲得合戦と言う名のクラブ活動勧誘が一週間続けて行われる。

 風紀委員になった達也や生徒会に入った深雪は忙しいだろうが、龍弥は特に何かに入った訳では無いので意外と暇なのである。

 仲良くなったほのかや雫は二人で部活を見に行っているようで、一人で見て回る事になった。

 「さて、一人寂しく見て回るとするかな」

 特に誰かに聞かせるわけでもなく呟いた。

 部活動の新入部員獲得合戦は、聞いてみるのとと実際に見て見るのとでは、大幅に違いがあった。

 そう、どの部活も優秀な新入部員を求めるのに文字通り必死なのである。

 それもそのはず、メジャーな魔法競技では、第一から第九まである国立魔法大学の付属高校の間で対抗戦も行われ、その成績が各校の評価の高低にも反映される傾向にある。

 学校側の力の入れようには、スポーツ名門校が伝統的な全国競技に注力する度合いと同等かそれを上回るほどである。

 九校戦と呼ばれるこの対抗戦に優秀な成績を収めたクラブには、クラブの予算からそこに所属する生徒個人の強化に至るまで、様々な便宜が図られるからである。

 有力な新入部員の獲得競争は、各部の勢力図に直接影響をもたらす重要な課題であり、学校もそれを公認、いやむしろ阿多押ししている感もある。

 かくして、この時期各クラブの新入部員獲得合戦は、熾烈を極める。

 そう、熾烈を極めるだけなら何も問題はないのだが、毎年密かに出回っている入試成績リストの上位者や競技実績のある新入生は、各部で取り合いになる。

 無論、表向きはルールもあり罰則も存在するが陰で殴り合いや魔法の打ち合い何てものも珍しくはない。

 それほど、必死なのである。

 さらに問題なのは、原則携帯禁止のCADが、新入生用のデモンストレーションの為に持ち出しが、建前上の審査はあれどほぼフリーパスで携帯を許可されている。

 その為の風紀委員なのだが、なまじ人手が足りなさ過ぎて手が回らないのが現状である。

 皮肉交じりではあるがまさに、猫の手も借りたいとはこの事である。

 そんな無法地帯を一人散策していると、いろいろと面白いものがあるもので、普通の学校とは違い基本的にはどの部も魔法主体で活動している。

 無論、魔法を使わない部活もあるがそれは、少数派だ。

 どこもかしこも魔法を使う部の方が、大多数で一科生の生徒達は自分の興味を持った部に積極的に説明を聞いたり質問を投げかけたりしており、中には肩身の狭い思いをしながらでも見学だけでもと言う二科生もいた。

 部の紹介をしている人たちは、一科生にばかり構い見学している二科生はいない者として扱っているようで、その光景に胸糞悪い気分になった。

 人は、自分より下の相手を差別したりする事で己を保っていると言っても過言ではない生き物だ。

 それに龍弥自身あらゆる面において、勝者であるからこそ、上から目線の同情をしてしまいさらにその考えに至ってしまった自分に対しての気持ちも含まれている。

 勿論ここで、介入しても良いだろう。

 しかし、それで改善されるとは思われない。

 それこそ良くてその場しのぎであり、庇われた方も今後が辛い事に為るのは明白である。

 そんな事を考え見ていると、見回りをしていたのであろう風紀委員の渡辺摩利が介入した。

 「そこの部活、二科生にもきちんと説明しろ」

 部活の説明をしていた部員にとっても、驚きであった。

 「いえ、彼は今来たばかりなので、今の説明が終わったらやろうと思っていたんです」

 若干声が裏返りそうになりつつも、何とか落ち着こうとしている様だが、寧ろそれは逆効果でしかなかった。

 人は、落ち着こう落ち着こうとすればするほど、落ち着きを失っていくものである。

 結果的には、その部活に特に御咎めはなかったようだ。

 どうやら、他の部も二科生に説明を怠る傾向にあるようだ。

 それにいちいち処罰を加えていたら限がない、さらに言うと特に校則に触るような事でもない様で、あくまで厳重注意で済んだようだ。

 確かに明確なまでに説明放棄しているならば、校則以前に人としてどうかと思うし新入部員獲得合戦のルールにも引っかかる。

 そんな事したら風紀委員や部活連の取り締まり対象になり懲罰委員会での懲罰対象にもなる。

 だからこそ、説明をしている部活の先輩たちは説明放棄とまでは行かずとも説明が、一科生に比べると雑になりがちである。

 そんな光景を見ながら此れからこの光景が当たり前になるのかと思うと中々気分は乗らなかったが、折角の時間を無駄にするのもあれなので他の部活を見て回る事にした。

 他の新入部員獲得合戦をしている部活を見て回る間、終始嫌な気分で居た、否居るはずだった。

 あの光景を見るまでは。

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