―――九鬼財閥極秘研究所―――
薄暗い部屋の中に無数に存在しているカプセル。
カプセルの前には数字が割り振られたプレートが掛けられている。
そのカプセルの内の一つを、一人の老婆が見つめている。
「まったく、嘆かわしいねぇ」
「何がです、ミス・マープル」
研究員の一人が、ミス・マープルと呼んだ老婆に問いかける。
このミス・マープルと呼ばれた老婆、『星の図書館』と謳われ、ありとあらゆる知識が詰め込まれているという老婆である。
「他の四人は上手くいったのに、如何して『コレ』だけは『こんな』になっちまったのかねぇ」
「さぁ? ミス・マープルに理解出来ないものを私には理解出来るはずありませんよ」
「少しは考えるという事をしないか。……まったく、嘆かわしいよ」
研究員は苦笑する。
『星の図書館』と謳われる知恵者が理解出来ない事など、しがない一研究員である自分如きが如何して理解が出来ようか。
「昔もこんな人間だったのかねぇ」
「イメージは寡黙って感じですけどね」
「扱いにくいったらありゃしないよ」
「……確かに何か禍々しいというか、神々しいというか………。あんまり近寄りたくないですね」
研究員が目を向けた先には、まだ人とも言えない形をした何かが、培養液の中に浮かんでいる。目と思われるモノは半開きでこちらを向いている。
その姿は妙に禍々しくもあり、神々しくもあった。
「……やっぱり強いんですかね?」
「さてね、クローンが全てを引き継いで産まれるとは言えないからねぇ。ま、弱くは無いはずさ」
「ですよねぇ。……しかし、何で『あの偉人』のクローンなんですか?」
「今の若者の見本には丁度良いと思ったんだけどねぇ………宛てが外れたかもしれないねぇ」
研究員はカプセルに繋がっているモニターを見る。
身長:180前後
体重:65〜70前後
性格:unknown
等、色々な情報が映っている。
「便利になりましたよねぇ。生まれてもないモノの情報がここまで解かっちゃうんですから……」
「全てが正確じゃないさ。DNAを解析していけば大体は予想出来る。でも予想は予想、絶対では無いのさ。こればかりはあたしにも解らないことだよ」
マープルが参ったとばかりに首を横にふる。
「出来ればあたしの目論見通りになればいいんだけどねぇ」
マープルが見つめる先には『検体番号1578番』と書かれたプレート。
その下には検体者―――
―――『上杉謙信』の名前が刻まれていた。