「そういえ・ば………与一・は・どうした・の?」
訓練を終えた謙信たちはシャワーで汗を流した後、自室へと向かっていた。
「サボり」
「また・な・の?」
「うぅ、義経の威厳が足りないせいだ……」
「主のせいじゃないよ」
「そうだ・よ。義経・のせいでは・ない・よ」
肩を落として項垂れる義経に励ましの言葉をかける二人。その際、弁慶の額に青筋が浮かんでいるのを確認した謙信は、与一の身を案ずるのであった。
「そういえ・ば・義経」
「ん、どうしたんだ謙信君?」
「この後、外・に出る・らしいけ・ど?」
義経たちはその出生ゆえに、むやみやたらに外に出る事は許されていない。しかし、この後の義経の予定は外出。しかももう日は暮れている。疑問に思った謙信は、直接義経に訊くことにした。
「ああ、九鬼君が東西交流戦というものに出るらしくて、義経も見てみたくなったんだ。義経たちの学友になる人たちの実力もみたいからな」
東西交流戦という聞き慣れない単語に首を傾げる謙信。詳しく訊くと、今度転入する川神学園と、西の川神学園といわれる天神館が対戦するらしく、それに興味を持った義経は九鬼公認の元、見学に行くことになったらしい。
「弁慶・は?」
「行かない、面倒」
「義経は何度も誘っているんだが面倒の一点張りで………」
「そう・なん・だ………」
「そうだ、謙信君も行かないか!?」
「僕・も?」
「そうだ、何か得るものが有るかもしれないじゃないか!」
謙信は考える。
確かに義経の言う通り、何か得るものがあれば謙信としては万々歳である。が、謙信唯一の弱点である睡魔が今まさに襲い掛かってきている。これでは交流戦を見る事が難しい。しかし、幾ら従者部隊が付いているからといって、義経一人で行かせるのは忍びない。結論に到った謙信は静かに「分かった」と頷く。
「いいの、謙信?」
「何・が?」
「時間」
「大丈・夫……だと思う・よ」
「はぁ……謙信は義経に優しすぎる」
「弁慶ほど・じゃ・ない・よ」
軽口を叩き合う弁慶と謙信。
「……ま、いいか。義経の事頼むよ」
「分かった・よ」
二人は考える。きっとおっちょこちょいの義経の事だ、交流戦に参加しようと無茶をするだろう。そして参加したは良いけれど、帰り方が分からない何て事も有り得るんだろうなぁ……と。
「謙信君、早く行こう!!交流戦が終わってしまう!!」
二人の考えを知らない義経は、祭りの日の子供の如くはしゃぎながら廊下を走っていく。
「かわいいなぁ主は……」
「面白い・よ・ね」
「これでまた川神水が美味い」
「飲みすぎに・は・気を・つけな・よ?」
「分かってるよ。もし飲みすぎても謙信に介抱してもらうから」
「考え・とく・よ」
主が主なら家臣も家臣で面白いなぁ、と心の中で思いながら義経の後を追う謙信であった。